++ 記憶の中へ
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■ 母に叱られて行った先は・・・・ 2004年06月28日(月)
 今朝起きたら海渡の顔に赤い発疹が出ていた。盛り上がった真っ赤なボツボツがびっしりと顔の下半分にある。熱はなく、体には出ていないが、ひじの内側とひざの内側にポツポツある。とりあえず、皮膚科へ連れて行った。

 診てもらった結果は、毛虫か蛾のような虫の毒素に触れたらしいということ。熱もないし、人に移るものでもないが、かゆみは相当ひどいらしく、海渡も朝起きたときはかなりかゆがっていた。

 さて、学校はどうしよう。本当なら、熱は無いのだからこのまま遅刻して学校へ連れていくべきなんだろう。でも、顔の発疹は知らない人が見たらびっくりするくらい赤くてひどい。おまけに海渡自身が「おうちにかえる」とぐずりだした。かゆみも相当あるのだろう、このまま学校へ連れていってもぐずって先生に迷惑をかけるのは目に見えている・・・。

 でも、私は急ぎの仕事が入ってきている。おまけに明日は、午前中、海渡の学校の授業の付き添いに行かなくてはならないので、今日一日仕事にならないというのはとっても困る・・・。でも、この発疹の顔のぐずった海渡を学校へ無理やり連れて行って置いていくというのもどうも気が進まない。

 さんざん迷ったあげく、海渡の顔をじっと見つめて言った。

「お母さんはパソコンのお仕事をします。海ちゃんはビデオを見たり、ゲームをして一人で遊んでいてください」

 海渡の返事は素晴らしいものだった。

「はい」と神妙にきっぱりと言った。

 その答えを聞いて、ご丁寧にレンタルビデオショップに行き、ビデオを3本借り、幼児用の雑誌を一冊買った。ついでに私の仕事の資料の本も。

 さて、帰宅後、海渡は本当に一人でビデオをずっと見ていた。お昼ごはんのあとは、ゲームをしてそれなりに一人で遊んでいた。けれど、2時頃になって退屈してきたのと、淋しくなってきたのだろう。「ママ〜」「おかあさ〜ん」と呼びかけることが多くなってきた。私は適当に返事をしながら仕事を続けていた。でも、遊びの相手をしてやるということはなかった。そのうちに「ママ、来て」と言うようになった。ついに

「おかあさんは、お仕事って言ったでしょ」

ときつい言い方をしてしまった。海渡は何も言わなくなり静かになった。

 ふと気づいたら、海渡の気配がなくなっていた。玄関を見るとサンダルがない。ベランダから公園を見るとブランコに乗った海渡がいた。公園でしばらく遊んだら気分が変わっていいかもしれないと思って、そのときは連れ戻そうとは考えなかった。10分後、ベランダから確認したら、いなかった。
 あちこち探し回り、マンション内にも見当たらず、もう一度海渡が行きそうな場所を考えて見た。やっぱり行くとしたら、学校しか思いつかなかった。そこへ電話がなり、予感がした。

 小学校の特学の担任の先生からだった。
 学校の門のところにいるのを子どもを迎えに来た他のお母さんが見つけて先生に連絡してくれたのだった。門で、おもらしをしたらしく、ズボンを脱いで、サンダルも脱いで裸足だったらしい。

 迎えに行ったら、私を迎えがてら家まで送りに行った特学の担任の先生海渡と入れ違いになってしまった。2年生の担任の先生にお話を聞くと、職員室に海渡を連れて行って「おかあさんは?」と聞いたら、海渡は

「ぱそこんしてる・・・」

と言ったらしい。それを聞いて頭をガンと殴られたような気がした。パソコンのお仕事をしているから、邪魔をしてはいけないという気持ちがあったのだろう。そして、約束したのに遊んでほしくて、叱られてしまったと思ったのだろう。

 母に叱られて、海渡が行った場所は小学校だった。
 どうして小学校まで行こう思ったのか、小学校へ行ってどうしようと思ったのか、海渡の口から聞けるはずもなく、私は思いをめぐらすしかない。
 行くところが小学校しか思いつかなかったのかもしれないし、先生に会いたかったのかもしれない。おしっこがしたくなったのはいつからなんだろう。公園でしたくなって家に戻ろうとは思わなかったのだろうか。私に叱られると思ったのだろうか。あるいは、小学校のトイレに行こうと思ったのだろうか、それとも小学校へ着いてからもよおしたのだろうか・・・・・。

 本当のところは海渡自身しか分からないけれど、海渡が小さな胸で考えて考えてしたことなんだろう。ただ、行こうと思いついた場所が学校で本当に良かった。

 入れ違いになって、家に戻るとテスト期間中の娘が海渡と待っていた。
 海渡は私の顔を見て、安心したような、でも少し不安そうななんともいえない表情をしていた。けれど、すぐに私に抱きついてきた。

 「海ちゃん、どうして学校へ行ったの?」

と聞くと、不明瞭な発音の聞き取れない言葉の中から

「・・・こうえん・・・ぶらんこ・・・がっこう・・・せんせい」

という単語だけが聞き取れた。

「先生に会いたかったの?」

「うん」

 母に叱られて、先生に会いに行ったのだ。
 反省や、後悔や、自責や、そのほかいろんな思いがわきあがってきた。

 やっぱり、無理やりでも学校へ連れて行けば良かったのかな。
 それとも、あとでどんなにしんどいことになっても、今日一日仕事をしなければ良かったのかな、それとも海渡が淋しがった時点で仕事を止めるべきだったのかな・・・・

 そんなことをぐるぐると考えつつ、海渡には「黙って外へ出て行かないこと、おしっこがしたくなったら家に帰ってくること、外でおもらしをしてもズボンを脱がないこと」なども言い聞かせる。

 海渡に言い聞かせながら、自分にも言い聞かせる。いろんなことを・・・  



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