引越のシーズンだ。103号室にも新たな住人がやってきたようだ。 私は、現在「清和荘」というアパート(まるでどこかの老人ホームみたいなネーミングだ)の105号室に住んでいる。106号室に住むおばさま(隣人)は決して悪い方ではないのだが、時折彼女に驚かされることがある。例えば、深夜の12時にだね、ベランダ越しに話しかけてくることがある。「お兄ちゃん、畑(家庭菜園)でとれたんだけど、きゅうり食べるかね」ってな内容だから、TPOさえわきまえていただければ評価は全然違ったものになるはずなのだが。さすがに深夜にいきなりはびっくりする(あの方のなかには「いきなり」という意識は恐らくないのだろうな)。とは言っても、そんなのは可愛いもんだと思えてしまう。 今の住居に越して来る前は、庄内通のほうの安アパートの2階に住んでいたんだけど、住人は結構くせ者揃いだった。一方の隣人はアル中男A(後で詳しく)、もう一方がシャブ中男(「シャブ中」は、私が入居した時にはすでに服役中であった。結局一度も会ったことはない)ときたもんだ。それに、Aのお隣は「暴走族」だというではないか。その他、1階には、水商売風の女性にヒモ男がくっついて同棲なんかしちゃって。それと、絶滅寸前の「トキ美容室」てな感じの美容院(ここのおばさんもきつそうな感じだった)があったよ。 Aと言えば、酒癖がわるかったよな。安アパートなので隣の部屋から聞こえる声、すごく響くんだ。週に1,2回、酔っぱらったAの声を聞くのがたまらなく嫌だった。気になって夜眠れやしないし。真夏なんかお互いに網戸の状態にしてあるから余計に声が聞こえてくる。「バカ野郎、暑いなあ」なんて言われたってどうしようもねえだろ。別に私に対して言ってるつもりはないだろうけど、気にならない方がおかしいだろ。そういえば、Aのヤツ、アパートの階段(酔っぱらいにはきつく急な階段だ)を登り詰めたまではいいが、力尽きて私の部屋の真ん前で眠りについてしまったこともあった。 Aのことではホント話が尽きないが、もう一点。ある朝なんか、Aの部屋から聞こえてくる目覚まし時計が10分以上鳴りやまないので(結構早い時間帯でセットされていた)Aの部屋のドアをノックした。すると中からAの声が返ってきた。「うるせえ」だとさ。「バカ野郎、てめえ。元はと言えば、てめえが目覚ましをいつまでも消さねえのが悪いんだろ」「ブッ殺すぞ」などと声に出さないまでも、普段は温厚な私めだって我慢ならねえって話さ。 アパートを探すのに、家賃や間取りはチェックできても、「どんな隣人が住んでいるか」などといったデータはまずない。その点は運任せだ。隣人しだいで生活が楽しくもなり、きつくなったりもするのにね。 住居選びにせよ、仕事選びにせよ、私たちは人生のあらゆる局面で何かを選び取る行動に出る。だが、選んでいるようでいて、実は選べない事柄のほうが多い気がする。人間関係においては特にね。まあ、それが人生ってものなのかもしれない。 偶然の産物ってやつさ。と同時に偶然から出発して必然を生み出すってこともある。人生、何があるかわからない。でも、それだからこそ、楽しいわけでもある。
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