感想メモ

2002年10月17日(木) 模倣犯(上)(下)  宮部みゆき

小学館 2001

STORY:
女性が誘拐殺害され、その遺体の一部が公園のゴミ箱から発見される。犯人は犠牲者の家族に直に電話をかけたり、TV局に電話をかけたりして自分の事件をアピールし始める。事件は犯人と見られる二人組が自動車事故を起こし死亡したことで決着がついたかと思われたが・・・。

感想:(ネタバレあり)
 ものすごい膨大な分量の文章。これを2週間以内で返すというのは、私にはかなりきつかった。(結局1日オーバー・・・) 

 何というか読み始めてまず思ったのが、あまりにも内容が内容だけに面白いという形容はあてはまらないような気がするということだった。重たすぎてなんだか暗い気分になってくるのだ。それから、登場人物が多く、またその登場人物たちが実際に関わりあうことがあったりなかったりなので、場面がそのたびに変わり、最初の方は読み進めていくのに少し時間がかかってしまった。

 ひとつだけわからないエピソードがある。子供が携帯電話を拾って・・・というシーンだ。このシーンは最後の伏線となるのかと思ったが、結局書かれただけでそのあと何も物語に関わらなかったが、これは間違えて挿入されたのだろうか? あとで使うつもりで忘れられたのか・・・。(それとも私が気づかなかっただけでどこかにその後のエピソードがあったのだろうか)

 読み終わって思うことは、やはりうまいということだ。人物や状況の対比、対照が非常によくできている。塚田真一が樋口めぐみに付きまとわれているということを知った由美子。そのときの由美子は犯人の妹という立場ではない。だからこそ、樋口めぐみのおかしさに気づくことができるし、その言い分は理不尽だと思う。もっともなことだが、自分自身が樋口めぐみと同じ立場になったときに、彼女の精神は崩壊する。ただ、ここで大きく異なるのは、樋口めぐみの父は実際に殺人を犯しているが、高井由美子の兄は実際には何も関わっておらず冤罪であることである。もちろんこのことは最後まで実際には明らかにならない。同じような立場でも冤罪の場合とそうでない場合とでは、置かれた立場がまた異なってくるのだと思う。

 それにしてもピースの恐ろしさは何とも言えない。しかし、確かにこのような人物がいてもおかしくはないのだ・・・と思ってしまう自分もいる。やはり同じような事件がおきているからだろうか。私は何と言っても高井由美子が自殺をしてしまったのがつらかった。どうして死ぬことがあったのだろう?と。もっと他の人に助けを求めていれば。でも、彼女を相手にしてくれる人は誰もいなかったのかもしれない。やはりもし自分の身近な人が冤罪だと思うのならば、まずは自分自身がしっかりしなくてはならない。そして、周りに惑わされないぐらいの強い気持ちを持たなくてはならない。彼女には兄の冤罪を証明していくことはかなり重荷だったのだろう。だからこそ、ピースという悪魔のような男を信じてしまったのだろうが。

 他にも人物の設定はかなり深く面白かった。ただその人物が事件の背景を推測していく過程には、少し無理があるような気もしなくはなかった。何となくそういう気がするというカンだけで、犯人がこういう人なのでは?と決めていくところというのかな。その点だけがちょっと残念。でも、最後にピースが捕まったのにはほっとした。

 ただ結局小説の中で描かれていたどうして栗橋浩美が殺人をするにいたったかの精神状態とか、高井和明がどのように最後に栗橋浩美と関わったのかとか・・・そういうのがピースの立場からだと説明できない気がして、結局逮捕されたとしても、この事件の複雑な背景は誰にもわからないまま終わってしまうんだなーと思った。このあと、彼らがどのような人生を歩んでいったのか、それも非常に気になるところだ。

 この作品で思ったのは、犯罪は人の人生を狂わせるということだ。犯人であろうと、被害者であろうと、その家族であろうと・・・。とにかくそれまでの人生が一変してしまう。冤罪だったとしてもである。人生を変えてしまう恐ろしい出来事だ。普通の人は犯罪があった直後はその人たちのことを忘れないし、悪く言うかもしれないけれど、結構すぐに忘れてしまうものだ。結局巻き込まれた人たちはそのほとぼりが冷めるまで我慢するしかないのだろうか? 

 でも、これは幸運にも犯人が逮捕された場合である。実際、犯人がまだ捕まらない凶悪事件も多い。中には時効を迎える事件もある。その直前、突然ニュースで報道されたりするが、被害者の家族の人は何年もの間、ずっとそのことが気がかりであったに違いない。それでも年月が経つとともに、犯人が捕まらない公算のほうが大きくなり、世間の人々は事件のことを忘れているのだ。

 なんだか結局重苦しい気分になったけれど、これが現実なのかもしれない。犯罪に巻き込まれず普通の生活を送れること、これは本当はすごく幸運なことなのかもしれない。


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