○プラシーヴォ○
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ふう、と 以前働いていた会社の知り合いがため息をつく。
「どしたんですか?」 すると、彼女は大きなお腹をさすりながら言った。 「あんな風にね、自分の子供に接することが できるのかなあって思って怖くなったのよ」
彼女の視線を追うと、 畳の上で踊り、歌う子に両親が手拍子をつけて 一緒に笑っているお母さんがいた
「だって、あんなの楽しくもなんともないじゃない。 皆のいる前だからああやってふるまえるかもしれないけど 家で子供と二人っきりになった時に、 まだ言語の分からない子供に話し掛けたり、 子供のレベルで一緒に遊んだりできるかどうか分からないわ」
たしかに彼女は鋼鉄のキャリアウーマンで 35歳にして結婚。
そして初産を控えている。 彼女が赤ちゃん言葉で子供に話し掛ける様子なんて とてもじゃないけど想像できない。
そして次の年、 その心配は無駄だということが判明した
彼女は子供が逃げ出すほど子供に話しかけていた(笑)
ピッシリと体に添ったスーツは デニム地のオーバーオールになり、 くるくるにセットされていた髪は うなじが涼やかなショートカットになっていた。
そして、子供の理解不明な言語に相槌をうち、 笑い、キスをする。
「家ではどおなの? 今は人前だからそういうことをしてるの?」
彼女はケタケタ笑って首を振った。 「家だともっとすごいわ。 もう、可愛くってキスせずにはいられなくって、 常に話しかけてるのよ」
そして彼女は我が子の踊りに手拍子をうつ。
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