本日の紡ぎごと...suiren

 

 

許しの言葉を与えよ - 2007年01月26日(金)

沸々と湧き上がってくる色んな思いは、私が人間であることをとても自覚させる。
日々世捨て人のような暮らしで、世間とも他人とも滅多に関わることはないのに。
世は捨てられても人の性は捨てられぬか。
全く酔狂な話である。
私に跪き傅きその身を奉げおもねることを望む存在が幾人もいるというのに
当の本人は全てを捨てて世俗と交わろうとはしないのだ。
傷だらけの指に光る白金と金と金鋼石の指輪だけが財産と呼べる唯一の代物。
何十年時を経ても少しも霞むことなく目映く光る其の姿は、
まるでかつての私のようにも見える。
才能、美、そして清廉潔白な心を持っていた。
誰もが「彼女」の未来に期待を抱き、誠実で優しい人柄に好感を抱いた。
十年後はあのお方の後継者となるかもしれない、そんな声も聞こえていた。
だが私は若すぎた。
そして余りに無知だった。
なのに何の疑問も抱かず、浅はかな言動を繰り返していたと思う。
思い出したくもないくらいに、其のどれもがとても恥ずかしい。
美しい「彼女」は周りから大切に庇護され、丁重に育てられた。
期待、非難、羨望、嫉妬。
暗い暗い世界の中で、場違いに咲いた白い百合のようだった。
無知という罪に気付かぬまま、時間だけが過ぎていった。
しかし、いつしかふと鏡に映る自分を見て思うようになった。
この女は誰だ?
私は人に嫌われないようにする余り、誰からも好かれるペルソナを身につけていたのだ。
それは「みんなに好かれたい」から誰にでもいい顔をするという、
良い子の類ではなかったため、尚更に性質が悪かった。
自覚しはじめると破綻はすぐに訪れるもので、私は途端に疑問とズレを持ち始めた。
「自分を殺せばいいんだよ、簡単じゃないか。何を思い悩む必要がある?
そのペルソナを付けていればお前は殆ど誰からも好かれるんだ。
お前自身なんて必要ないのさ。」
誰かと話すとき、そんな声が何処からか聞こえていた。
鏡を見るとき、お前は誰だという言葉がサイレンのように鳴り響いていた。
殺せ殺せつぶしてしまえ!

くだらない。
そう、なにもかもがだ。
写真の中で笑う私(いや、「彼女」か?)、他人の中の私、鏡の中の私、私の中の私。
くだらない。けれどもう私は私でしかいられなくなってしまった。
それでも人々は「彼女」を求める。
だから今度は私が「彼女」を演じた。
彼女は優しく美しく気高く清く、優美で繊細で、愚かで浅はか。
人は己と彼女を比べて思うのだ。
彼女の清廉潔白な其の高貴なる様を見て、自分はなんて足らないのだろうと。
私が優しいだって?誰に、なんのために!
なあ、教えてやろうか。お前達の見ているものは全て妄想と虚像と偽りで作られたものなのさ。
だからといって私は夢を醒まさせるほど非道な人間じゃない。
夢は夢のままにしておくのがいいんだ。
話をすればあのお方は解ってくれた。
本当に解ったかとうどうかは謎だけれども。
「彼女」はもう、いない。
あるのは私だけだ。私はどこでも私でしかいられない。
たったこれだけのことに気付くのに、何て遠回りをしたのだろう。
だからこその、人間か。
前とは違う思いだが、私は愚かだ。
やっと解ってきたんだ。
たぶん、全てはこれからなんだと思う。




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