どんぐり1号のときどき日記
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2007年06月15日(金) 「プレステージ」を観る

 富谷まで足を伸ばして、「監督・ばんざい!」と「プレステージ」を観る。
 今日は「プレステージ」の話だけを書いて、「監督・ばんざい!」は後日にする(まあその程度の映画である)。

 この「プレステージ」は久々に映画らしい映画、しかもかなり上質である。映画好きなら観て絶対に損はない。
 だがこれから先は観た人を前提に「ある程度のネタバレを踏まえて書く」ので、未見の人は見てから読むように。またそもそもネタバレが嫌いだという人は読まないように。
 ただし私は未見の映画であっても基本的にネタバレは否定しないし、ネタバレ程度でつまらなくなる映画は映画ではないと思っている。私はもしかしたら性格的にはアンジャー寄りなのかもしれない。

 さて。
 今回はプリースト原作の「奇術師」を読んだ上で「プレステージ」を観た訳である。この小説がNVでもSFでもなくFTだというところが実は重要で、特に「物質転送機」が絡むあたり、本来はSFにしないといけないのだが、あくまで人間模様がメインなのと、出版社の意向が絡んだ結果がFTなのであろう。
 だが「1900年前後のロンドンで、マジックと科学という二つの非日常が出会った時、人間はどうなるのか」という事がメインになっているので、実はストレートにSFの手法で書かれていると言っても良い(さりげなくクローンのテーマも組み込んであるのだ)。

 実は原作を30ページ程読めばアンジャーとボーデンのトリックは見当がついてしまう。そしてそれはほぼ正しいのだが、それですらこの小説は面白かったし、それ以上に映画は素晴らしい出来だった。脚本と映像の両者とも素晴らしいもので、原作を読んでトリックが判っていてすらこんなに面白いというのは、信じられない事だ。

 双子のトリックはマジックは言うに及ばず、以前は映画界でも多用されていたテクニックである。今さらこの程度のネタで驚く人はいない。驚くのは、そのトリックを維持するためにボーデンが犠牲にしたものである。小説ではトリックの一つは早々に判ってしまうのだが、それによりボーデンがどれだけ苦しい人生を送ったかが主題の一つだと判る仕組みになっている。
 映画ではこのトリックが早めには判らないため(原作を読んだ人は別だ)、かなり不思議なイメージの映像が出来上がっている。そして原作を知っていてすら、やはり映像のイメージは強烈だ。もしかしたら双子のトリックではないのかもしれないとすら思ってしまうほどだ。

 実は小説も映画も、時間軸を再構成して流れを整理してしまうと、ほとんど複雑な問題は発生しない。どちらもトリックがメインではなく、二人の確執、彼らを取り巻く人間模様がメインになっているからだ。
 多分映画での時間軸をそのままに構成すると、恐ろしいほどに判りやすくなるだろうし、それでは二転三転するトリックが全て見えてしまい本当にラストが見えてしまう(ボーデンの娘との約束が、重要なキーになっていたとのである)可能性があるほどに、本来は単純なのである。

 そんな単純な構成を巧みに見せてしまうあたり、監督は只者ではないし、良質のミステリを観ているような高揚感がある。特にラストに向けての演出が素晴らしい。双子のトリックを忘れるような演出が実に上手いし、ボーデンの娘を配置する事で、緊張感が増しているのである。

 なお映画はこの「物質転送機」を小説と同じように扱っているが、原作を知らずSFも特に読まない人がこれを見てどう思うのか、実は非常に興味がある。まさか実在するなどとは考えないだろうが、昨今の日本の非科学的状況をみると、かなり不安になってしまう。
 あれはテスラが実際に作った機械だと信じる人がいてもおかしくないのが今の日本なのである。
 ちなみにデビッド・ボウイはあえてテスラにキャスティングしなくとも良かったかもしれない。というか、あえて彼を出した意味はあまりなかったと思う。彼のカリスマ性というか存在感は、意外な事にほとんど意味もなく出た「ズーランダー」の方が上だったのである。

 しかしアクションのないクリスチャン・ベールの演技が、こんなにもトム・クルーズに似ているとは思わなかった。どんどんトム・クルーズ化していく彼を見ていると、こちらの方がマジックそのものではないかと思ってしまう程だったのである。

 こうして見ると、予想していた程にネタばらしをしなくても、結構書けると判った。本当はもっと色々と書きたいが、そうなるとほとんど映画の時間軸に沿って書き続けなければならなくなるが、それだけの時間はない。
 つまりそれほどこの映画は密度が濃いという証拠でもある。

 なおこの映画のパンフレットは、じつに素晴らしい構成だ。私が望んでいるのはここまで踏み込んだ内容を書いて、なおかつ鑑賞前には読めないようにしてある、こういう配慮がされたパンフなのである。これを編集した人は素晴らしい能力があると言っても良いだろう。


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