十夜一夜...Marizo

 

 

地図屋 - 2002年10月08日(火)

しらずしらず 歩いてきた
細く長いこの道。
振り返れば はるか遠く
故郷が見える。
でこぼこ道や 曲がりくねった道
地図さえない それもまた人生。


大変な思いをしてやっとたどり着いた地図屋。

探して 探してやっと見つけたその場所は
日々の通勤の道程にある一軒屋だった。
呼び鈴も何もない玄関に立ち そっと引き戸に
手をかけた時 古びた家には不似合いな
デジタル的な音がした。

まるで 「本日○時にお伺い致します。」と
アポイントを取り付けてあったように
いらっしゃいませスリッパが置かれているのを見て
不思議と心が落ち着いてきた。
順路と書かれた矢印に従って進んだ廊下の先には
全身が映る鏡、姿見が置いてあった。

そうか。これが「六感センサー」なんだ。

姿見に映った自分は 確かにもう少し
ここがこうだったらいいのになと言う
お習字で言う 朱色の直し字が沢山書き込める状況ではあるが
六感センサーなのだから 見た目よりも
中身で勝負!みたいなお見合いの写真を撮るような
気分になってしまった。


また順路の矢印に従って進んだ先は
まるでレンタルビデオ屋かと思うような
明るい一室であった。ただ違っていたのは
棚に置かれているのはビデオテープではなく
地図ということだけ。


人生という名の地図は 白地に筆字で
タイトルしか書いていない。
真空パックのような透明のビニールで
包まれているので いかにも「これは貴方を
喜ばせちゃいますよ。ウヒヒ」的な雰囲気を
かもし出しているところが 心憎い感じである。

何千本あるか数えたら良かったのかもしれないが
多分 初めての経験でかなり余裕がなかったので
ランプがついている地図が私が選択できる地図だと
気がつくまでにも 十分な時間が掛かってしまった。


「権」「誉」「愛」「夢」というタイトルで
容易に想像がつくものから
「歯」とか「歩」という訳のわからないものもあり
アダルトコーナーそっくりの のれんの向こうには
「怨」とか「呪」とかもあって
とりあえずランプがついていない事に
ホッとしている自分が
ちょっといい奴だなって思ったりしていた。


バイク乗りには 極稀にランプがついていると言う
「無」の地図には 残念ながらランプがついていなかった。
ちょっと残念とは思ったけれど
それが 当たり前なんだと・・・まだまだなんだと・・・


ぬいだスリッパを 次の人の為に揃え
引き戸を閉めた時に 今度ここに来るときには
どの地図のランプが消えているんだろうと
正直 不安ではあったけれど 
多分 その事は受け入れられるだろうと感じた事が
何故か「無」近づいているような気がした。
Marizo












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