宿題

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2005年09月11日(日) フィンガーボールの話のつづき/吉田篤弘
「毎日、放送しているわけではないんです。
時おり、気の向いたときだけ、マイクに向かってます。
お伝えしたとおり、とてもささやかな電波なのです。
ですから、もし、いまこの放送をどなたか聴いていらっしゃるとすれば、
それは本当に奇跡のようなことなんです。
どうでしょう?
聴こえているんでしょうか?
そちらの声もこちらへ届けばいいんですけどね。
というのも、この放送局、私ひとりきりなんです。
すべてひとりでやっていて、まぁ、その方が気楽でいいんですが、
やっぱり誰も聴いていないかもしれないと思うと、
なんというか、ここはとても静かで、自分の声だけですからね。
私、ふだんはひとりでお喋りなんてしませんし…つまり、
まったくの静寂ならば、その方がずっと落ち着くような気がするんです。
でも、いったんこうして話を始めてしまいますと、
どう言ったらいいのか、急に静けさというものが怖くなってくるんです。
話をやめてしまうのが、怖くなります」

その声は、わたしの頭の奥にある、どこか暗くてうす暗い、
秘密の路地裏のようなところまでしみ込んでくるようだった。
いつかどこかで聞いたことのある声。
いや、正確に言うと「聞いたことがある」のではなく、
ずっと長いこと「聞きたい」と願っていた声とでも言えばいいんだろうか?
その夜わたしは、彼女が最後のひとことを告げるまで━━
告げたあとのノイズにすら━━いつまでも耳を傾けていた。


★フィンガーボールの話のつづき/吉田篤弘★

マリ |MAIL






















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