宿題

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2002年11月07日(木) 河童手のうち幕の内/妹尾河童
みんなかなり上機嫌で騒いでいた。

中の一人が水割りのグラスを高々と持ち上げ、いきなりライターを放り込んで、

カラカラ音をさせながら、「これ呑めるかな?」といった。

「バカ、絶対に呑めない」「ライターが喉を通るわけがあるかよ。絶対不可能!」という声が聞えた。

隣のテーブルだったので、ぼくには話の前後の様子はわからなかったが、若い人たちが、

そんなに簡単に「絶対不可能!」なんて言い切っていいのかなぁ?と思った。

その瞬間、ぼくの手はライター入りのグラスをつかんでいた。

そして一気に液体とライターを飲み込んでしまった。

火がついたような痛さが喉の奥を突き刺し、胸が苦しくて涙があふれた。


気がつくと、あっけにとられた友人たちが、心配そうにのぞきこみながら、

「大丈夫ですか?」「手品かと思ったら、ホントに呑んじゃったの!」

「指を突っ込んで、早く吐き出さないとヤバイですよ!」

と騒然となった。そのときぼくは背中をさすってもらいながら言った。

「な、呑めるだろ!“絶対不可能だ”なんて簡単にいうなよ」

そう言いながら、ぼくは自分のオッチョコチョイさ加減に愛想をつかしていた。


ぼくは酒を呑まないから、酔っていたわけではない。

アルコール抜きで騒ぎまわっていたが、狂っていたわけでもない。

ただ「絶対不可能!」という言葉にこだわってしまった。

友人たちは、ふざけて遊んでいただけだから、呑めるか呑めないかの証明などどうでもよかったのだ。

ぼくのこだわりは見当外れだった上に、唐突に実証されるなんて、さぞ迷惑だったろう。


★河童手のうち幕の内/妹尾河童★



■その後自宅に帰り、1時間かかって血を吐きつつライターを吐き出し、
しかもそれを奥さんにばれない様に新聞紙にくるんで捨て、
風邪だとごまかして素うどんを1本ずつ縦に喉に入れる日が4日続いた、とありました。
(4日目に結局ばれる)。

マリ |MAIL






















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