池ポエム
ハンス



 第4回「僕の家」

 ソラの叙任は至って簡単なものだった。あの後、皇帝陛下は満足気にソラの顔を見つめ、ただ「父と同様、わしに力を貸してくれるか。」と言った。型通り、「はい、もちろんです。」とソラは答えた。その時は真っ直ぐに彼の瞳を見ることができた。この時からソラは赤月帝国将軍の息子ではなく、赤月帝国の一兵士となった。晴れがましい気持ちでいっぱいだった。これからだ。全ては。
 気になることもあった。皇帝陛下についてではない。その奥方である、ウェンディ王妃のことだ。彼女はきれいな人だ。この国の誰もが口をそろえて言う。確かに、どんな美人も彼女に比べれば見劣りするかも知れない。ソラには母というものがいないが、女性というものは皆どこかきれいに見えた。たとえば、父の部下であるクレオなど、そこいらの男よりも力強いが、自宅の廊下でふとすれ違う時などはいい香りがした。ウェンディの前を通った時に彼女はソラをじっと見ていた。
 「かわいい坊やね」
 そんな類のことを言われたような気がする。ソラは童顔である。同じ年の少年たちに比べて瞳が大きく、あどけない。兵士としては不向きな顔かも知れない。もっとも人の優秀さなど顔で決まるものではない。ウェンディはソラを何気ない率直な感想の元に評したのかも知れなかったが、どこかこの女の性分というものを滲み出しているようでもあった。皇帝の奥方というものはこういったものなのだろうか。


 ソラとテオが宮廷で新たな方向を定められている頃、マクドール邸では一人の少年が右往左往していた。濃い茶色の髪とくるくるとしたよく動く目が個性的だ。彼は先ほどからマクドール邸を何度も周っていた。一度周るごとに窓から中を覗いてみる。目的の人が見当たらないと思うと、再びぐるぐる周る。彼は彼の無二の親友を探していた。その親友は今日、赤月帝国の兵として皇帝陛下に謁見に行った。少年にしてみれば皇帝陛下に会うなどと夢にも考えつかない。普段は対等に遊びまわっていても、彼と親友には隔たりがある。しかしそんなことを気にする二人ではない。今だって戻ってきた親友にいち早く祝福の言葉をぶつけるために朝から落ち着かなく、家の前で待ち伏せしているのだ。

2002年02月28日(木)
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