「 さよならを言うのは、わずかのあいだ死ぬことだ 」
レイモンド・チャンドラー ( アメリカの小説家 )
To say goodbye is to die a little.
Raymond Chandler
引用は、ハードボイルドの傑作 『 長いお別れ ( Long goodbye ) 』 の一節。
しがない私立探偵の フィリップ・マーロー が、女性に呟く台詞である。
この “ しがない ” という日本語は、「 つまらない 」 とか 「 とるにたりない 」 とか、あるいは 「 貧しい 」 という意味だと、辞書には記されている。
しかしながら、ハードボイルド小説の主人公が 「 しがない私立探偵 」 などといった場合には、どこか ストイック で、クール な人物像が思い浮かぶ。
時代劇で、剣の達人が 「 しがない浪人 」 などと名乗るのも同じで、単なる貧乏人ではなくて、ルールに縛られない自由人的な印象がそこにはある。
これが、「 しがない アパート 」 だとか、「 しがない 予備校生 」 などといった言葉に続く場合は、貧弱な感じにしか聞こえないところが面白い。
このように、後に続く言葉で ニュアンス の変わる日本語は、欧米人に伝えるのが難しく、「 義理人情 」 などと同じく、訳し難い言葉の一つだ。
以前、東京の彼女と交際していたときに、「 会えるのは嬉しいけど、すぐにまた離れなければならないのが悲しい 」 などと、よく言われたものである。
当時、遠距離恋愛だからと思っていたが、距離の問題でもなさそうだ。
愛情の強さに関係なく、離れていても想い続けられることもあれば、片時も離れずにいないと不安になる間柄もある。
電話を切った後で、すぐにまた声が聴きたくなったり、会いたくなってしまうのは、けして距離の問題ではないようだ。
そういうカップルにとって 「 さよならを言うのは、わずかのあいだ死ぬこと 」 なのであり、美味い物でも食べるか、強い酒を飲むか、寝るしか術がない。
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