十夜一夜...Marizo

 

 

彼女の63年 - 2020年01月19日(日)


高校二年生、17歳。
彼女の右胸に腫瘍が見つかった。

自分の体に何がおこっているのか
どうして右胸だけが大きくなっていくのか。
どうすればいいのか、言うことが怖かったのか。
彼女の母親が気が付いた時には
腫瘍は17センチの大きさになっていた。

右胸を切除。

ただ当時の医学では腫瘍がガンなのか
はっきりとはわからなかった。

入院のため長く学校を休んだ。
もともと内向的な性格でもあった。
家が自営業をしていたこともあり
高校を卒業後、彼女は一度も外で働くことなく家にいた。

腫瘍の再発におびえていたかもしれない。
5年が過ぎ、10年が過ぎた時には
少し安心したかもしれない。
それでも彼女は家にいることを選んだ。

そして、30余年がたった時
左胸に乳がんを発見した。
自分で。
お風呂場で。


左胸を切除。

今回ははっきりと腫瘍は悪性であると診断されたため
半年に一度の病院通いが始まる。

5年が過ぎ、10年が過ぎた時には
自分の体の現状を親にも妹にも「大丈夫」の
一言だけの報告で済ませる日々が続いていた昨年10月。

「このまま治療をしなければあと一年半だって」

医師からの余命宣告を家族に告げる。
そして、「治療はしない」という自分の意思も
家族に告げた。

それから二か月後の昨年12月20日入院。
そして令和2年1月17日金曜日の朝、この世から去った。

週末にお通夜と告別式。

入院した日から何も口にすることがなかった彼女の体は
あっという間に白い骨になった。


働きたい、お給料をもらってみたい。
結婚したい、お母さんになりたい。
旅行をしたい、いろんなところに行きたい。
料理が上手になりたい、美味しいものを食べたい。
気の合う仲間と語り合いたい。
馬鹿な話でおなかを抱えて笑いたい。
健康に生きていきたい。


たくさんの、たくさんの夢を
生きること、生き続けることを
彼女が諦めたのはいつだったんだろう。


86歳の喪主の涙がとてもつらかった。


しげちゃん、さよなら。

Marizo















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