○プラシーヴォ○
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『今日も、ハム男の家に帰っていい?』
サッカーにでかけたハム男にメールをするが、 返事が無い
18時ころ、意を決して電話をかけると
「おう、どこにおるの?」
居場所を言うと
「…えらいまた遠いとこに遊びに行ってんねんな 早く帰っておいで 雨で、サッカーのナイターがお流れになってん 俺も、今帰ってる最中やから」
早く、帰っておいで
この響きが嬉しくて
私は尻尾をぶんぶんふって 走って電車に飛び乗った
嬉しくて嬉しくて
久しぶりに私も緊張が解けていた
最近、妙にハム男が怖くて 知らず知らずのうちに 態度が硬化していたんだと思う
普通に話して 笑って ご飯を食べた
やっぱり、ハム男は酔っ払って先に寝てしまった
私も慌ててお風呂に入って ベッドに潜り込む
寝返りを打つたびに うめくハム男
サッカーで両膝を打撲して すごく辛そう
何ヶ月かぶりに 私はハム男にキスをした
うめくハム男の頭を そうっと撫でる
撫でて、撫でて
問いかける
「寝にくい? 端っこによろうか?」
ハム男は若干、顔を私と反対側に向けたまま 返事をした
「…がちゃ子は俺を 寝かせたくないんか?」
苛立ちを隠そうともしないハム男
ああ、 ああ、 ごめんなさい
油断してました ごめんなさい
もう触らない もう話しかけない
だから 怒らないで
ゆっくり寝て
胸に急激に上がってくる 泣きたい塊をグッと押さえて
ハム男をまたいで ベッドを出る
何事かと 私の様子を伺っているハム男
とりあえず、 ハム男を安心させるために
音量を最小限に絞って テレビをつける
どこかの世界遺産の映像を ぼうっと眺める
しばらくして 振り返ると
右腕を目の上にあてて 光を遮りながら ハム男が寝ている
テレビを消して ソファーの上の荷物をどけて 頭を乗せる
体の下から フローリングの感触が伝わる
早く、早く寝てしまおう
こんな悲しい現実は もういりません
背中から ハム男の声
「がちゃ子…風邪ひくぞ そんなところで寝れるわけないやろ 早くこっちこい」
相変わらず不機嫌そうな声
同じことを三回ほど繰り返したとき
いいかげん殴られそうな気がしたので 私はしぶしぶベッドに戻った
「何を怒ってんねん…?」
オコッテナイヨ 首を横に振る
「最近、エッチしてないからか?」
また首を横に振って…しまった うなずけばよかった
ハム男、気づいてたの?
だったら キスくらい してくれればいいのに
そこから スコンと眠りについた
朝、出勤するハム男
まだベッドでうとうとしてる私
いつもササッと私の頭を撫でてから 行くのだけれど
今日は、しゃがみこんで 私の顔を覗きながら頭を撫でていた
「がちゃ子…雨が降ってるからね じゃ、行ってくるよ」
「…行ってらっしゃい」
雨が降ってるからなんなの?
気をつけて帰れってこと?
ほんの少しの優しさにすがって 9割方をしめる嫌いなところを 帳消しにしてしまうなんて
ドメスティックバイオレンス?
一度、喧嘩をしなくちゃ いけないね
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