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■ 練習4
まだもう少しかかるかな。
額の汗を拭いて、傍らの石に話かける。涼しいお堂の中ならまだしも、日差しのあたる中庭に放置され、束縛されたこの子は気の毒の一言に尽きる。人の身であった頃はさぞかし色白の美人だったろうに。
――大丈夫よ、私まだ当分ここにいる気がする
気丈にも、石はそう答えた。 「いや、そういう訳にはいかないからさ」 一刻も早い、無駄な束縛からの解放。無用な縁を減らすのも、術者としての大事な務め。何の因果か、朽ちた寺の中庭に縛り付けられた少女の念。この夏が終わるまでに解けると良い。 とは言っても、これで訪問は3回目だ。治療は依然として続行中。指先が痛くなってきた。これはもう糸ではない。赤い太い縄が、石を這う蔦のように全体を覆っていた。
――今日はひとりなのね
「そうだよ」 前回と、前々回はあのきれいな人と一緒だった。 人間の美醜など、霊体にはほとんど感じ取れないはずなのに的確に言ってのける。まだこちら側に寄っている証拠だ。汗を拭く。手を止めて空を見る。石は八朔の仕草をじっと見ている。
――あなたとあの人、いつも一緒なのにね
「そうでも、ないよ」 人間はね、馬の胴体と首みたいにいつも一緒ではないんだ。 離れて行動することだってできる。
――いなくなったら、どうするの
石の質問はわかりかねた。この世に一人残された、かつて人だったもの。その名残だろうか。 「いなくなることもあるんだよ」 どちらかが先に。 「でもね、またどこかで会えるから、いいんだ」 古い縁を振り解いて、待っている場所へ行ける。この縁も解いて、石だって会いたい人にまた会える。そうして見せる。
――また会おうね
「そうだね。会おう」 石の淵から乾いた音がした。薄くはがれた欠片が、ぽろぽろこぼれた。
2009年09月05日(土)
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