 |
 |
■■■
■■
■ 小説幻想水滸伝第一回『はじまり』
そこは宮殿の中だった。ソラは初めて中に入ったこの場所をゆっくりと見回している。不安な訳ではない。ただ、いつも眺めれば目に入る位置にありながら一度も中に入ったことのないこの場所が珍しかった。目の前にいる精悍な面構えをした中年の男が、あまり見せないかすかな笑みを口の端に浮かべた。 「緊張しているのか」 実父にして帝国五将軍の一人、字は常勝将軍テオ。軍門マクドール家の現当主。若い頃から帝国に仕え、皇帝の信頼篤い。厳格な見かけと同様、律儀で一途な性分は多くの人々から慕われていた。ソラは、その一人息子である。父テオの普段の厳格さからは想像もつかない程、この息子に対する態度は甘い。とは言っても、常に甘やかして育てたのではなく、厳しく礼儀作法を教えたのはもちろん、棒術を幼い頃から学ばせた。ソラが貴族の子弟でありながら、どこか野性味のある風貌をしているのはそのように鍛えられて育ったためだった。少年らしい真っ直ぐな眼差しをしている。その瞳は父に似ていると、昔から近所の大人に言われた。 「皇帝陛下は厳しい方が、立派なお方だ。心配することはない」 黒く輝きのある父の目を見た。今より、ソラの道は父と同じ方向に伸びていくだろう。その記念すべき日。道標が立てられる日。 「大丈夫」 父の方を向いて、ソラもまた微笑んだ。
2002年02月25日(月)
|
|
 |