| 2004年02月22日(日) |
塩野七生『サロメの乳母の話』 |
歴史は必ずしも事実とは限らず、後世の人がどのように受け取るかによって左右されるものだろう。 学校で教えられる歴史は、歴史はただひととおりの道でしかないような印象を与えがちだが、史実をもとに、どのように考えるか、ということが歴史の本当の面白さなのだろうと思う。
『サロメの乳母の話』は言うなれば、西洋史で誰もが知っている人物の意外な素顔をその人物に近しい人の口に語らせた外伝的な物語の数々だ。
たとえば、「キリストの弟」はイエス・キリストの生涯を、キリストの弟(義理?)が語ったものだが、
「兄の仕事ぶりは、褒めたものではなかった。 時々気分が散ってしまうのか、妙なところで、ずさんなできになってしまうのである。 だから、弟のわたしが、兄にまかせた仕事でも、それが終わったところで一応の検分をし、その後でなければ、依頼主に渡せないのだった。
でも、ずさんなできのところを見つけて、兄に文句を言いに言っても、結局きついことはなにも言えなかった。 自分の間違いを指摘された兄は、いつもきまって、申し訳ないとでもいうような、しかし、ほんとうは少しも悪いとは思っていない、優しい微笑を口許に浮かべるだけだからだ。」 と、とっても人間的なイエス像が描かれていて面白かった。
どれも読み物としてもとても面白い上に、ただの作り話でなく、作者自らのしっかりとした研究に基づいて書かれているなあということが感じられて、骨太だ。
高校時代、世界史で勉強した人物や事件、また、宗教の時間に読んだ聖書に出てきた言葉が、物語の中で生き生きと迫ってきて、懐かしいような、新鮮な気分になった。
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