もうすっかり感動も無くなってきた口寄せも、長い黒髪の簾(すだれ)から離れるのは名残惜しく感じる
さらさらと両耳を撫(な)でながら、ほわん、ほわん、とした香気を振りまいてくれるからだ
君の瞳は相変わらず奇麗な二重で麗しいほどの真っ赤でプルプルのくちびる
ちらりと視線を外さないようにしているのは、きっと君が悲しんで後々にもっともっと厄介なヒステリーが爆発するから
周りの友人、親類、家族、赤の他人までが君の事を外見も内面も誉めそやす
時には羨(うらや)ましそうな、嫉妬たらたらな視線まで受けるし、それも心地よかったりもした
私も熱中していたのだし、実際相当の努力も払ってきたのだし、これからも払っていくだろう
周りの友人、親類、家族、赤の他人までが外見も内面も貶(けな)しつくされた人と一緒の時もあった
時には嘲(あざけ)りや生涯唯一のお願いだから別れろという忠告まで受けたし、それも心地悪かったりもした
私は熱中していたのだし、実際相当の努力も払っていたのだし、全てが消えうせていったのだし
もう、腰まである黒髪がサラサラと遠ざかっていって、振り返りこっそりとため息をつく
絶世の美女なら稀代の悪女なら、西施なら呂太后なら、違うものを見せてくれるのではないかって
行く果て果てまでも人との関係の中にあって、私なんて何処にもないじゃないかって、君なんて何処にもいないじゃないかって言葉を隠してため息をついた
定め、さだめと、さだめを受け入れろ、と囁(ささや)いた老人がいたっけな
夕暮れ一面に広がる広がっていくだけの赤い地平線、海の上にオレンジの鱗(うろこ)がキラキラと遊んでいる
定め、などと物知り顔で偉そうに振舞って、身の回りに飛んでいる美女や醜女(しこめ)に捉われているがいいさ
もう、後3分もしない中に甘い囁(ささ)きが後頭部から聞こえてくるだろう
私は、その物質との関係を否定するのではなく、私は、その精神との関係を否定するのではなく、私は、その関係の中でしか存在しない私を否定できないでいるだけ
日が翳(かげ)っていくごとに、キラキラと光る鱗は少なくなっていく
鱗は想像上の龍鱗でもなく、実体もなく、全ての自然界の偶然の調和によって産み出されているものなのが、少しだけ心を癒してくれる
同時に、私を心をさび付いた斧で何度も切りつけ続けてきた
そこへ蟻も食べない白砂糖で出来た和菓子の餡(あん)のような甘く切ない彼女の言葉が塗り込め続けられてきた
もう、日が消えかかって
もう、いや、もうやっと、と思ったら
後から君の両手が私の両目をさえぎったのだった
(加筆・校正H8.6.8)