宿題

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2006年11月06日(月) 東京夜話/いしいしんじ
本は違った世界への扉を開く、と小学校で国語の教師が
口酸っぱく言っていた。
たしかにその通りだ、と僕は思った。
そのかわり、表紙をめくると背後でもうひとつの扉が静かに閉まる。
本は「外」の世界を一時的にしろ滅ぼしてしまう。

古本は、それぞれ一冊がいろんな世界を滅ぼしてきた。
兵器としての年季が、そこらの新刊本とは違うのだ。
もはや「なにかのため」に書かれる実用書などは、
兵器としての用をなさない。
それは「外」の存続に奉仕するものだからだ。
もちろん、「外」の世界を亡ぼすに足りる力をもった新刊だってたくさんある。
しかし新刊書店は「なにかのため」の本にあらかた占領されてしまって、
兵器としての本は隅に追いやられている。
そういう意味で、古本屋はその空間そのものが世界を滅ぼす兵器だと
言っていいかもしれない。

ぼくはぼけっとカレーを待ちながら、そんなことを考えていた。
そのころ、ぼくは毎日カレーばかり食べていたのだ。
通を気取っていたわけではない。
ほかの食べ物を選ぶのが面倒だっただけだ。
とにかく、そこら中にカレー屋はあった。
神保町の交差点から駿河台下にかけては、とにかくおいしそうなカレー屋が
集中していた。


★東京夜話/いしいしんじ★

マリ |MAIL






















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