旅に出るときに、準備するもの、はみがき、お土産、着替え、カメラ、それから、電車の中で読むための本選びは私にとって、かなり重要なのです。
片道約10時間ものまとまった暇な時間ができるのですから、有効に使わねば。 しっかり図書館で選んできました。 でも、予想が外れて読むのが嫌になっちゃったり、気分にあわなかったりするかもしれないってことも考えまして… 今回の旅の選書コンセプト、「女流作家短編読み比べ」で選んだのは山田詠美の『晩年の子供』と、川上弘美『神様』です。 どちらも短編集。 そして、二人とも私の好きな作家です。
「いままではまるで関連なく個別に読んでいたこの二人の作家の作品を、気の向くままに、ごちゃ混ぜに読んでみたら、一体どんな感想や発見があるかしらん?」 なんて、思ったわけです。
読んでみて、思ったことは、山田詠美は冷めた大人で、川上弘美はロマンチストだなって。 これは、読む前の予想とはまったく逆だった。 「山田詠美はすごく繊細な心の動きも見逃さずに描写にうつしとるなあ」っていう印象をもっていたし、 「川上弘美の文章ってこざっぱりしてるって言うか、味気ないくらいだよな」 って思っていたし。
この2冊は偶然、童話風味の作品が多かったんだけど、山田詠美は子供の率直な視点を借りて、誰も口にしない大人の世の中の暗黙の了解の不条理さ、みたいなものをはばかることなく白昼のものにしてしまった。
とくに、それを強く感じたのは、「迷子」。 隣の家に突然やってきた赤ちゃん。大人はみんな「赤ちゃんが産まれた」というが、それが嘘だって私は知っている。 そして、ある日、私はお隣のおばさんがその子に向かって話しかけているのを見てしまう。 「いつでも好きなだけお菓子をあげるからね。だって、うちの子じゃないもんねえ。」
「くまにさそわれて散歩に出る」 という、表題作「神様」の冒頭がこの一冊のすべてを物語っている。 「くま」というのは、比喩でも渾名でもなんでもなく、正真正銘の熊なのだ。 どの作品も、不思議な生き物が登場する。 あまりにもそれが自然で、読みごこちがいいから、 「小説って?文学って?」 って、自分の常識をひっくり返されてしまった。 ありていに言うなら、宮沢賢治をほうふつとさせるっていう感じでしょうか。 一番のお気に入りは「クリスマス」 友達が置いていったランプの腹をこすると、若い小柄な女が現れた。その名はコスミスミコ。 コスミスミコと私の奇妙な共同生活が微笑ましいのです。
と、いうわけで、この旅はなかなか充実した読書旅行でもありったわけです。
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