【私はガス室の「特殊任務」をしていた】 副題:知られざるアウシュヴィッツの悪夢
読売新聞の書評欄で知って購入。インタビュー形式なので、長編が苦手な人にも読みやすいんじゃないだろうか。読解力の有無は別として。 ギリシャ生まれ・イタリア系ユダヤ人という日本人にはなかなか複雑に思える境遇の著者は、21歳のときアウシュビッツに強制収容されてしまった。しかし体格がよかったため、すぐにガス室に送られることはなく、特殊任務部隊に配属される。
任務は、各地から列車に詰め込まれて到着する同胞を、ガス室に入れて密閉したあとドイツ人SSがガスを注入するのを待ち、全員の死亡を確認したら20分間扇風機を回した後で中に入って死体を引きずり出し、女性の髪を切り金歯を選り分けてから、焼却棟に運ぶこと。 死体を運び終わったら、次に到着するグループに疑われないよう、血や排泄物や吐瀉物で汚れたガス室の中をきれいに掃除する。怯える女性や子供に「シャワーを浴びるだけですよ」と言い聞かせて、ガス室に入れる。
彼は徹頭徹尾「自分がしたこと・見たこと」を語っているので、死に至らしめる嘘を吐くときのやりきれなさ、死体を運ぶときの汗や疲労にたとえようのない臨場感がある。
血泥にまみれた日々の果てに、戦争は終わり彼は自由の身になり結婚し家族を得て、69歳(1992年)から自分の体験についての講演を始める。 実に戦後47年。この体験を人前で口にすることの難しさをその年月が何より雄弁に物語る。
感情的にナチスや戦争を罵る言葉はほとんどなく、あの場で起こったことをできるだけ正確に語ろうとしていた著者が、ある仕事について語った際に「仕方がなかった、この地獄では他に選択がなかった!」と一瞬感情の高ぶりを見せるのがとても印象深い。 ああこのひとは死ぬまで自分を責めるのだと、気づいても誰も彼を救えない。ユダヤの神が、彼の死をもってその魂を地獄から解放してくれることを願うばかりである。
著者: シュロモ・ヴェネツィア /鳥取絹子 出版社: 河出書房新社 ISBN:9784309224954 本体価格 2,000円 (税込 2,100 円) 送料別
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