彼は最後の瞬間まで相手を洗脳するような人だった。
演技をして私を愛欲に向かわせるように、自らは道徳だか礼儀だかを守るように進む人だった。
彼は芸能人に似ていなかったけれど永遠の美男子像にはすっぽりはまっていた。
紅々として鈍く光るような肉厚が、大きくてごつごつとした腕を脱がせると生暖かい牛乳風呂が広がっていた。
彼は夢を語るのが男の特性なんだと言い聞かせていた。
強欲のお陰で嫉妬も賞賛もしなかったけれど、自らの論理の結果で夢を打ち壊すしかない絶望を隠していた。
彼はもう30年前に、35歳の若さで亡くなってしまった。
こうして今でも思い出しては、折り曲げた封筒を高層ビルから飛ばしている。
執筆者:藤崎 道雪