2002年01月23日(水) |
電話越しの笑顔(弟×兄) |
高校に入って寮生活を送るようになったおかげで、あの煩わしい気持ちになることもなかった。 兄貴の姿をみないせいもあったけど、帰ってきてるけどあまり逢わないからほっとしてた。 だから、久々に家に帰って油断してた。
「石川くんいますか?」
電話越しの声は少し高めのトーンで。 前にかけてきた子とは違う子だとわかった。 わかりたくない、きづきたくない事だったけれど。
・・・まただ。
いつからか電話をとるたびに胸のあたりがムカムカする。 それが女の声だったりあの仲間だったりするとなおさら。 つーか、携帯にかけりゃいいのにわざわざ家にかけてくるってのもどうかと思う。 俺だって出たくないのに誰もいなきゃ出るしかないし。 で、出たらいかにも軽そうなしゃべり方にむかついて、わざと電話切ったこともあった。
「お〜、純。ゲンキかよ〜」
あんたらに慣れなれしく声かけられる覚えない。 それに、声聞くだけでわけもなくムカついてイラついて。
・・・・いや、本当はわかってる。 その気持ちから逃げるために寮に入ったんだから。 だけど結局姿が見えないことに耐えられなくて、こうやってしょっちゅう家に帰ってるんだから笑える。 電話の声からも自分の気持ちからも逃げたのに。 結局は追いかけてる自分。
「なんだよ、帰ってたのかよ」
俺の姿を見つけて兄貴が不機嫌そうな顔を浮かべる。 兄貴についていきたくて始めたはずの野球が、今じゃ離れていく原因になった。 笑えるくらいすべてがうまくいかない。
「兄貴に電話」
去ろうとする後姿に言うと、振り帰って俺の手から受話器を奪い取られた。 ムカツクと思いながらなんとなくその横顔を眺めていたら、ふいに笑顔になった。 不機嫌そのままの顔だったのに、受話器から声がした途端笑顔になった。 相手の言葉にだけれど、久々に見る兄貴の笑顔に見惚れていた。
今じゃ絶対に自分には向けない笑顔。
そう思ったとき、胸にいつもとは違う痛みが走った。
2002年01月21日(月) |
東京大学物語前(バンビアニ) |
三年生になったということで、俺達は進路を決めなければいけなくなった。 けど、俺は大学生だしマスターは店持つとかいってるし。 うっちーはまあ相変わらずだけど。 問題はぶっさんとアニ。 この二人は就職組だから確実に今から動かないといけないってのに。
「なんでもいいしな〜」 「いざとなったらフリーターでもいいし」
担任の嘆く声をよそに、まるでやる気にない二人に呆れながら。 内心、ほっとしてた。 フリーターでもとかいってくるらいだ。少なくともここを出るつもりはないということで。 離れるこにならないと思って、安心した。 別に高校卒業しても仲良くしたいとかそんなこと思ってるわけじゃない。 ぶっさんとは気まずいからどっちかっていうと離れたほうがほっとする。 けど、アニとは別れたくないと思った。
いや、別に離れるのは嫌とかじゃなくて! アニは何しても長続きしないし。 禁煙するとかいっても出来ないし。 すぐトラブルし。 誰かがいないとてんでダメなヤツだから。 あえて俺がそばにいて見張ってようと、そう思っただけだ! だから、離れないことに安心した。 ただ、それだけだ。
「アニおそくね〜?」 いつものように野球をするために集まってたけど、アニの姿がなかった。 しばらくキャッチボールしたりしてたけど、現れる気配がなかった。 なんかまたトラブったんじゃないだろうなと心配したけど。 「また女のとこじゃね〜の?」 マスターの言葉に、胸のあたりがムカムカするのを感じた。 人が心配してやってんのに。 ムカムカして落ちつかなくて、その気持ちを無意識にボールにぶつけてたらしく、ぶっさんから抗議された。 それもこれもアニのせいだ。 ムカムカする・・・・・! 怒りがピークに達しようとしたとき、アニらしき姿が見えた。 だけど、咄嗟にアニだとはわからなかった。 アニのトレードマークとも言える金髪が、黒髪になっていたからだった。 「どーしたんだよ、その頭」 「ん〜?就職活動のため」 「就職活動!?」 心底驚いたマスターの声が響き渡る。 そりゃそうだ。 俺だって驚きのあまり声が出ないくらいだし。 つい最近まで「フリーターでいいや」とか言ってたヤツがいきなり髪染めて就活してるなんて聞いたら誰だってびびるだろうが。 「で、結果は?」 「バッチリ!即オッケー!」 コイツは昔からこうだ。 面接とかには必ず受かってた。 まあ、愛想がいいからなんだろうーけど、でも次から長続きしないからこうなってんだよな。 そのアニが、就職。 そんなもの好きはどこだよ。 「東京の○○ってとこ」 ・・・・・マジかよおい。 東京って、あの東京かよ!? こっから二時間弱はかかるとこに、わざわざ通うのかよ? 「やっとあの家から出られるぜー」 その言葉を聞いて、打ちのめされそうになった。 よほど嬉しいのか、すっげ笑顔で言われたけど俺にとってはメガトン級のパンチを貰ったような気分だった。 家を出るってことは、東京に住むってことで。 離れること間違いなしじゃねーかよ!? そんなの納得出来るわけない。 どうする・・・どうする・・・・・・・・・って、○○? ○○って確か、大学あったよなあ。
「・・・・・・」 「お〜い、バンビ?」 「わり、先帰る」 制止の声も聞かずに俺は速攻で家に帰った。
そして次の日。 職員質で呆気にとられるを担任をよそに、声高らかに宣言した。 「大学は○○に決めました」
別に、アニが東京いくからじゃなくて。 あの大学がいいかと思ったから決めたんだ。 決して、アニが一人暮しするからとか。 邪魔な純がいないからとか。 そーいうわけじゃない!!
・・・・・・ハズだ。
こうして、俺(達)の東京大学物語はスタートした。
街中を走る俺の顔を、通りすぎる人達がすげえ顔して見てくる。 きっと今すげえ形相なんだろうと思ったけど、そのままにしてた。 俺がこんな顔して走ってるなんて、明日はきっと噂になってんだろうな。 木更津のヒーローとか言われてるらしいけど、そんなの俺の知ったことじゃないし。 つーか、そんなのに構ってるヒマなかった。
「純の兄ちゃん、木更津を出るんだってな」 「は?なんだよ、それ」 「うちの担任純の兄ちゃんを受け持ってたらしくて、さっき職員室で話してたの聞いたんだけど・・・」
知らなかったのかよ?とか言われて。 兄貴のことをダチに言われて初めて知るなんて・・・・ しかも、木更津を出ると。 それは俺のそばから離れるって言われたも同然で。 気づいたら教室を飛び出してた。
俺が野球を始めてから兄貴との距離は開いた。 けど唯一の共通点でもあるから辞めることが出来なかった。 三つ差だから学校も違うし、当たり前だけど学年も違う。 いつも兄貴のそばにいるアイツラに比べて、俺と兄貴の繋がりは一つだけしかない。
「血の繋がり」
だけどそのたった一つが俺にとっては煩わしいものでしかなくて。 だから、それとは関係なく兄貴との繋がりを持っていたかった。 そうすれば、昔みたいに・・・・・俺の、俺だけの兄貴でいてくれると信じてた。
それなのに、兄貴は離れていく。
そんなの聞いてない。 俺に黙っていくつもりかよ? 俺になにも言わず・・・・・消えようと。 そんなことも話さないほど、俺達の距離は遠くなったってのかよ?
そんなこと許さない。 黙っていかせられるか。
「兄貴」 ノックと共にドアを開けると、以前来た時とは比べものにならないほど何もなかった。 ・・・・正確には、ダンボールが置かれていた。 その殺伐とした部屋が、あの言葉が本当だと物語っていた。 「兄貴、木更津出るってホントかよ?」 「ああ。あっちに就職決まったから」 さらりと言われて。 それが余計頭にきた。 「んだよ・・・・・そんなこと聞いてねえよ!」 怒りに任せて言った言葉に、兄貴は呆気にとられた顔を浮かべた。 なんでアンタそんなに冷静なんだよ。 俺ばっか怒って・・・・馬鹿みてえじゃんか。 「なあ、なんでだよ?」 「一々言うことじゃねーだろ?」 至極当たり前のように言われた言葉に、俺はひどく落ちこんだ。 コイツは、なんもわかってないんだよな。 俺が、今までどんな気持ちでここにいたか。 今・・・どんな気持ちかなんて、考えたこともないんだろ。 俺のことなんて、全然考えないんだろうな、コイツは。 「兄貴、全然わかってないよな」 力なく言ってドアを閉めた。
次の日、親に高校で寮に入ることを言った。 実家から充分通える距離だったけど、兄貴がいない家に居たって意味ない。 家にいると嫌でも兄貴の姿を探して・・・・そこに兄貴がいないことを思い知らされる気がして。 そんな思いを抱えたまま野球なんて出来るわけがない。 兄貴との繋がりである、野球を。 兄貴がいなくなった時に、兄貴のことを考えながらなんて出来るわけない。 「せっかく俺がいなくなるから部屋もう一つ使えるようになるのにな〜」 ・・・・ホントにわかってない。 わかってないから言える、残酷な言葉。 どうせ離れていくなら無理やりにでもわからせてやろうかと思ったけど。 そうしたら本当に兄貴との繋がりがなくなってしまう。 だから俺は黙って去って行く姿を見送った。
見送ることしか、出来なかった。
2002年01月18日(金) |
キッカケ(弟×アニ アニ視点) |
中学生の時から野球をやってた俺のあとを純は着いてきてた。 日曜とかダチと練習するときも、ついてきて見てた。 ウザイからって置いていこうとしても泣きながらついてきたりするもんだから、仕方なく連れてきてた。 見てるだけなのに何が楽しいんだかわかんねえけど、嬉しそうに見てるからそのままにしてた。
それから純も大きくなって野球が出来るようになったらしく、気づいたら近所の野球チームに入ってた。 「兄貴みたいになるんだ!」 尊敬の眼差しを向けられて、悪い気はしなかった。 つーか、むしろ嬉しかった。 実は、純が野球を始めて1番喜んでたのは俺だった。 俺の部屋でテレビで野球見ながら話したリ二人で野球見に行ったり。 そういうことが出来て、正直かなり嬉しかった。
けど。 そのうちアイツのがうまくなって、俺が「アニ」と呼ばれるようになってからは、二人で野球の話することがなくなった。 俺は野球好きだけど、がんばってうまくなろう!とかいう気持ちは持ってなかったし。 甲子園目指してがんばろう!とかいう気持ちもなかったし。 はっきり言って趣味程度だった。 だから俺は純がどんどんうまくなっていくのが素直に喜んでた。 アイツもなにかあったら俺に1番に言ってきたし、俺が「すげえな」って言うと嬉しそうな顔してたし。 俺達の間はうまくいってた。
けど、周りが勝手に比較して、親まで比較すっからむかついて。 気づけば純と話すことはなくなった。 一緒にいれば比較されるから、避けるようになった。 そのうち1番苦手なヤツになった。 純が悪いわけじゃねえのはわかってっけど・・・・・避けてしまう。 その度に純が責めるような視線を投げるのに気づいてたけど、俺は何か言う事が出来なかった。
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