新知庵亭日乗
荷風翁に倣い日々の想いを正直に・・・

2002年11月10日(日) エリーゼのために



 
Shinchanは幼稚園で綺麗なピアノの音楽を聴きました。それはいつもおとなしくしているおかっぱ頭のはるちゃんが弾いていたのです。
「はる・・・ちゃん・・・いい音・・・」
「Shinchanもピアノ習ってるんだって?」
「・・・うん・・・なんの・・・きょく?」
「あーこれはね、ベートーベンのエリーゼのための、という曲なの」
「ふーん」

 はるちゃんはShinchanのためにもう一度弾きはじめました。
「ミレミレミシレドラ〜・・・Shinchan、弾いてみる?」
「・・エリーゼって・・・だれ?」
「それはベートーベンさのが好きだった女の人なの・・・」
「ふーん、しんたん・・・はるちゃん・・・すき」

 Shinchanは楽譜を見て弾くというよりは、はるちゃんの弾いている音を覚えて弾きました、何故かすぐ覚えてしまうのです。
「Shinchan!凄い!・・・なんですぐ弾けるの?ベートーベンみたい!」
「・・・・・」
それを見ていたおじいさんの園長先生がベートーベンの絵本を持ってきてくれました。
「Shinchan、はるちゃん、ベートーベンはちっちゃいとき、お父さんからピアノの弾き方を教わったんや、でもな・・・そのお父さん、怖かったんやって・・・そして大人になって、耳がきこえなくなっても、音楽を作ったんやで・・・」

「せんせ、エリーゼさんは?」
「ほんまはなテレ―ゼさんという名前なんや、ベートーベンはそのテレーゼさんにピアノを教えているうちに、好きになったんやなー、そして結婚して下さいと言うたのやけど、あかんかったんや」











 Shinchanは家に帰ってピアノを[エリーゼのための]を練習しました。
大人になって、はるちゃんのために綺麗なピアノの音楽を作って、そしてお父さんとお母さんのように結婚して、Shinchanはピアノの先生なのです。

Jeunes filles au Piano 1892年パリ/オランジェリ美術館
 
そして幼稚園に行ったら、はるちゃんはお休みでした。
「はるちゃんは、黄疸が出て病院に入院しました、しばらくお休みやね」

 Shinchanは二度とはるちゃんと会えませんでした・・・今でも夢の中ではるちゃんと一緒にピアノを弾いています・・・
おぼえてる?・・・はるちゃん・・・いっしょに・・・ミレミレミシレドラ〜



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