.第6話:『Teenage Walk』 

 「…よっしゃ、これで全員卒業!よかったぁ〜」
 やっとこさ肩の荷が下りた、といった感じの本並先生の言葉にみんな大笑い。
 その後ひとしきりみんなで騒いだ後、ついに…。
「…じゃあ、これで城山高生としては最後だけど、またいつか会おうな。
そんときは一緒に酒でも飲もうや。
…んじゃあ藤崎、せっかくだからお前が締めてくれ」

 本並先生の言葉で、藤崎が席を立つ。
みんなはみんなで藤崎がなにをやるのかわくわくした顔で見ている。
この感覚、久しぶりだ…。
 思えばこの3年間、うちの学年は藤崎を中心に盛り上がってきた。
 おそらく、うちの学年どころか、この学校で藤崎を知らない人なんて誰もいないんじゃないだろうか。それくらい、藤崎は知名度も注目度もナンバー1だった。お祭り男の異名をとり、イベントの時にはいつでも彼が中心にいた。

 「んじゃ、みんなこっちきて」藤崎がみんなを廊下の方に手招きする。
 教室の外には、先輩に花束を渡すために待っている各部の下級生や、まだHRの終わってない組の友達を待つよそのクラスの子たちがいたが、いきなり40人がぞろぞろと出てきたから、なにが始まるんだろうと遠巻きに見ている。
 そんな中藤崎が、体育会系の、特に身体の大きい男子を何人か集めてなにやら打ち合わせをしている。
「おい藤崎、なにをやるつもりだ?」そういいながら本並先生がその輪の中に近づいていったとき、長身の先生はさっきの男の子たちに担ぎ上げられた。それでなにをやるか悟った他の男子が駆け寄り、先生を担いでる子を巻き込んで大きな円を作り、腕を伸ばして先生の体を支え、それと同時に藤崎の大きな声が響きわたった。

 「俺たちの頼るべき兄貴、本並佑哉氏に感謝を込めてっ、せーのっ!!」
 その瞬間、B組全員の手で本並先生を胴上げ、先生の身体は高々と宙に舞った。拍手と歓声の中、今度は副担任の中山先生が同じように胴上げされ、興奮の渦で廊下は騒然となる。
 「それではっ、素晴らしき3−Bのみんなに感謝と、これからの健闘を祈りまして、三本締め行きます!よぉーっ!!」

ぱぱぱん ぱぱぱん ぱぱぱんぱんっ!!

 一糸乱れぬみんなの手拍子が廊下に響いた。
 三本締め、最後の手拍子が終わっても、あたしたちは拍手をやめなかった。離れたくなくて、終わりにしたくなくて、いつまでも、いつまでも…
 本当にこのクラスでよかった…藤崎がいてくれて、本当によかった…!

 ようやく解散となったB組。
 でも、あたしにはもうひとつ、最後にやることがある…あたしはポケットの中のお守りをぐっと握りしめた。クラスメイトたちに囲まれていた藤崎が独りになるのを待って、彼にそっと近づいていく。
「藤崎…ちょっといい?」あたしに気づいた藤崎はああ、と短くつぶやいて。
「ちょうどよかった、俺も谷村に話があったんだ」ちょっとついてきて、と言う仕草を見せる。と、そのとき。
「3年B組藤崎千尋!至急校長室まで!!」教頭か誰かの放送が入り、思わず苦笑い。
「悪い、谷村。ちょっと行って来るわ。よかったら…待っててくれる?」
もちろんよ、とうなずくと。
「じゃ、教室じゃなんだから・・・ここで待ってて。」そういって鍵を投げる。下がっていた札には「資料室」の文字。…資料室…ってどこだ???
 3年間通った学校とはいえ、入ったことのない教室だってある。この資料室もそう。

 「麻衣、まだ帰らないの?」帰ったと思っていた瞳子さんに声をかけられ、思わずびくっとする。
「…瞳子さんこそ」
「あたしは今まで校長につかまってたの。呼び出しくらったと思ったらくっだらない話をだらだらするもんだから、すっかり眠くなっちゃったわよ」
肩をすくめて苦笑いの瞳子さん…生徒総代は最後まで大変らしい…あたしには縁のない世界だけど。

 「藤崎と話をした?」そう問いかけた瞳子さんに首をふる。
「ああ、今藤崎走ってったもんねえ…で、藤崎に言うつもりなの?」
「…うん。その話しようと思ったら藤崎が呼び出しくらっちゃって…」
「そっか…」そう言ったっきり余計なことは何も聞かない瞳子さんに感謝しつつ、ついでに資料室の場所まで教えてもらう。

 「あ、そうそう。みんなで卒業おめでとう会するからさ、7時に麻衣んちのお店の駐車場で待ってて。迎えに行くから」
「…え?帰ってすぐ集合じゃないの?」思わず聞いたあたしに瞳子さん、にやりとわらう。
「みんな卒業で離れ離れになる前に決着つけておきたいことがあるんじゃないの〜?
麻衣だってそうでしょ?…梢も多分、今頃は富田と会ってる。
絵里は軽音の追い出しコンパだって。美和子はさっき桑原が迎えにきてたし。
夜まで暇なのはあたしぐらいよ」

 「瞳子さんは『決着』つけなくていいの?」
「今さらねえ…歩いて10分のところにすんでるんだし、『義妹』に改めて告られたって迷惑なだけでしょ?
麻衣には前にも言ったように、彼を好きであきらめるために留学するんだからさ。
…まあ、あたしのことはどうでもいいから、早くいきな。その鍵なければ藤崎はずっと廊下で待ちぼうけだよ」
「うん!ありがとう瞳子さん!…じゃあ、また夜にね」
「…いい報告、期待してるよ」
 瞳子さんの言葉を背に受けながら、待ち合わせの資料室に向かう。
 藤崎はまだ来ていない。鍵を開け、中に入る。

 初めて入ったその部屋は資料室の名のとおり、書棚が所狭しと並べられ、いろんな色やタイトルのファイルがぎっしりと詰まっていた。
 部屋の奥のほうには机があり、そこにおいてあったのは…文化祭のファッションショーの企画書やアルバムだった。他にも『C・FUJISAKI』と表紙に書かれたノートなど見覚えのあるものが所狭しと置かれていて、
ここで藤崎がいろんな企画を練ったり行事の実行委員の仕事をしてたんだな、というのが見て取れた。
 
 「…お、悪い。またせたな」いつのまにか藤崎がきていて、声をかけられたあたしは思わずびくっとする。
「教室だと話せるもんも話せないからさ。…ここの場所わかんなかっただろ?校舎の端っこだから」うなずいて、瞳子さんに教えてもらったと返事すると。
「めったに人が寄り付かないのをいいことに、俺とか牧島はここでいろんな雑用してたんだ。まあ書斎みたいなもんかな」
そういいながら藤崎が机に近づいてきて、私物とおぼしき物を次々と紙袋に入れていく。

 「…別にさ、こんなの本並先生か後輩の奴らに頼めばきっと処分してくれるんだ」そうやって手を動かしながらも独り言みたいにつぶやく藤崎。
「でも、どうしても、ひとつだけここに来ないといけない大きな『忘れ物』があったんだ」
「…忘れ物?」あたしが問い返したとき、全てのものを詰め込んだ紙袋を床におき、改めてあたしのほうを向く藤崎。
「うん、神戸で救出活動の手伝いをしたり、おじさんの家の片づけをしたりしながらずっと頭から離れなかった」
「そんなに大切なものなの?」
「…ああ。あきらめようと思えばあきらめられたかもしれない。
どうしようか迷っていたときに本並先生と連絡がついて、旅費は送ってやるから、卒業式だけでも帰って来いっていってくれた。
俺の『忘れ物』のこともちゃんとわかっててさ。このままで卒業するつもりか?ここに置き去りにして後悔したって俺は知らないぞって。
…やっぱりあのひとって俺たちの信頼できる兄貴だよなあ…先生が言ってくれなきゃ、俺はあきらめるつもりだったんだ。」藤崎はかすかに苦笑いする。

 「で、その忘れ物は見つかったの?」
「ああ。あるよ、この部屋に。俺の目の前にある。…いや、目の前にいる、かな?」

 目の前にいる…あたしのこと?思いがけない藤崎の言葉に、あたしは声が出ない。

 「俺の『忘れ物』は…谷村、なんだ」
 
 頭の中が真っ白、というのは今のあたしの状態を言うのだろう。
 何も考えられない、何も言葉が出てこない。ただ呆然と藤崎を見るしかなくて。

 「家をでてから、何かにつけて思い出すのは谷村のことだった。こんなことになるならちゃんと言っとけばよかったって思って。
…というか、向こうに行ってちゃんと気づいたんだ、谷村が好きだ、って」


(『Teenage Walk』へ続く…前回であと2回と言ってたのが予定がやっぱり無理だった…)


2003年11月14日(金)


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