宿題

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2004年06月03日(木) こおろぎ嬢/尾崎翠
こおろぎのことなんか発音したら、あなたはたぶん嗤われるでしょう。

でも、私は、小さい声であなたに告白したいんです。

私は、ねんじゅう、こおろぎなんかのことが気にかかりました。

それ故、わたしは年中何の役にも立たない事ばかし考えてしまいました。

でも、こんな考えにだって、やはり、パンは要るんです。

それ故、私は年中電報で阿母を驚かさなければなりません。

手紙や端書は面映くて面倒くさいんです。

阿母は田舎に住んでいます。未亡人、あなたにもお母さんがおありになりますか。

ああ、百年も生きてくださいますように。

でも未亡人、母親って、いつの世にも、あまり好い役割ではないようですわね。

娘が頭の病気をすれば、阿母は何倍も心の病気に憑かれてしまうんです。

おお、ふぃおな・まくろおど!

あなたは、女詩人として生きていらした間に、科学者に向って、

一つの注文を出したいと思ったことはありませんか──

霞を吸って人のいのちをつなぐ方法。私は年中願っています。

でも、あまり度々パン!パン!パン!て騒ぎたかないんです。


★こおろぎ嬢/尾崎翠★

マリ |MAIL






















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