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「 ココナッツアイスに南天の香り 」
2008年06月05日(木)



 丑の刻八つ(うしみつどき)の梅雨の闇はぼんやりと湿気に包まれていた。
 闇が深くて黒が何色も見えてきて、ヘッドホンの音楽で塗りつぶすには勿体無いほど豊かだった。
 少し肌寒く湿気はまとわりついてくるけれど、丁度抱き合うようにして歩いているカップルの痴態もぼんやりと包み込んでいた。
 若めの茶髪風の男が前を見て体を離すと、すぐに「むかつく〜」とピンヒールのサンダルを履いた女が手を大きく振り向けた。
 道路向かいの痴態が帰宅後の行為を予測させたが、湿気のぼんやりが何となく曖昧にして、あんな風にはなりたくないな、という想いだけを残した。

 市内一だと思っているアメリカンパティースタイルのスイーツを3種類食べたのを思い出した。
 1つはクランベリーのソースが掛かったホワイトムース、逆三角のカクテル容器に入って見た目に清潔感があり、こざっぱりとして口当たりが良くて食べ飽きない。
 もう1つは、マンゴーのプリンの中にの果実を味付けし濃厚な味わいの粒粒が入っている。プルプルとした食感とジワッと粒から出る甘みのアクセントのバランスが両方の甘さを際立たせる。
 最後の1つは、タピオカ入りのココナッツアイス。無味で黒いタピオカが香りも強くカクテルのような濃厚さのココナッツアイスと鮮明な対比をなしている。温かいタピオカ、冷たいアイス、黒と白、無味と甘味、ぼんやりとした歯ごたえとシャキシャキの噛み応えに虜になってしまう。

 今日の気分は、タピオカ入りのココナッツアイスだった。
 何色もの芳醇な闇の中を切り裂くように進んでいけば、異臭に近い栗の花の香りや、こざっぱりとした南天の花、さらには甘さを少しだけ含んだ薔薇の香り、昆虫にとっては毒となる桔梗までもが咲いている。
 今流行の音楽に心を染め抜いて肉体の躍動に任せるのも良いのだけれど、今日のように少し緊張感を保ちながら、芳醇な闇を味わい尽くすというのもありえる。
 梅雨の合間、月の出ていない夜に思い出されたのは、対比の見事なタピオカ入りのココナッツアイスだったし、薔薇ではなくこざっぱりとした南天の香りがぼんやりとした湿気から立ち上ってきた。


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