.第7話:「やさしいキスをして」 (Side:Toko)

 「みっきーまうすー!!」

 遊園地のゲートをくぐったとたん、目の前に広がるおとぎ話の世界に、美和子の一人娘、真音(まお)がはしゃぎ声を上げて駆け出す。

「こらーっ、真音待ちなさい!!」
美和子が、どこにそんな力を秘めてたのか、はたまた母親は強し、なのか、
えらいスピードで愛娘を追いかけ、あっという間に捕まえる。
  
 やがて、旦那の桑原直登も追いついてきて、母親から逃れようと父親の方にかけよる真音。

「こらーー!ママの言うこと聞けない悪い子はぁ…こうするぞっ!!」
怖い顔とは裏腹に、あっという間に真音を肩車する桑原。
父親の肩の上できゃーきゃーはしゃぐ真音。

「もう、ホントパパは真音に甘いんだから」
そんなことをぼやきつつも、美和子も満面の笑みで二人を見守っている。 

そんな「家族の光景」を、あたしと亨はぼんやりと眺めていた。

「あー、ああいうのって、いいよねえ…」
思わず漏れたつぶやき。

「へぇ、瞳子もそんなこと考えるんだ」
亨が意外そうにつぶやく。

「何よ、何かあたし変なこと言ったっけ??」
と亨をにらみつけるあたし。

「いや、なんとなくなんだけど…瞳子ってキャリア志向って言うか…仮に結婚したとしても子供とか欲しがらない印象でさ…学生の時もそんなこと言ってなかったっけ?」

 その亨の言葉に、はっとした。

 確かに、どちらかと言うと子供は苦手で、結婚して子供ができたら、女はどうしても仕事を一時中断しないといけなくなる。
 今の仕事にやりがいを感じてるから、社会人になったらなおさら、
「結婚はするかもしれないけど子供はいらない」そんな考えでいたというのに。

 でも、美和子たち親子、夫婦の姿を見ていいな、って思えたのも嘘じゃなくて。
 自分の中で何か変化が起こってるのかな…いや、妹みたいな美和子が人の親になった感慨、
あの3人の風景がとてもステキだったからそう思っただけだろう、と思えたり。

 美和子たち親子、亨、あたしの5人で過ごす休日はとても楽しくて。
 今朝までの体調不良も忘れるぐらいだったのに、午後を過ぎるとそれがたたったのか、また気分が悪くなり始めて。

 でもここであたしが気分が悪いと言ったら、美和子たちは心配して、予定を中止して帰る、と言い出しかねないから我慢していたけど、とうとうたっているのもしんどい状態に。

「瞳子?大丈夫か??」
思わず立ち止まったあたしに気づいた亨が、かけよって来る。

「あーごめん、ちょっと気分悪いみたいだからちょっと休憩ね、皆で楽しんできて」そう言ったのに。

「いやお前残しとくの心配だからさ…ちょっと待ってろ」
亨は美和子たちのところに駆け寄り、何やら話をした後またすぐに戻ってきた。

「とりあえず、気分良くなるまではつきあうよ。
あいつらはあいつらで楽しんでくればいい、って言ってきたから、心配するな。…あそこの日陰で休もうぜ」
そう言うと、あたしを少し離れたあずまやに連れて行き、売店から冷たい飲み物やお絞りを持ってきてくれる。
それを申し訳ないと思いつつも、ベンチに横になっていたその時。

「亨!」

 向こうから、美和子ではない女性の声。
 その方向に目を向けて見ると、3人の女性グループがいて、その中の一人が亨に駆け寄ってくるのが見えた。

「何で亨、ここにいるの?今日は用事があるって言ったじゃない…その人、誰??」

亨に腕を絡めつつ、その女の子はベンチに横たわるあたしをじい、っと観察してるふうだ。

「田舎から幼馴染が上京して来る、って言っただろ?」
亨が絡められた腕を解きながら、吐き捨てるように言う。

「へぇ…」
彼女は疑い深げに、さらにあたしをなめるように見渡す。
ちょっといやな感じだな、と思いつつも亨の知り合いを無下に扱うわけにも行かず、
「あ、ごめんなさい。永井くんはあたしに付き添ってくれてるだけでなんでもないですから。他の人たちはあっちにいるの」
 なんでこんな言い訳しないといけないんだ…と思いつつ、とりあえず愛想よくしてみた。

「じゃあ亨、せっかく会ったんだからあたしたちも合流していい??」
再び亨に腕を絡めながら甘えたように言う彼女。

「勘弁してくれよ、今日ぐらいは」
亨の顔にははっきりとめんどくさい、の文字が浮かんでいるようで。
さすがの彼女もそれで諦めたのか、それでもしきりにこっちをちらちらと伺いながら、元いたグループに戻っていった。
あたしに、さりげなく敵意のまなざしを向けながら。


彼女たちが遠ざかるのを見送ってから、亨に聞いた。
「いいの?あんなこといって。彼女なんでしょ、あの子」

まあな、とつぶやいた亨の表情は険しくて。
「いいんだ、多分俺たち、時間の問題だから。…もううんざりなんだ、あいつには」

 基本的に人あたりのいい亨がこんな表情を見せることはめったにないから、
よほど思うところがあるんだろうなあ…と思ったけれど、口には出さずにいた。


 やがて、満喫しつくしたのか、美和子たちが戻ってくる頃にはあたしの体調も元通りになっていて。
 体調が悪かったのを除けば、とても充実していて、こんなに笑った一日は久しぶりだったかもしれない。


「瞳子ちゃん、今日は本当にありがとうね。次に会えるのは瞳子ちゃんが帰ってきた時かな??」

 夕食後、美和子たちが泊まるホテルに送り届けて、すっかり疲れて眠ってしまった真音を桑原がおんぶして、親子3人でホテルのロビーに消えていく後姿を、やっぱり、いいな…と自然に思えた自分がいた。

「あの親子、いいよな。俺も、子供できたら桑原みたいな親父になれるかな」
亨も同じことを考えていたのか、そんなことをつぶやく。

 亨と二人の帰り道。
「そう言えばさ…瞳子って、彼氏とか好きな奴いるの?」

 家までの長い道のり、美和子から仕入れた地元の同級生情報や、連絡が途絶えていた間の互いのことなど話が弾む中で、亨がぽつりとつぶやいた。

「今は、いないよ」
苦笑いで、ごまかすようにつぶやく。

半分は本当で半分は嘘。
彼氏はいないけど、好きな人は…
昼間、美和子たちといる間は考えなくて済んだのに、亨からその話題を降られたとたん、今朝の義兄からのメールを思い出した。

義兄が上京してくる。
その時に会おう、と言う。

会いたい。今すぐにでも会いたい。
でも、この間、義兄に抱かれて以来初めて会うあたしたち。

もし、会ったらあたしはどうするんだろう、どうすればいいんだろう…そんなことが頭の中を占めて、
そこから先は亨の話もあんまり耳にはいらなくなってしまっていた。

「いないの??マジで??じゃあ俺・・・」

亨が、あたしに対して何か言いかけたことにも、気づけなかった。
     

2011年07月14日(木)


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