Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2009年02月20日(金) 『 ニューヨーク・タイムズ 』 から引用したがる人々の “ 怪 ”



「 何も知らない者は、何も疑わない 」

                                   英語のことわざ

He that knows nothing, doubts nothing.

                                 English proverb



アメリカ合衆国領内の在留邦人数は、約 37万人にのぼる。

その内、研究者、留学生、語学研修生などの学生を、約 4万人ほど含む。


江戸末期、ペリー 提督の来日以降、日米の関係は、極めて良好な時期もあったし、波乱に満ちた困難な時期もあった。

近年は、緊密な同盟関係にあり、観光、商用出張や赴任、短・長期の留学など人的交流も盛んで、他に類を見ないほど、親しい間柄といえるだろう。

世界一の超大国だからという理由もあるが、渡米した経験の無い人でも、アメリカ がどのような場所にあり、どんな存在か、概ね、ご存知だ。

だが、お互いの国情や国民性、生活、文化などについては、よく理解できていない点も多く、「 知っているようで知らない 」 という事柄も多い。

また、同じ アメリカ でも、ハワイ へ観光に行った日本人と、仕事で シカゴ に長期滞在した日本人とでは、まったく、その印象が異なるはずである。


個人的に アメリカ には馴染みが深く、留学も、出張も、赴任もしたけれど、よく尋ねられるのが 「 大学は国立大ですか? 」 という質問だ。

アメリカ には国立大学が存在せず、学費の高い私立大学か、学費の安い州立などの公立大学しか無いのだが、意外と知らない人が多い。

唯一、独立まもない時期に、ワシントン大統領の肝煎りで国立大学を創設したが、運営、財政上に問題があり、数年後、民間に移管されている。

連邦政府は教育行政にまったく関与せず、カリキュラム の決定も、指導も、先生の任免や給与の決定も、すべて自治体の教育委員会が行う。

一応、連邦政府に 「 教育省 [ Department of Education ] 」 という名前の組織はあるが、日本の文部科学省の カウンターパート ではない。


日本の メディア や、あるいは個人の ブログ などが、日本国内で起こった事件について、海外ではどのように報じているか、伝えることがある。

最近の例でいうと、中川 昭一 ( 前 財務・金融相 ) の 「 酩酊会見 」 などが記憶に新しく、アメリカ、イギリス、中国などの メディア が紹介された。

そんな際、いつも不思議に感じるのが、頻繁に 『 ニューヨーク・タイムズ 』 の一面や社説が取り上げられ、しきりに クローズアップ されることだ。

あたかも、それが “ アメリカ の総意 ” であるかのように伝えたり、あるいは “ 平均的 アメリカ 人 の考え ” であるように報じていることも多い。

大手の メディア ならば、企業間で同盟関係を結び、互いに情報を共有していることも考えられるが、個人の ブログ でも、よく記事を引用している。


アメリカ の新聞は基本的に地方紙で、日本の全国紙 ( 朝日、読売、毎日、産経など ) にあたるのは、比較的新しい 『 USA Today 』 だけである。

発行部数の順位は、『 ウォール・ストリート・ジャーナル 』 170万部、『 USA Today 』 140万部、『 ロスアンゼルス・タイムス 』 110万部 となっている。

4位には 『 ニューヨーク・タイムズ 』 100万部、5位に 『 ワシントン・ポスト 』 70万部 と続くが、3位以下はすべて地方紙である。

全米で 571の朝刊、1042の夕刊が発行されており、各州、各都市には、それぞれの地方に密着した新聞が育っている。

日本の大手新聞社と比較した場合、上位でも、発行部数が一桁少ないが、3万程度の部数でも、良質で、世論形成に影響力を持つ新聞は多い。


たしかに 『 ニューヨーク・タイムズ 』 は国際ニュースの掲載が多いけれど、地方紙には変わりなく、それ以上でも、それ以下でもない。

西海岸に長く居た私などは、滅多に読む機会もなく、取り寄せてまで読んだのは、NY が舞台となった 「 9.11 テロ 」 の時ぐらいである。

なぜ、アメリカ では一地方紙にすぎない同紙を、日本で有り難がり引用する人が多いのか、その点は長年の疑問であり、不可解に思う。

たとえば、日本の大臣が NY を訪れた場合、その記事が一面を飾ることもあれば、次回、別の都市を訪れても、一行も記事にならないことがある。

それは地方紙の特徴なのだが、全幅の信頼を寄せていると 「 今回は歓迎されていない 」 などと、誤った判断をする危険も大きい。


それが NY で起こった事件なら、『 ニューヨーク・タイムズ 』 の記事を引用する根拠が理解できるし、他紙より詳細な情報を期待できるだろう。

しかし、「 世界的に著名な新聞である 」 といった権威や、ネット でも簡単に情報が入手しやすいという利便性だけで使うのは、どうかと思う。

東京の住人が、四国や北海道で起きた事件について、毎度、「 琉球新報 ( 沖縄の新聞 ) 」 の記事を引用して語っていたら、奇妙に思うのと同じだ。

アメリカ の新聞の発行部数は、「 国内全域で広く読まれているかどうか 」 より、「 その地方の人口が多いかどうか 」 で差がつくことが多い。

海外の メディア から情報収集すること自体は悪くないが、その メディア の本質、得意領域、報道姿勢を知らずに鵜呑みにすると、思わぬ恥をかく。






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