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■ 第3回『仕官』
皇帝はテオを間近に寄せると、一振りの剣を与えた。これから北方で起きた暴動を鎮めるために父は将軍として赴く。またしばらくの間家は主不在になる。ソラは父が仕事に出かけることには慣れていた。家にいない間も、ソラの家の者はテオの誇りを感じて暮らすことができた。それは幸せなことに違いない。ソラは父の、そんな配慮をうれしく思った。父への尊敬の念は軍人への父というより、そんな日常に垣間見える父の姿を感じ取ってのことが多い。その父が、このように家から離れる前に皇帝からの重厚な信頼を受ける儀式を行っているとは知らなかった。 「この剣はお前の身を守るのに必ずや役に立つであろう。」 渡された剣はいかにも重みがあった。テオという歴戦の勇士が握り締めるのによく似合った。あれはまだ自分には無理だろうな、とソラは父のその兵士らしさを眺めた。 「皇帝陛下のご期待に沿う結果をご覧にいれてさしあげましょう。」 父の眼差しは心なしか鋭かった。その任命が終わると、皇帝バルバロッサとテオともどもふっと表情が変わった。ああ自分が呼ばれる、と何も言われずとも心が身構えた。父はソラを呼んだ。うながされてバルバロッサの正面に立つ。真正面から見た皇帝という男は、無意識に不思議な空気を発していて、何か普通には物を言いがたい気分にさせた。ソラもまた、どういった口をきいていいものか困惑した。父だって、よその家の子供からすれば十分におっかなく見えるらしい。幼い頃は友達にそんなことを言われて、まるで理解できなかった。今、この皇帝を前にした自分のような気持ちなのか・・・10年以上経ってその時の友達の言葉が頭に染みるように理解できる。 「テオの息子か。さすがにいい面構えをしている。」 低い声だ。だが怖くはない。父や皇帝のような、威厳と重厚を体現する男たちが不器用に笑っている時の、暖かい声。そんな声だった。父の知り合いの軍人をよく見て育ったソラはそんな声をよく知っていた。
2002年02月27日(水)
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