宿題

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2006年02月16日(木) 2月19日(日) LIVE! no media 2006 草原編/友部正人
ついに「この日」がやってきました。
たいていの「この日」はやってきても、
すぐに過ぎ去ってしまうものなのですが、
今日の「この日」は長かった。
ちっとも過ぎ去ってはくれませんでした。
それは今日出演して詩を朗読してくれた人たちや、
聞きに来てくれた400人近くの人たちが、
「この日」を足で踏んづけていたからです。
その長かった一日のことをこれから書きましょう。

ぼくとユミと川瀬さん夫妻とPAの小俣くんは朝9時半に会場に着き、
BankARTのスタッフの渡辺さんと準備を開始したのでした。
すでに3人のお客さんが寒そうに待っていましたが、
そんなことにはかまってはいられません。ステージに使う平台を
一階の倉庫からエレベーターで二階の会場に上げたりしていると、
お手伝いの宮崎さんや思潮社の高木さんも到着。
階段を上り下りして椅子を運んだりしました。
渡辺さんはもう一人のスタッフと二人で、
長い時間かけて照明の準備をしていました。
そうこうするうちに出演者のリハーサルが始まって、
それがすむと、ぼくとオグラくんは表の海岸通りに出て、
呼び込みのために歌を歌いました。
オグラくんの手回しオルガンの伴奏で
「水門」や「にんじん」を歌いました。
ビルの谷間に裸の歌がこだまするのはいいことです。
外で歌うととてもいいことをしている気がします。
いつのまにか知久くんも来てにやにやしながら見ているので、
Cのハーモニカを渡して三人で
「ぼくは君を探しに来たんだ」を歌いました。

お客さんの入場がなかなか完了しなくて、
2時55分からライブがはじまりました。
出演は、平井正也、ぱくきょんみ、オグラ、
田口犬男、知久寿焼、石川浩司、友部正人、宮沢章夫、
峯田和伸、尾上文、遠藤ミチロウ、谷川俊太郎、という順です。
ぱくさん、宮沢さん、峯田くんははじめての参加者です。
予定では休憩を入れても7時には終るはずでしたが、
実際に終ったのは8時すぎでした。
全員の椅子を用意できなくて、
100人ぐらいの人には立って聞いてもらわなくてはならなかったのです。
立っている人にはさぞかし長いライブだったでしょう。

平井くんは2004年のときの「寝るだけの仕事」の改訂版の
「すわるだけの仕事」というのを朗読していました。
それからマーガレットズロースで歌っている
「おやじの歌」や「夜明け」も読みました。
「夜明け」ができたエピソードが、
ぼくが「一本道」を作ったときと少し似ていました。
奥さんの出産予定日があさってだと平井くんがいうと、
会場中の人が拍手をしました。
(だけどあさってではなく、その翌朝にはもう生まれていました。)

ぱくきょんみさんとは、今日何十年ぶりかで再会しました。
ぱくさんの詩には植物の名前がよく出てきます。言葉にはリズムがあって、
子供になって藪の中を一人で歩いているような気持ちがしました。
それに読んでいるときの表情がとてもやさしかったです。

すっかり手回しオルガンを首から下げた姿が身に着いたオグラくんでした。
古ぼけた外套の街頭詩人。
詩という箱から取り出したおまんじゅう。
おまんじゅうの味だけが勝負です。
今日は短いのが多かったけど、
また長い詩も聞かせてください。

田口犬男さんの言葉は手品みたいでした。
前回は物語のようでしたが。
田口さんのよく通る声は入り組んだ話でもよく伝わってきます。
谷川俊太郎さんにささげた詩を読むとき、
前の方で立って聞いていた谷川さんに田口さんが
「ちゃんと聞いてくださいね」
と言ったら、「聞いていますよ」と谷川さんが答えていました。

知久くんはウクレレで「ギガ」を歌いました。
竹林の詩や乾燥剤の詩はいつ読んでもお客さんに受けます。
お客さんの耳は本当に敏感だな、とそのたびに思います。
知久くんの詩で笑うかどうかが、
お客さんが聞いているかどうかの証明になります。
今日は新しい詩も読みました。

石川くんは今回は出られないと言っていたのですが、
予定が変わって急に出てくれることになりました。
マーシーが出られなくなって、その代わりみたいな感じです。
石川くんもステージで、「ぼくをマーシーだと思ってください。」
と言っていました。
石川くんの嫌なことを並べた詩はすごかったな。
悪夢なのだけど、石川くんが読むとおかしいのです。
みんな腹の底から笑っていました。
石川くんがでられることになってよかった。

ぼくはニューヨークで先月に書いたチャイナタウンの詩を二つ読みました。
「サイ」の詩は明け方夢で見たことです。
「アメリカの匂いのしないところへ」は横浜に住んで、
米軍施設を身近に見てはじめてできた詩。
最新アルバムから「Speak Japanese,American」も歌いました。

宮沢章夫さんはエッセイや劇のシナリオのト書きや小説の一部を読みました。
今日読んだ「スポーツドリンク」や「囲碁」のエッセイはぼくも本で読んで、
声に出して笑った覚えがあります。
「どこに売っているかわからないものはたいてい薬屋にあります。」
という一言は、笑いながらも心からうなづいていました。
エッセイばかりではなく、宮沢さんの戯曲も読んでみようと思います。

ぼくは峯田くんが銀杏BOYZのライブのステージで喋る話や、
ホームページの日記に書く話がとても好きです。
そういったものは普通たいていはおもしろくないものですが、
なぜか峯田くんのはおもしろい。
たぶんおもしろい理由は、お喋りや日記の形を借りて、
もう少し深いものを見せてくれているからだと思います。
そしてその深いところに人は自分を見るのです。

今回のLIVE! no media 2006に草原編という副題をつけたのは、
会場が海の前にあるからです。
そんなに広々とした海ではないのですが、そのちっぽけな横浜の海が、
どこか遠くにある草原を思い起こさせたのです。
同時にぼくは尾上くんの「草原に行こう」という詩を思い出していました。
そして今回はぜひその詩を朗読してもらおうと思ったのです。
その詩の持つ広さがぼくは大好きです。

遠藤ミチロウはいつも朗読は苦手だと言います。
でも歌の中で「赤い色は嫌いです」と言うようには断らない。
今日は朗読を二つして、いつもの
「お母さん、いいかげんあなたの顔は忘れてしまいました」を歌いました。
こんなにたくさんの言葉を使っても、
まだ言葉にならない情感があるからギターを持つんだと思いました。

最後は谷川俊太郎さん。
昼間に別の仕事があるというので出番を最後にしたのですが、
二番目のぱくさんのときにはもう到着していました。
「他の人の朗読も聞きたいから」と言ってくれたのはうれしかった。
自分の体験も入っているという「詩人の墓」、
木漏れ日をみているように美しい、悲しい物語詩でした。
民衆にとても人気があるという、
ブラジルの詩人たちのことのようでもありました。
無理に楽しませようとしなくても、
詩は聞いているだけでも楽しいものだとおもいました。

開演前に道端でやった「水門」を、
またオグラくんと二人で歌ってライブをおしまいにしました。
朝、路上で開いた水門を、夜、ステージの上で閉じたのです。
最後の「水門」には、
今日出演してくれたすべての人たちの声がまじっていました。
その声をぼくはちゃんと聞くことができました。

それから今日はじつにたくさんの人たちが、
各地から聞きに来てくれました。
ぼくが歌いに行ったいろんな町からも、
「来たよ」とやって来てくれました。
福岡や高知や直島や高山や仙台やニューヨーク、
みんなが「おもしろかった」と言ってくれました。
「火星の庭」の前野さんは、
仙台から手作りのパンをたくさん運んで聞きに来てくれました。
パンは最初の休憩までに全部売り切れたそうです。
こんなにもたくさんの人たちの足で踏んづけられた「この日」が、
ぼくの中でまだ何日も続くにちがいありません。

ライブが終った後、
出演者も見に来てくれた友だちも片付けを手伝ってくれました。
知久君や銀杏BOYZのチンくんが椅子運びをしている姿はいい感じでした。
ぼくとユミがふたりでやっているイベントだからこそ、
いろんな人が参加してくれるのだなあ、と思います。


★2月19日(日) LIVE! no media 2006 草原編/友部正人★

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