池ポエム
ハンス



 あらゆる状況を想定してるみかしーを隠蔽するるみかしー

ふと窓に外を見ると、薄曇りの空。冬は曇りの日が多い気がする。その分厚いネズミ色の雲から白い雪が降るのも時間の問題だろう。西も東とおんなじくらい寒いね、と隣で彼女は言った。白い息を吐きながら。頬を赤くして、でもなぜか嬉しそうに。そんな顔を独り占めしている。いつもは四分の一で、そうでなくてもこの人を慕う人は山のようにいて、正直ライバルが多いとかそんなレベルじゃないのだから。

(あの時、楽しかったな・・・)

まだ一週間も経っていないのに。あれから数回会ってはいたけど、じっくり話す時間はとれていなかった。携帯を確認する。メールはない。無理言って作った時間に、こうして人の少ない店で待ち合わせをしているのは、話しておきたいことがあるからだ。次の、いろんなことをしゃべる仕事の前にどうしても。 ほらあの人天然じゃないですか、だから意識していてもうっかり何言うかわからないし、中途半端に口を滑らせてフォローしようとして余計意味深になったりしたら大変じゃないですか。

(ありとあらゆるパターンを想定して・・・)

昨日、一人でシミュレーションしてたら少し胃に負担がかかった。ので、半分は責任とってもらうことにしたのだ。ほら、こういうのってどっちかだけが悪いってことはないってよく言うし。正直、あの時は超テンパった。あたし悪くないもん、て都合のいいつぶやきを10回ぐらい脳内でくり返して、その後ふと隣にいる彼女が幸せそうな顔しているのが目に入って、やっとちょっと落ち着いて服を着た。ああいうのやばい。ここ2年ぐらいで一番心臓さんが働いてたかも。あ、服着てからも、起きたら何て言おうか超悩んだんだっけ、だってまだ肌色部分が多い愛する人に向かってですよ、何て言ったら気が利いてるかな〜なんて、まだ若輩者には難しすぎるというか何と言うか。

(でもアレはないわ・・・我ながらサムすぎる)

『モーニン、ハニー。昨日はかわいかったよ(どやっ)』

「るみちゃん、遅れてごめんね」
「あ、全然いいよ、ハニー」
「ハニー?」
「あ、ちがっ、なんでもないの!今の間違い!聞き流してみかしー!!」

いつの間にか、わかりにくい半地下のこの店の、完全に死角になっている間仕切りのあるこの席にたどり着いていた彼女。ほんとに最近、キャラ同様存在感なくなってる?

「そりゃあラジオでハニー扱いされてるけどさぁ、でもるみちゃんなら全然いいよ。むしろるみちゃんのハニーになりたい」
「ちょっ、みかしー!!」
「 今日外寒いねー。私も紅茶にしよっかなー」
「あ、あのねみかしー」
「?」
「違うの、こないだのね、『アレ』は、ミスチョイスっていうか、そんなつもりじゃなくてね、気持ちは真剣だったんだけど、なんか恥ずかしくなっちゃって!」
「こないだ?」

焦って声が大きくなる。彼女は反対側に素早く座り、マフラーを外しながら話を聞く態勢。でもついでに視線がケーキセットと言う文字を捉えている。こんな時まで食いしん坊キャラを忘れないというより、それが素なんだけど。 ああもう、こっちがこんなに静かな店の雰囲気を掻き乱して焦ってるって言うのに、どこまでもマイペースな。

「あ、そっか。私がハニーならるみちゃんのこともハニーって呼ばなきゃね」
「え?!」
「大丈夫、ちゃんと2人だけの秘密にするから」
「ええええ!?」

なんか指絡めてきてるし。気持ちの切り替え早っ!

「てかさー、片方ハニーだったらもう片方はダーリンじゃない?」
「でも私たち2人とも女子だよ?」
「じゃあ結婚したら両方お嫁さん?」
「あっ、いいね〜それ!お揃いのドレス着ようよ!!」
「いいよーって、そうじゃなくて!」
「?」
「話が未来に行き過ぎてるから!」
「えっと、じゃあ現在の話しよっか」

そこまでおおいに脱線して、ようやく一息ついたらしい。これ以上ないくらいベストなタイミングで店員さんが紅茶を運んでくる。これ、いつ割って入ろうか気を遣わせてしまったパターンだ。後でお店に一言謝っとこう。

「は〜、あったかい」

幸せそうに両手でカップを包む。小さなことに心から嬉しそうなその表情が、大好きなんだってつくづく思う。

「収録の前にみかしーとちゃんと話しときたいと思って。ごめんね、無理言って」
「いいよ。私も、話したかったし」

今度は彼女からではない。それとなく空いた手をお互いが伸ばした。



『もう〜、朝からイケメンキャラはきついよ〜』
『みっ!』
『み?』
『みかしー、とりあえず、服、着て』
『ふく〜ぅ?』
『あの、目のやり場に困るから』



「あの時すごいびっくりした〜」
「うん、みかしーちょっと故郷の言葉になっちゃってたもんね」
「るみちゃんだってホテルの服着ればよかったのに、獅子舞着て帰ったもんね、部屋に」
「そうそう。あたしも超テンパってたもん。よく考えたら、朝起きたら隣に獅子舞がいるってシュールだよね」
「ほんとだねー。津田ちゃんがいたら突っ込んでくれたのになー」
「ネタとしてはおもしろいけどさー」
「どうする?」
「う〜ん。あたし的には、まるっと封印が一番安全かなー」
「そうだね・・・じゃあ話題が出た時用の話考えとこっか?」
「2人で夜中まで、話してたことにする?」
「そっかー、私ツイッターにるみちゃん来たこと書いたから」
「そうそう」
「一緒に寝たことは言ってもいいかな?」
「それ絶対ゆかちんに突っ込まれるよ〜」
「寝息とか?」
「じゃあまぁ、獅子舞と一緒に寝て、寝息はあたしもさっさと寝ちゃったからあんまりわかんなかったってことで」
「うん。決まりだね」
「実際、みかしーの寝息そんなに気にならなかったけどね」
「ほんと!?よかったぁ」
「だって・・・もっと別のことが気になるじゃん、あの状況なら」
「る、るみちゃん・・・こんな明るいところでそんな」
「や、違うってば。そうじゃなくて、あーもう、なんかみかしーとそういうの想定してなかったから焦るー」
「・・・私も。るみちゃんのこと好きだけど、ここまで仲良くできるなんて思ってなかった」

この店が間接照明でよかった。
柔らかく茶色い光が2人を覆い隠す。あと少ししか時間がない。最後に、もう一度いちゃちゃして別れてもいいかな。そんなことを思いつつも、間仕切りの向こうにめっちゃ店員さんの気配を感じる。
この人、さりげなくケーキセット頼んでるんだもん。

「時間ないから、包んでもらおっかな」
「・・・うん、そうしなよ」

年が明けたら、またゆっくり会おう。そうしたら、もう少しだけ・・・。

2013年01月19日(土)
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