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■ 閉鎖する越境
周波数を間違えてはいけないよ
紅茶を片手に、師匠はいつもそう言った。祈りの周波数。聞き違えてはいけない大切な声。祈りの声を聞く者。 師匠とその周りにいる人々はそう呼ばれていた。何人も祈祷省に入ったエリートの巣窟のように噂されている。それは間違いではなかったが、もっと別の存在のようにも思えた。靄がかかった風景の中で、いつも紅茶片手にチューニングをする師匠がいる。
師匠、どうして祈りの声と憎しみの声は似ているのですか
いつだっかた。弟子入りして3年が過ぎた頃だったか。なぜか、その頃は全ての声は似て聞こえた。とりわけ、周波数はお隣同士のこの二つは、気を抜くとすぐ混ざった。隣の国の、訳のわからない言語。でも単語が違うだけで、文法はまるっきり同じだったりする。 解決方法はついに思い出すことができなかった。あるいは教えてくれなかったのかも知れなかった。祈祷省に入る試験では、憎しみの声を聞く力の方が重要視される。今でも、憎悪発見課の連中は、省一番の高級取りだ。 ほんの微かな囁きのようなもの。耳を澄まして、1Hzの狂いも逃さず、聞き間違えず。祈りの声を正確に聞き分ける頃、師匠はいなくなった。この人々は、一人前になると師を失くすようにできていた。代わりにまるでその貧乏と不運を引き受けるかのように、祈祷省に採用されてしまった。 以来、苦労して身につけた割には薄給に甘んじている。世の中が暗いせいだと、嘆くより他にない。ここは楽園ではない。
妙に現実的な思考になったところで目が覚めた。夢だったせいか、それともあの頃に限って思い出すとどうしても靄がかかったような、曖昧な記憶でしかない。 果たしてあの人はそんなことを言っていたのか。 紅茶なんか好きだっただろうか。 笑っていただろうか。怒っていただろうか。 貧乏だったのは間違いない。 どこへ行ったんだろう。本当に、ただいなくなっただけ? ・・・会うことはないんだろう。 残されたのは幾分劣る耳を持つ弟子と、明るくはない未来だけである。窓の外は珍しく朝日が差していた。薄白い光の向こうはいつも世界で、内側ときたら空気の悪い祈祷省お祈り課の仮眠室なのである。
2009年10月20日(火)
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