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「暗幕」日記

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2007年09月19日(水) 創作「真夏の襟巻」

笠井先生はTシャツの首に細く白い襟巻をして現れた。今は七月なのに変でしょうと言いかけて、答えを待たずにその理由に気がついた。白い肌に浮かぶ見間違えようもない気管切開の痕。
その瞬間先生は襟巻きを掻き合わせて困ったような微笑を浮かべた。だから、先生も、俺がその痕に気づいたことに気がついたんだと思う。僕らはどちらからともなく話題を逸らしていた。

僕らが高校三年だった十一月、先生はバイク事故を起こして病院に運ばれた。まる三日間意識が戻らず、一時は生命さえ危ぶまれた。生還を果たした先生はリハビリの結果驚異的な回復を遂げて、この夏休みあけから社会復帰することに決まっている。だが僕らの卒業を見送ることはできなかった。

「荷物は俺が車まで運びますから、先生はどれがご自分のか指し示してくださるだけでいいです」
事故のあと学校関係者が先生の代わりに、当時のアパートを引き払い、私物は俺と同級生で旅館をしている長田が物置に引き取っていた。どうやら一人で生活できるまでになった先生は、その家財道具を引き取るために俺を呼んだのだ。

「普通免許もお持ちでしたよね、二輪だけじゃなく」
「…すまないけど、当分、ハンドルを握る気にはなれないよ。事故の前後は、記憶がほとんどないのだけれど…」
「俺、時間ありますから。」
物置に収納されたのは比較的最近のはずなのに、先生の荷物にはうっすら埃がかかっていた。もしかしたらそのまま忘れ去られたかもしれない、少し型の古いラジカセ。

「あ、ちょっと待って。」
車のトランクを閉めて、長田のおやじさんに挨拶をする前に、先生はサイドミラーの前で立ち止まった。
「まだまともな鏡もなくてね。見苦しいものをお目にかけては申し訳ないから」
男の肌に傷がついて見苦しいというのではなく。
彼と近しい人間ならば誰でも、思いだされてしまうのだ。事故を知らされたときの、心臓が握りつぶされて凍るような気持ちを。誤報であってくれと、死なないでくれと、祈るしかなかったあの時間を。
授業では脱線ばかりで、生活指導もやる気があるんだかないんだかわからないいい加減な人だと思っていた。けれども、この人はちゃんと分かっている。誰かの想いが自分に向けられていて、今回自分を生かしてくれたのはまぎれもないそれらの一部なのだと。

先生の新居に荷物を運び込んだあと、配置を手伝うつもりだった。けれどそれはいいと先生は言って、代わりに飲みに付き合わされた。先生は覚えていないかもしれないけど、俺は覚えていました。先生。前のマンションで、高層から吸い込まれそうになるって言ってましたよね。今度が三階なのは、だからですか?
「俺、大学生は暇ですから、よかったら電話ください」
俺は半ば押し付けるように携帯の番号メモを先生に手渡した。いつか本当に先生が落ちていってしまいそうな気が、まだ、するからだ。


2007年09月06日(木) 創作:どんな風も

どんなかすかな風も
今の私には耐えられない
ひりひりと痛む赤むけた肌
じくじくと膿んだ傷
幾重もの包帯に覆われ
布団に隠れさせておかなければ
息をし続けることさえ
かなわない

このまま
永久に
床についたままではいられない
けれど どんな変化も
今の私には 耐えられそうにない
この傷が
皮膚が裂けたまま
赤く露出した傷が
せめて覆われて
痛まなくなるまでは


2007年09月02日(日) ドラマCD感想:インフィニティブレード第1巻限定版〜杉田智和の無駄遣い〜

※このログは、特殊嗜好を含む内容のコミックに関するものです。
一部フォント色換えで伏せました。

コミックにドラマCDがつくというので、内容も知らずに限定版買ってみました。はじめて単行本をパラ見して、自分の趣味でないのがはっきりしました。
どういうことかというと、グロテスクなシーンがメインの話だからです。具体的には女の子の乳房を剣で突き刺したり、人体切断したりする漫画だからです。

ファンタジーとして男性同士の仮想恋愛(BL)を嗜む層が例外であるように、こうした漫画を好んで読む層もまた例外だと思います。個人的には、商業誌というより同人誌のような媒体で出るような内容だと思う。そして二番目にキャストのある声優さんの役は以下にあげる意味で、エロアニメの、ヒロインの従者または側近とよく似ている。

アダルトアニメのヒロインは、最終的には陵辱されることが決まっています。最終的なカタルシスを盛り上げるために、それまでに散々危ない目には遭うけれど危ういところで難を逃れたり側近の助けで救われたりもしますが。ストーリー本筋には大して影響のない場面でヒロインに絡んだり、場合によってはスカートめくり相当のエッチなことをしかけたりもするけれど、決してヒロインの処女性を脅かさない、宦官めいたキャラが今回の「ギル」の立ち位置だと思いました。

この漫画は、「可愛い女の子を、合法的に切り刻みたい」というコンセプトでできています。ヒロインは殺人ロボットで、強い敵で人間ではないので何をしてもいいことになっています。ギルは彼女専用の「盾」で、「攻撃手段を持たない」=やはり去勢されています。ヒロインを好きにしていいのは読者が投影できる人間の男キャラで、いくら悪役声であってもギルの存在は読者の脅威とはなり得ません。そして多分このドラマCDの聞き所とは、ヒロインがいかに可愛らしく、痛がったり苦しんだりするかというところにあるのだと思います。
途中で聴くのをやめたから以下は想像なのですが、この作品の場合ヒロインの敵、つまり人類にとっては味方である、そして読者の嗜好を代行するヒーローは、無駄に好青年になるのではないだろうか。ギルが(加工済みではありますが)低い・暗めの悪役声なのでそれとの対比だとそうなるであろう。というより、杉田の声が既に無駄に悪役声なのです。機械なんだからふつうのおじさん声(という年齢でもないですがまだ彼は)でも良さそうなのに。

LaLa、コミックヴァルキリーと、出版社の販促にのってみましたが次からは、雑誌のカラーも見てから購入を考えることにします。




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