感想メモ

2005年05月11日(水) 対岸の彼女  角田光代


角田光代 文藝春秋 2004

STORY:
結婚のため退職し、専業主婦として子育てに専念する日々を送る小夜子、独身のまま企業家として奔走する葵。葵の会社で小夜子は働くことになり・・・。

感想:
 角田光代の本は、以前に児童文学の『キッドナップ・ツアー』を読んだが、私はあまり面白くなかった。そういうイメージがあってどうなのだろう?と思っていたのだが、この作品は非常に面白かった。直木賞を受賞した作品なのもあるのかな。

 今、主婦として生活をしている。仕事も一応しているけれど、あまりメインにやっているわけではない。仕事を持たず主婦に専念し、育児を始めたら、こういう風になるのかなと、リアルな感じを抱いた。公園ジプシーを繰り返す親子、保育園にするか幼稚園にするかでもめたり、親同士のいろいろなやり取りと価値観の違いに振り回される・・・。今は主婦になって全く知らない土地に来て、知り合いも全然いないからそういうストレスはないけれど、こうしてまたいろいろなストレスと渡り合っていくのだろうかと思う。

 小夜子はそんな生活を抜け出すために、子供を保育園に預けて働くことにするが、働くということだってストレスいっぱい社会だ。結局人と人とが関わるというところに、何も生じないということのほうが少ない。あまり深く付き合わないでいるというのが、一番相手の嫌なところなども見えずに楽しくやっていけるのかもしれない。人から人のことを聞かされれば、やはり誰でも先入観を持ってその人を見てしまったりもする。難しいものだと思う。

 そんなことがすごくリアルに描かれているので、自分自身のことを振り返ってみたりしてしまった。

 でも、この本のいいところは、人と人との関係に疲れても、やはり人と人との出会いや触れ合いが人を癒すというところにある。葵とナナコが高校生のときにバイトをした民宿のおばさんも、前年、ひどい目にあったばかりで人を信じられないが、2人に考えを変えさせられる。とにかく人に傷つけられてそこで誰とも交わらない生活をするというのは、簡単なことなのかもしれないが、それではきっと心は癒されない。誰かと関わって、その中で心が癒されたりする瞬間がある。だから、人を信じ、だまされてもまた前向きに生きていく葵の姿は、自分もこうありたいと思わせるものがあった。

★角田光代のその他の本
『キッドナップ・ツアー』
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