北風に運ばれるように町から町へと渡り歩く母娘がたどり着いたのは古い因習に縛られたある村でした。 そこでは人びとは勤勉と悔い改めと清貧の中に閉じ込められて暮らしていました。 主人公はその村でチョコレートショップを開きます。 教会に行かず、伝統にとらわれない奔放な彼女は、村中から白眼視されるのですが、彼女の温かい人柄にふれ、そのチョコレートを一口食べると、冷たく凝り固まった心はとけ、人びとは幸福感に満たされるのでした。
やさしいやさしい大人のおとぎばなしです。
人は模範的な生活の中にではなく、人に信じられ、尊重され、いかされることによって満たされるのだ、ということを信じさせてくれる映画です。
この映画で私は泣きどおしだったのですが、一番心に残っているシーン。
村中から“気ちがい”扱いされ、酒乱の夫に日常的に暴力を受けていたジョセフィーヌが開店したての店を訪れ、主人公の目を盗んで一つのチョコレートを万引きして帰ります。 主人公はそれに気づきますが、責めず、ジョセフィーヌにやさしく声をかけ、友達になろうと言います。
数日後ジョセフィーヌが店にやってきて言います。 「代金を払うわ。みんなが言うのは嘘。私は盗んだりしない。ただ、手が勝手に動いてしまうだけで・・・。」
誰しも自分がつまらない人間だなんて思いたくはない。
だけど、あまりにも長い間、多くの人から虐げられ、さげすまれていると、もしかしたら私はそういう人間かもしれない、と思い込んでしまうのです。
再び自信と希望を取り戻すためには誰かから「そうじゃないんだよ」とやさしい声をかけてもらう必要があるのです。 7
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