宿題

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2002年08月10日(土) 平凡王/高橋源一郎
野球博物館の裏には野球図書館がある。野球に関するあらゆる文献を収集した図書館。

ぼくの最後の目的地だった。これから書くことは、ぜんぶ本当に起こったことである。


図書館の門をくぐったぼくは、受付に、

「ぼくは日本人の小説家で、野球小説を書きました。その本をここに寄贈したいのです」

といった。もちろん紹介状もなければ、まえもって連絡してあったわけでもない。

見ず知らずのアジア人がいきなりやって来て、おれの本をプレゼントするといいだしたわけだ。

受付の女性はニッコリ笑うと、電話をかけた。すぐ、二階から男が下りてきた。

「館長です」

と受付嬢はいい、ぼくがいったことをそのまま館長に取りついだ。

「素晴らしい」

と館長はいった。

「歓迎します。本当に、遠くから、ありがとう」

ぼくはぼくの『優雅で感傷的な日本野球』を館長に手渡した。

「日本野球に関する小説です。ぼくが野球について考えてきたことをみんな書きました」

館長はぼくの本の装丁をじっくり眺め、それから中をめくって、しばらく読んでいた。

「私は日本語がわからない」

と館長はいった。

「でも、これが素晴らしい本だということはわかります。あなたも野球が好きなんですね」

「はい」

とぼくはこたえた。


だから、『優雅で感傷的な日本野球』はいまクーパーズタウンの野球図書館に一冊だけある。


★平凡王/高橋源一郎★



■今日、ちょうど図書館に行ったので、『優雅で感傷的な日本野球』も探してみたのですが、
その図書館にはないみたいでした。残念。

マリ |MAIL






















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