感想メモ

2003年02月04日(火) プラムガール  トレイシー・ポーター

岡本浜江訳 ポプラ社 (2002)2002

STORY:
ディリアは母を幼くして亡くし、姉のパールと父と3人で暮らしている。姉のパールは反抗期で魔術に凝り、父と衝突を繰り返している。ディリアは新しいバレエスクールに入学し、元ロシア人のマダムに教えを乞う。どんどん頭角をあらわしていくディリアだったが、上のクラスに入り舞台での役の競争という現実に直面したとき、自分が変わってしまっていくのを感じるのだった・・・。

感想(ネタバレあり):
 この小説は子供向けの小説なのだとは思うのだけれど、内容的にはそうでもないような気がした。作者のトレイシー・ポーターは自分自身、厳しいバレエスクールを卒業しているらしく、バレエについての描写はなかなかのものだったが、訳者が用語を知らないのもあるのか、多少間違っているバレエ用語などもあるなーと思った。たとえばロン・ドゥ・ジャンブ・アン・レールなど。フランス語だから仕方ないのかもしれないけど・・・。

 バレエスクールの厳格さなど、大変よく描かれている。拒食症の子供がいたり、先生が太ることに対してものすごく厳しく、みんなの前で注意するというのも、何となくわかるような気もした。それに役を巡る争いや、けがをして踊れなくなるということについても書かれていた。ありとあらゆる不安材料というか、バレエを否定していきたくなるような内容が散りばめられていたような気がする。(ただ、実のところディリアが身長何センチなのかよくわからなかったけど、13歳で49キロという事実。悪いんだが、これはバレエの世界ではかなり太めでは?って気もする。いや、身長が高いならOKなんだろうけど、まだ生理も始まってなくて13歳だとそこまで身長高いのかな?って思ったんだよね。それでもお父さんなんかやせすぎだと娘に対して言っているんだけれど・・・)

 この話の最後は結局ディリアはバレエではなくブラジルの踊りみたいなものへと転向してしまう場面で終わる。今までのバレエ物語のような話だと、主人公はバレエ団に入ったりしてバレエを続けるパターンが多いし、あまりバレエの裏の暗い面については触れてない。この話はあえてそういう部分に話を持っていっているのか、実際読んでいてあまりにも暗くて、最初の方は入り込めない気がした。姉のパールは父親に対しても反抗的で妹にも誰にも心を開くことができないで苦しんでいるし。父親も妻を失い、2人の娘を抱えて大変な感じだし。バレエスクールではマダムが人の欠点をズケズケと口にするし。

 バレエをやっている人って、完全主義の人が多いとは思う。きっちり基礎に忠実に、失敗は許されないというか。だから、そういう人の方が自分に厳しく厳密になれてバレエも上達する。でも、そういう中にいると、恥をかくとかできないということ自体が挫折であり、馬鹿にされているというか、自分の存在価値がないというような風に思い込まされていく傾向にもある。思春期にこのような厳しい世界に身を置くということは、ディリアのようになるという可能性も高いということだ。順調にバレエの技術を身に付け、また踊る場も保証されているような生徒の方が、実際少ないのが現実である。

 その意味で、この小説はある意味、リアルなのだとは思うが、読むほうとしてはあまりすっきりはしない気がする。特に子供が読んで面白いのかな?とちょっと思ってしまったのだが・・・。ただ最後にディリアがどんどん落ちていく場面から先は、続きがどうなるか気になって一気に読めてしまったけれど。

 ちなみに最後にディリアがマダムになぜ自分に対して厳しいことを言ったり、無視するような態度を取るのか?と尋ねる場面がある。このときにマダムが言う言葉はまさに真実だと思う。やっぱりバレエをプロで踊っていくということは非常に厳しいのが現実で、人から何を言われても踊っていけるだけの精神力とか強さが必要なのだと思う。


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