宿題

目次(最近)目次(一覧)pastnext

2006年01月02日(月) 死神の精度/伊坂幸太郎
嘘をついてはいなかったが、面倒なので返事をしなかった。
そのかわりに、カーステレオに指を伸ばす。
知らず、喉を鳴らしそうになる。「これ、動かしていいか?」
「動かす?何か聴きたいのかよ。おまえ、自分の立場、理解してんのか」
構わずに私は、再生ボタンを探し出し、叩くように押した。
入っているのはコンパクトディスクらしく、回転する微かな音の後、
ミュージックが流れ出した。背中が震える。
顔の筋肉が緩み、じわじわと胸のあたりに温かみを感じる。
「おまえ、何で、にやけてるんだよ」
横目で私を見た阿久津は、訝しそうだった。
「いや、好きなんだ」
私は正直に答える。
「ストーンズが?」
「ストーンズ?いや、音楽が好きなんだ」
「何だよ、音楽って。範囲が広すぎじゃねえか」
実際のところ、私はジャンルに関係がなく、音楽が好きだった。
正確に言えば、私だけではなく、私たちはみんなそうだ。
人間に対する同情や畏怖などはまったくないが、
彼らが作り出した「ミュージック」を偏愛している。


★死神の精度/伊坂幸太郎★

マリ |MAIL






















My追加