猫も杓子もオリンピックの話題だが、残念ながら 「 ここ 」 もそうである。
なんとも 「 ちょっと、どうしたのよ 」 というぐらい、日本が大活躍している。
議論を呼んだ 「 高橋落選 」 の後、女子マラソンへの興味が半減したという御仁も多い中、「 野口 みずき 」 が堂々の金メダルを獲得した。
これで一番 「 ほっ 」 と胸を撫で下ろしたのは、陸連であろう。
勝ったからいいものの、「 高橋抜き 」 でメダルを逃した場合は、マスコミや世論の非難が集中したはずで、度胸の要る決断だったことは間違いない。
日本人による二連覇という快挙に、「 ほらね 」 とばかりに喜色満面でいる様子が、ちょいと憎らしい気もするが、メデタイことなので許そう。
ちなみに、高橋選手が出場していれば、「 金・銀ダブル制覇 」 だったような気もするけれど、そこまで欲を出す必要もないだろう。
陸連はともかく、野口選手はよく頑張ったと思う。
過酷な温湿度、勾配に加え、テレビの画面でもわかるほど 「 舗装が悪い 」 という条件に耐え、誰よりも粘り強く安定した走りを続けた。
マラソン経験者なら理解できると思うが、「 登りでスパートをかける 」 というのも、勇気と体力の要る 「 賭け 」 である。
トラック競技と異なり、コースの状態によって記録には差が出る種目だけに、タイムは凡庸にみえるが、内容的には 「 王道 」 といってよいだろう。
内容が申し分なく、結果も最良ということで、文句のつけようがない。
良かったとも、残念とも思えるのが、「 室伏選手の銀 」 である。
私も現役時代は、陸上競技 ( 中距離走、長距離走 ) を長く続けていたが、陸上競技には大きく分類して、「 トラック 」 と 「 フィールド 」 の競技がある。
陸上競技場の中で選手が走る場所を 「 トラック 」 と呼ぶのは言うまでもなくご存知だと思うが、そこを走る 「 走行種目 」 を 「 トラック競技 」 という。
つまりは、「 速く走ることを競う種目 」 がトラック競技である。
例外的に、競技場の外に出て走るマラソンは、タイムトライアルであっても 「 トラック競技 」 ではないが、競技者は例外なく 「 トラック出身者 」 だ。
競技場の中で、選手が走る楕円形のトラックの内側にある 「 フィールド 」 では、「 速さ 」 よりも 「 高さ 」 や 「 遠さ 」 が競われる。
それが 「 フィールド競技 」 なのだが、この中では、さらに 「 跳ぶ種目 」 と 「 投げる種目 」 の二種類に大別される。
跳ぶ種目は 「 跳躍競技 」 といって、走り幅跳びであるとか、走り高跳び、三段跳び、棒高跳びなどの種目がある。
投げる種目は 「 投擲 ( とうてき ) 競技 」 といって、砲丸投げ、円盤投げ、槍投げ、ハンマー投げなどの種目が含まれる。
室伏選手は、この 「 ハンマー投げ 」 の種目で、銀メダルを獲得した。
オリンピックや国体に出ることが目的でなくても、大半の人は学生時代に 「 トラック競技 」、「 フィールド競技 」 に参加した経験があるだろう。
しかしながら、「 投擲競技 」 の経験がある人は少ないはずである。
いわゆる 「 体育の授業 」 では取り上げる学校が少ないので、陸上部に属し、投擲を選んだ人ぐらいしか、本格的に扱う機会はないだろう。
その投擲競技の中でも、「 ハンマー投げ 」 を選ぶ人は、さらに少ない。
体力はもちろんのこと、真っ直ぐに距離を出すには、かなりの技術が要る。
私自身、投擲を志したことはないが、同じ学校の陸上部でハンマーをやっていた友人から、借りて試したことがある。
ハンマーとは、長さ 1,175〜1,215mのワイヤーの先に、砲丸 ( 男子の場合は 16ポンド ) をつけたもので、これを振り回して、遠心力で遠くに飛ばす。
16ポンドの重さがどれほどかというのは、たとえばボウリング場で 「 16 」 と描かれた球を持ってみればわかるはずだ。
かなり重いが、成人男子の大部分は、片手で持ち上げられる重さだ。
ボウリング球と異なるのは 「 サイズ 」 の違いで、球の直径は、比重の重いタングステン鋼を使った最小のもので、直径が 110mm と非常に小さい。
一見すると、「 ちょっと練習したら、投げられそう 」 な気もするのだが、初めて試して ( マトモに ) 投げられる者は皆無に近い。
とにかく、重いし、怖いし ( 自分の体に当たりそう )、なにより 「 遠心力 」 に耐えられなくて、軸を固定できないので体がふらつく。
実際に、世界レベルの大会では、16ポンドの球を時速 100km で飛ばし、そのときにかかる遠心力は、350�� を超えるのである。
だから、ハンマー投げの選手は 「 体重 110�坩幣� 」 が標準で、それだけの体躯を持つ日本人が少ないこともあり、競技人口も僅かしかいない。
あの 「 イカつい 」 室伏選手でさえも、体重は最近になってようやく 90�圓鯆兇┐芯�度というのだから、世界からみれば 「 小男 」 なのである。
体格に恵まれていないと通用しないし、非常に難しい技術の修養を必要とするけれども、別の見方をすれば 「 とてもシンプル 」 な競技でもある。
野球やサッカーのように、複雑なルールがあるわけではなく、ようするに 「 重たいモノを、誰よりも遠くに飛ばせば勝ち 」 という単純な種目なのだ。
それだけに、世界中の 「 力自慢 」 が大集合し、ずる賢い戦略や駆け引きなどまったく通用しない 「 力 対 力 」 の真っ向勝負が展開される。
技量に長けて、「 ホームランは打てないけど、バントは得意です 」 だとか、「 コーナーキックは絶妙です 」 みたいな、小兵の巧さは役に立たない。
つまり、「 体が小さい = 絶対的に不利 」 という環境の中で、100年かかっても日本にメダルなど獲れないと思われていたのが、ハンマー投げだ。
ハンマー投げに限らず、オリンピックの投擲競技で日本人がメダルを獲得したのは、今回の室伏選手が初めての快挙である。
彼の身体能力で特筆すべき点は 「 背筋力 」 で、普通の人の3倍に達する 300�垓�の背筋力が、速い回転でも重心を安定させ、遠心力に耐え得る。
それだけでも 「 国民栄誉賞もの 」 の大金星ではあるが、あとほんの僅かで、惜しくも金メダルには及ばなかった。
その距離、たったの 「 28cm 」 である。
ちなみに、彼の靴のサイズは 「 29,5cm 」 で、名実共に、これぞまさしく 「 金メダルまで、あと一歩 」 という距離にあったのだ。 惜しいッ!
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