○プラシーヴォ○
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2001年10月14日(日) 狂わせたいの?

ハム男は本当によく寝る。
私はそれをいつも必死で起こす。

起こしたからって、すぐに話したいことがあるわけでも
行きたい所があるわけでもなくて
目を開けて、私を見ていて欲しいだけ

頬をぺちぺちと叩く
しつこく叩く

苦笑しながらハム男が薄く目を開ける。
「ね…寝かせてくれ…頼む」
私の攻撃を避けるように、背を向けて眠ろうとする。
傷ひとつ、シミひとつない
サラブレッドのお馬さんのような
つやつやの背中

ますます淋しくなる。

「ハム男、アソボウ、アソビマショウ」
耳元で勝手な節をつけて歌う。

「…っうるさい!」
ぐいっと私の顔を手で遠くに押しやりながら
さっきよりは随分と真剣な声で拒否される。

驚いた。

『ハム男、私、うっとおしい?
 起こされるの、ムカツク?』
『ううん。大好きだよ。だから平気だよ』

水戸黄門が印籠を出せば
必ず皆がひれ伏すように

私がいくらちょっかいを出しても
ハム男は怒らない。
それは本当に当然のことだと思ってた。

ハム男の怒った声なんて聞いたことなかったから。
怖かった。

やめておけばいいのに
私はなぜかさらに言葉を重ねてしまった。
「寝すぎだよ!つまんないよ。遊んでよ…」

はあああ
と、本当に苛立ちの混じったため息をついて
ハム男がこっちを向いた。

「目はつぶってるけど…寝てないよ
がちゃ子が横でゴソゴソするから、寝付けない」
ゆっくりした、反論を許さない口調。

再び背を向けられる。

カタカタカタ
私の体が震える。

ウルサイ
オマエノセイデ ネムレナイ

『分かったよ。ごめんね。ゆっくり寝てちょうだい』
と言うかわりに、ハム男の肩まできっちりと
布団をかけて、お母さんが子供にするように
3回ほど優しく叩いた。

ベッドを降りて、テレビをつけてソファーに座る。
もう16時。暗い。電気もつけなくちゃ。

ソファーの上でずりずりと足を動かして
体育座りになる。
ひざを抱えている腕の中へ顔をうずめる。

「もうヤダ」
小さい声で言ってみる

「ヤダヤダもうヤダ」
一度言ってみると
坂道のボールのように
勢いづいて止まらない

淋しいよ 淋しいよ
2人でいるのに淋しいって
どうすればいいの?
1人で淋しいのは分かるけど
2人で淋しいって、もうどうにもできないよ

「やだやだやだ もうヤダ
 もう別れ…」

「おい」

これはハム男の声
顔を上げると、すごく驚いた表情のハム男が見えた。

真っ暗な部屋で、膝を抱えて小さくなって
うつむいてブツブツ言ってる彼女を見たら
こういう顔をするのかあ…
なかなか見れない顔だな

なんだかおかしくなった

そして笑ったらハム男がもっと心配した

「どうしたんだよ…おいで」

ハム男はウルサイと言ったことも
オマエノセイデ ネムレナイと言ったことも覚えてないらしい。

ハム男のつるつるの胸に抱き寄せられて目を閉じる。
眠ろうとする私をハム男は邪魔しない。

私はハム男のそばにいるんだね。
目を閉じてても、それは変わらないことなんだね。


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