| つづき |
「もう、だいじょうぶですから」
そう青ざめた顔で薄く笑う利吉にかまわず、 がしがしとぬれた髪を乱暴に手ぬぐいで拭う。 心配が半分と、強がる利吉に対する腹立ちが半分と。
「大丈夫じゃないだろう。君もいっぱしの忍者なら、 自分の体のことぐらいはきちんと把握しなさい。」 「把握してますよ。だから大丈夫だって言ってるんです。 後は自分でできますから。」
あくまでも頑固な負けず嫌いである。 この子はどうしてこうも自分に対してだけつっぱるのか。 父親の前ではあんなにも従順なくせに。
自分でできる、といった利吉にかまわず半助は血と雨で濡れ雑巾のような装束を剥ぎ取った。剥ぎ取って、目を見張る。
ぬれた体に無数の矢傷。 新たに血を流す、刀傷。
装束の血は返り血だけではなかった。 利吉の体を冷やしているのは、雨のせいだけではない。 どくどくと、流れ出る血液がまた、利吉の体温を奪っているのだ。
「馬鹿か君は。止血もせずこの雨の中を。」 「ええ。馬鹿なんですよ私は。大ばか者です。」
利吉に初めて会ったのは、4年前のことだった。 学園に就任して初めての夏休み。独り者の半助に気を使ってか、 同僚であり先輩である山田伝蔵の家に招かれたときのことであった。 数えで12になろうかという少年は、滞在日数がかさむ度に半助に対してかたくなな態度を増していった。 申し訳ながる伝蔵に 「難しいお年頃ですからね」 と笑い。それからまったく顔をあわせる機会が無かった。
そうして3年ほど過ぎた頃に、ぽつりぽつりと、彼が実戦に出ているといううわさを聞き、大きくなったんだなあ。などと、子供の3年という月日の大きさに改めてしみじみとした。
当時から忍びの素質は充分にあったし、その判断力、冷静さは子供とは思えぬほどだった。いい忍びになるだろう、 と心ひそかに楽しみにすらしていたのだ。
だからこそ半助は、この有様を見て腹を立てた。 こんな、投げやりな。
「甘えるな。君は父上から何を学んできたんだ。」
忍びは生きて帰ること。存在そのものが、機密なのだ。
「こんな状態でフラフラ歩いて、敵に見つかったらどうする。こういう時はどうすればいいか、子供じゃあるまいし知らないわけじゃないだろう。」
さらしを強く傷口にまき、細かい傷に薬を塗りこみながら ぶつぶつと説教をする。 そうしていないと、不安でしょうがなかったから。 沈黙が降りた瞬間、利吉の呼吸が止まってしまいそうな気がしたから。
「…子供ですよ私は。」
驚いた。 彼は何よりも子ども扱いされることが嫌いだったはずだ。 どうしたんだ、と、ぽつりとつぶやいた利吉の顔を覗き込んでみると、うつむいたまつげが小さく震えていた。
まだつづくんだ…
今日中に表紙塗り終わればいいなーなー。 今回はいつになくこてこて塗りしてるので、たのしーけど作業が進まん。
きのうチャットで遊んでくれた、めごさんさくさんはづきさん、とてもありがとうございました!!やぱしチャットはたのしい。 でも、こんどっからはちゃんと週末にセッティングするべきだと反省しましたよ。皆様今日お仕事だいじょうぶでしたでしょうか… 結局最後に小利吉中利吉を描いていました。 原稿がんばって、宿題がんばるよ。
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2004年08月17日(火)
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