宿題

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2003年09月15日(月) すいか/木皿泉
「お墓って人類の発明よね、死んだ人を忘れないように。

でも、安心して忘れなさいっていうために、作られたものだと思うわ」


「出張で帰ってきたの?」

「え。あ、いやー」

「あ、休みとって?」

「ええ、まぁ…」

「そんな勤め始めたばっかなのに、休んで大丈夫なの?」

「ちゃんとワケを話してきましたから」

「ワケって?」

「僕の大事な人の猫がいなくなったんで、あの、休みます、って」

「え?え、それだけで休みとって帰ってきたの?わざわざ札幌から」

「それだけでって言うけど、大変な事じゃないですか。

ツナヨシがいなくなったなんて、僕にとったら一大事ですよ」

「……よく休みとれたね」

「社長が、それは大変だから行ってやれって」

「うそだ」

「いや、本当ですって」

「そんな。そんな会社の社長さんがそんなこと言うわけないじゃん。

たかが……猫のことで。そんなのありえない」

「いや、本当なんです。行ってやれって。僕もびっくりしたんです」


「うわー、ね、これってお母さんの手作りっすか?」

「もーこればっか。他に作るもんないのよ、オフクロ」

「そんな貴重なもの、うちで食べちゃっていいんすか?」

「いいのいいの。うちのやつ、全然食べないから」

「なんで?んまい!んー」

「なんかね、魚の目が怖い!とかってぶりっこすんのよ、うちの奥さんは」

「ふーん」

「誰も食べないから送ってくんな、なんて言えないしさ、オフクロに」

「ん?間々田さんも食べないんすか」

「いや、うちのやつがね、キモチワルーイとか言い続けるもんだから、

食べられなくなっちゃってさ」

「こんなにおいしいのに」

「や、昔はね、大好物だったのよ。家族が変わると好みも変わるもんなのよ」

「いやしかしうまいなこれ」


お父さん、人の縁て誰が作ってるんでしょうね。

聞いた話では、神様があっちのひもとこっちのひもを持ってきては、

テキトウに結んだりしているらしいです。

昨日会うこともなかった人が、今日なくてはならない人になってるなんて、

他に説明のしようがないんですから。

ちょっとしたことですぐにほどけて傷ついたり、なかなかほどけなくてイライラしたり。

そしてどんなに親しくなっても、最後は必ずほどけて終わりがくるのです。


★すいか/木皿泉★

マリ |MAIL






















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