女の世紀を旅する
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2008年11月24日(月) 今後4〜5年は続く日本大不況

今後4〜5年は続く日本大不況


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●トヨタ不況
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今、【トヨタ】は失った営業利益一兆円を回復させる策を策定したようですが、これが実行されますと、【トヨタ】関連業界は存亡の危機に陥ることになるかも知れません。

【トヨタ】の間接経費は6兆円とも7兆円とも言われておりこれを1兆円削るだけで失った<1兆円>をねん出できるとして徹底的に経費を見直しているのです。

すでにタクシー券の廃止や出張の見直し等は決まっているようですが、今後、交際費・会議費の削減、広告宣伝費の削減、人件費の削減(役員報酬の削減と派遣労働者の削減はきまっっていますが一般社員の残業禁止等も想定されています)をはじめ、削減できるものは何でも削減するとしており、名古屋経済、中でも名古屋地区のサービス産業は壊滅的な打撃を受けるかもしれません。

なにせ、天下の【トヨタ】が大号令をかけて経費の削減をするわけであり、関連会社・下請けは「右へならえ」とばかりに一斉に経費を削減することになるからです。

もともと【トヨタ】の経営幹部は景気が良い時でも経費切り詰めを日常的に行っていましたが、今後さらに経費を削減することになれば一体どうなるでしょうか?

ところで、【トヨタ】幹部は今の状況を以下のように述べたと言われています。
「市場がなくなってしまう恐怖すら感じる」
これは誇張ではなく来年の米国の自動車市場は2007年比で500万台以上減少するとの予想もあり、そうなれば例え【トヨタ】でありましても、一兆円単位の営業赤字に転落することもあり得るのです。
*この500万台という数字は日本国内の自動車販売台数であり、日本市場がすっぽり消えてなくなるという膨大な数なのです。

【トヨタ】不況は今まさに始まったばかりかも知れません。

...2008/11/18(Tue) 14:48:52...


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●本当にマイナス0.4%?
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【7−9月期 GDP】
名目 −2.1%
実質 −0.4%

一般マスコミではGDP成長は<−0.4%>と報じていますが、小さく報道されています数字があります。
【名目GDP】です。
これは朝日新聞夕刊によれば、「物価変動を反映し、景気実感に近いとされる」となっており、国民の体感数字とも言えるGDPなのですが、これが上記の通り、年率2.1%減少しているということは500兆円のGDPとしますと10.5兆円もGDPが減ったことになるのです。

では、この10.5兆円のGDP減少が正しいのでしょうか?
以下の数字をご覧ください。

<名目成長率:7−9月期>
住宅投資 +5.5%(4−6月期 −1.7%)
個人消費 +0.3%(4−6月期 −0.4%)

そろってプラスという、ありえない数字となっているのが分かります。

【住宅投資】も【個人消費】も<4−6月期>より<7−9月期>の方が落ち込んでいるのは明らかですが、政府発表の≪速報≫では大幅に改善となっているのです。

統計局のスタッフが見事な”作文”をしたのでしょうが、統計とはいかようにも数字をいじくれるものでもあり、今回も政府の意向を汲んで大幅に数字をいじくったのかもしれません。

もし、本当の数字を出せば名目成長率は<−5%>を超えていたかもしれず、G20で日本の存在をアピールできたと自賛した麻生総理は大恥をかくところだったのです。

今の景気は【トヨタ自動車】の副社長が述べていましたが、今まで経験したことのない程の激変であり、4%、5%という生易しい減少ではないのです。
国民の実感としてはGDPマイナス10%(金額では50兆円)規模の減少と言えるかも知れません。
なにせ、【トヨタ】1社で利益が1兆円も減るのですから、<GDPマイナス50兆円>と言いましてもあながちオーバーではないかも知れません。

今の景気を甘くみますととんでもない間違いをすることになります。

...2008/11/17(Mon) 14:54:18...




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●景気を悪化させる麻生内閣
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今の麻生内閣は機能不全に陥っているようで、27兆円とぶち上げた【緊急経済対策】をめぐって、ちぐはぐな政策が相次いでおり、<景気引きあげ策>ではなく、<景気悪化促進策>ばかり出てきています。

問題の【給付金】ではあらぬ方向に議論が進んでおり、高額所得者に給付金は一人あたり1万円は配るものの、年収1,800万円以上の高額所得者に対して最高税率の40%を引き上げ、これでバランスを取るとしており、高額所得者にとっては1万円もらって100万円以上課税されるという、ブラックジョークとも言える政策が打ち出されています。

また、【相続税課税】も強化されるとされており、今から景気が更に悪化する中、麻生内閣は多額の支出をする高額納税者を委縮させる政策を取り始めており、これでは高額所得者は外食費も含め消費を一層しなくなります。

景気の実情ですが、内閣府が発表しました【10月の街角景気判断指数】は9月より5.4ポイント減少の22.6となり最悪となっており、一般国民及び高所得者も消費を控えている実情が明らかになっていますが、今回明らかになりました高所得者への課税強化策は、さらに消費を冷え込ませることになりますので、11月、12月の消費はかつて経験したことがない程、落ち込むかも知れません。

<景気コメント>
*家電量販店 : 嗜好性の高い大型液晶TVが極端に落ち込んでいる
*デパート  : 来客数は前年並みだが食品だけ買ってすぐに帰る客が多い
*新聞社   : 製造業の求人広告の動きが急速に悪化
*不動産業  : 一戸建て住宅の契約率が大きく低下している
*金融業   : 受注量が少なく、資金繰りが悪化している取引先が増加

また、10月の企業倒産(負債総額1000万円以上)は今年最多の1,429件に達しており、不況型倒産が<75%>を占めているとされており、景気がさらに悪化している今、11月、12月の企業倒産は空前の水準に達するかもしれません。

今の麻生内閣は今の世界的金融危機、不況に全く対応ができておらず、このままいけば日本は再起不能な不況に落ち込むことになります。
日本国民は今後長く続く<大恐慌・大不況>を覚悟しておいた方がよいと言えます。

...2008/11/13(Thu) 15:48:42...



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●リーマン絵画オークション結果は?
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クリスティーズ・ニューヨークで行われましたリーマンブラザーズ会長所有の絵画オークションですが、16枚のドローイングというそれほど貴重な作品ではありませんでしたが、総額1,350万ドル、日本円に換算して13億円の落札となっていました。
また落札価格が見積もり上限を下回っているために「オークション結果は不振」と述べていたレポーターもいましたが、下記の代表作の結果を見ればどうでしょうか?

【Gorky: Study for Agony 1 】
この作品は1996年に$370,000で購入されていますが、今回220万ドルで落札されており、12年間で6倍になったことになります。

現下の金融混乱下で殆どの投資物件が大幅な値下がりを示している中、見積上限(280万ドル)には届いていませんが、購入価格の6倍になったということは十分な投資収益だったと言えるのではないでしょうか?
*この見積もりが異常に高かったというだけです。

【現物資産】の良いところは、本当に素晴らしいものを保有しておけばどのような状況下でも売却ができ、しかも長期的にはそれなりの収益を得ることができるという点にあります。

日々の価格の動きに一喜一憂せず、長期的にじっくり保有しておけば、それなりの収益を得られるために、世界中の資産家が【現物資産】を自分の資産ポートフォリオに組み入れているのです。

ただ、日本にはまだこの分野の専門家がいませんので、殆どの資産家は現物資産を保有していませんが、弊社のお客様は皆さん、素晴らしい【現物資産】を保有されていますので、現下の金融混乱期でも平然とされています。

世界の資産家が欲する本当の【現物資産】は世界に殆ど存在しておらず、このため購入が非常に難しく、弊社がお奨めしています【現物資産:米国稀少金貨、ダイヤモンド、ヨーロッパアンティーク】もいつも在庫があるわけではありません。
本当に選ばれた方だけが保有出来るのです。

...2008/11/13(Thu) 15:51:35...


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●シャープへの115億円の罰金と上場会社のモラル
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<液晶>と言えば<シャープ>といわれる程、液晶部門はシャープのドル箱ですが、今回摘発されました【国際液晶談合事件】では、【シャープ】は談合を認め米国司法省に115億円の罰金を支払うとしています。
そして問題は罰金はこの115億円だけでは終わらないことです。

今、世界中で液晶談合事件調査が進められており、もし世界的な談合と認定された場合、罰金はこの数倍にも上り、更にはブランドイメージが失墜することもあり得ることです。

今、世界的に液晶が余ってきている中、今回摘発されました日本・韓国の液晶メーカは今後ビジネス上、厳しい立場に追い込まれることも十分あり得ます。

また、今、日本では鋼板カルテル摘発が進められていますが、有罪になれば当該会社の社長を含む幹部の逮捕は必至とも言われており、罰金も総額で1,000億円に達するとも言われており、今までやりたい放題してきた大企業のモラルが問われることになります。

ここで一つ重要なことは、【談合】はすべて悪というのは簡単ですが、公共事業部門では<地方の雇用を守る>ための談合もあり、これは必要悪とも言えますが、好景気を謳歌した大企業がより儲けようとして【談合】するのは決して許されるべきものではありません。

*【談合】は確かにないのが良いのでしょうが、今まで雇用を作るとして建設関係に”一人親方”を作りだし、談合でそこに仕事を回して雇用を作り出してきたのも事実であり、もし【建設談合】がなければ地方には失業者があふれかえっていたはずです。
今、この地方の【建設談合】がなくなりつつあり、これもあり地方の景気は悪化を続け不動産価格は底なしの様相を呈しているところもあります。

日本から【建設談合】がなくなれば、地方の雇用はガタガタになります。
今、その瀬戸際に来ているとも言えます。


...2008/11/11(Tue) 11:51:50...


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●蔓延する通貨偽造
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FBI、シークレットサービス、米国税関等は、【中国】から【イーベイオークション】に出品された偽物コインにつき、追跡調査を行っていると報じられています。

この中国製の偽物コインは主に銀貨に多くみられますが、最近ではPCGS社・NGC社鑑定ケースの偽物も【イーベイオークション】に出回っており、PCGS社・NGC社公認ディーラー(弊社)にも注意を喚起する知らせがまいっております。

ただ、偽物作りの技術は低く、鑑定研修を受けたものなら簡単に見分けられるレベルであり、今のところ被害は【イーベイオークション】で安物を買った人に限られています。

以前の【ワールドレポート】でもお知らせしましたが、ネットオークションに出品されていました<カルティエ>等のブランド品の殆どが偽物だったと報じられていましたとおり、ネット取引は相手が見えないだけに、非常に恐ろしいと言えるのです。

また、最近弊社に鑑定依頼が来ています金貨の殆どが≪偽物≫であり、如何に日本でも偽物が出回っているか、良く分かります。
(写真で偽物が判別できるレベルであり、程度の低い中国製だと言えます)

株券の偽物が出回ったり、偽物の美術品が出回ったりしていますが、これらの被害を受けないためにも、信用ある証券会社、美術商、コイン業者と付き合う必要があります。

証券会社であれば証券業の認可、美術商であれば古物商の許可、コインであればPCGS/NGC社の公認を受けたところから購入するのがリスクを減らす方法なのです。

「何でも鑑定団」で有名な鑑定士である中島誠之助氏が述べています通り、『本物・良いものにはバーゲンは存在していない』のです。

また、現在イギリスで流通しています【一ポンドコイン】ですが、偽物が全流通量の<2%>に達し、ここ数年で倍増したと報じられています。 

現行コインでも偽物が大量にばらまかれているようで世界中で<偽物紙幣・コイン>がばらまかれているかも知れません。

【米国紙幣】では100ドル紙幣の偽物が有名ですが、【ユーロ紙幣】でも偽物が大量にばら撒かれているようで、世界中で今後偽物騒動が巻き起こるかも知れません。

世の中、【偽物】だらけになってきており、世界を根本的に変える時期に来ているのかもしれません。

...2008/11/10(Mon) 10:46:02...


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●非正社員率38%の日本と米国並み失業率
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日本の雇用形態が徐々に変化してきており、いまや非正規社員(非正社員)率が38%にも達しており、現在の不況を考えれば早晩50%を超えるのは必至だといえます。

日本人は今まで雇用面では甘やかされてきており、世界とはかなりかけ離れた雇用形態(終身雇用)となっていたものが、小泉・竹中改革で世界標準になってきているのです。

この世界標準とはすなわち「雇用の流動化」です。

「朝出勤したら首になっていた」ということは米国では当たり前ですが、日本では正社員は法律でもがっちり守られており、解雇などよほどのことがない限りできるものではないのですが、これが日本人労働者の緊張感をなくし、生産性が低い一因とも言われており、企業としては、そのような労働生産性の低い正社員を雇用するより、いつでも解雇できる<非正社員>に頼るようになってきているのです。

海外の社員はいつ解雇されるかわからないために、それは必死で働いている者が多く、このため生産性が高いと言われているのですが、日本人は終身雇用制ですから、最悪の場合でも窓際族になれば仕事はないものの定年まで給料はもらえるとなっており、これでは企業からすればたまったものではありません。

結果、企業は定年になった社員の後釜を非正社員で徐々に埋めるという形態になり、今の【非正社員】率38%があるのですが、この【非正社員】は大企業にとり景気が良い時には大量採用しますがいったん景気が落ち込み始めますと一気に解雇する仕組みとなっており、今、この【非正規社員】が続々と解雇されており失業してきています。

【トヨタ】は派遣労働者数を6000人削減する(9000人から3000人へ)と言われており、他の自動車メーカー・部品メーカーを合わせれば派遣労働者は自動車業界だけで2万人近く減少するかもしれず、全産業を入れれば空前の規模に膨れ上がることもあり得ます。

また、不動産・建設業界も倒産が急増してきており、派遣・日雇い労働者がいったい何人仕事を失うか想像すらできない状態になってきており、残った正社員にものすごいしわ寄せがいくことになります。

日本でも失業率6%、10%、非正規社員50%以上が当たり前になる社会もすぐそこに来ていると言え、今正社員でいる者もいつ解雇される(企業が突然倒産するリスクもあります)かわからない状況にあるということを肝に銘じて仕事をするべきだと言えます。

今までの甘い考えでは仕事を失い、一生まともな仕事に就けない事態に陥るリスクが高まってきているといえます


2008年11月16日(日) 仕事がない!出稼ぎの日系ブラジル人深刻

仕事がない!出稼ぎの日系ブラジル人深刻




●日系人の離職者急増 リストラの標的に?
2008年11月12日 アサヒコム



 自動車や機械など輸出産業の業績悪化を受けて、工場で働く日系人らの離職者が急増していることが11日、厚生労働省の調査でわかった。9月の新規求職者のうち日系人の数は計1千人前後で、前年同月の2倍以上にのぼった。このため、厚労省は、日系人の多い9地域のハローワーク(職安)で通訳を倍増させるなど、対策に乗り出す。

 厚労省は先月、浜松市や愛知県豊田市、豊橋市、群馬県太田市など、日系人が多く住む9地域の職安に、日系人の雇用情勢を聞き取り調査した。

 多くの日系人が自動車や機械産業で働いており、金融危機を受けた業績悪化で、雇い止めや解雇が相次いでいる。日系人は日本語を話せない人も多く、再就職が難しいという。同省は「派遣や請負で働く日系人が、真っ先にリストラの標的になっているようだ」とみている。

 9地域の職安には、現在もポルトガル語などの通訳が交代で1人以上は常駐するが、厚労省は年内に少なくとも2倍程度には増やしたい考え。



●仕事がない!出稼ぎの日系ブラジル人深刻 景気悪化直撃
2008年11月16日11時1分


かつては求人募集で埋まっていたサンパウロ市内の国外就労者情報援護センターの掲示板には、神奈川県のクリーニング店と埼玉県の製めん工場の求人が2件だけ。残りのスペースは日本語教室の案内のポスターで占められていた=今月10日、平山写す


 【サンパウロ=平山亜理】金融危機がブラジルから日本に出稼ぎに行く日系ブラジル人を直撃している。多くが働く自動車や電子機器部品などの工場で、減産や人員削減が相次いでいるためだ。「今年いっぱい、誰も送ってくるなと日本から言われた」と人材派遣会社のサンパウロの担当者は頭を抱える。

 「景気悪化で真っ先に切られるのは日系ブラジル人だ」。日本の人材派遣会社のサンパウロ支店の責任者は、不安な表情で話す。

 この会社は、愛知、静岡などの電子部品や自動車部品工場と契約。日系ブラジル人5千人を派遣していたこともあるが、今は4千人に減った。今年1月までは「月100人」というノルマを達成するのが難しかったが、3月から依頼が減少。残業なしや配置転換などで対応してきたものの、7月に60人を送ってから、8月以降はゼロに。新規の出稼ぎは一切断られているという。担当者は「来年も全く見通しが立たない」と不安を隠さない。

 群馬県に本社のある別の人材派遣会社は、ブラジルから月15人をパン工場に派遣してきた。時給900円で、電子部品などの工場に比べ時給が安いため、50、60代の出稼ぎが多かったが、最近は仕事を失った30代が増えているという。だが先月は10人だった派遣者も、11、12月は予定がない。「日本で働きたい」と言ってくる人には、「いまは仕事がない」と断っている。

 「残業がなくなって、生活出来なくなった」と、先月23日、ブラジルに戻ったサンパウロ市内のウィルソン・ミノル・オエさん(31)は話す。

 派遣会社を通じて去年7月から島根県の電子部品工場で働いていたが注文が減り、8月に職場の3分の2が解雇か配置換えになった。石川県の携帯電話の部品工場に移ったが、9月半ば、責任者に「残業はない」と言われた。残業代を含め23万円だった月収が10万5千円に半減。家賃5万円と食費で消え、帰国を決めた。

 最近は日系ブラジル人の日本での定住化が進み、何十年ものローンを組んで家や車を買う人も増えている。このため「残業代を当てにして生活していた日系人は、定時の収入では暮らせない」(派遣会社関係者)と言い、より深刻な状況になっている。

 在サンパウロ日本総領事館によると、日系ブラジル人の出稼ぎ者に出す特定査証は、8月は前月比で3割減と大幅に減った。その後も減少傾向が続く。ビザは前もって申請するため、「金融危機の影響は、まだ数字に表れていないが、これから出てくるだろう」という。


2008年11月09日(日) 黒人のオバマが大統領に当選,米国の内外政策はどう変化するのか




かつて1929年ニューヨーク株式市場の暴落から金融危機とデフレが世界をおそい,1933年に民主党のフランクリン=ルーズヴェルトが大統領に就任し,ニューディール政策(近代経済学を確立したケインズの有効需要の経済理論にもとづく)を実施したが,それは一時的に景気回復をもたらしたにすぎず,1936年から再び景気悪化におちいった。このアメリカの大不況を救ったのはヒットラーがおこした第二次世界大戦(1939〜45年)と,日本との太平洋戦争(1941〜45年)で軍需産業が国内で大幅に拡大したことが,皮肉にも米国の大不況を終わらせ,景気回復につながった。米国の経済再建のためには軍需産業の振興が欠かせないことを米国民は歴史体験で知っている。巷(ちまた)に失業者があふれ,多くの銀行が倒産し,社会不安がつのる事態にいたれば,アメリカは本気で戦争をおこすかもしれない。アメリカの軍需産業は巨大であり,人権派弁護士出身のオバマといえどもこれを敵視することはできないだろう。


はたしてオバマ新大統領は軍産複合体をどのように扱うのか,これとの折り合いがうまくいかないと政治生命もあやうくなるかもしれない。この未曾有の金融危機と経済大不況は2〜3年ぐらいで回復するレベルではないだろう。米国経済の凋落は日本の凋落にもつながることに留意したい。今回の危機は第2次世界恐慌という最悪の大不況に発展する可能性さえある。

以下の国際ニュース・メールでも言及されているが,オバマ新大統領が軍産複合体をないがしろにしたら,彼の政治生命もあやうくなるのではないか。彼の正義感はかつてのケネディ大統領を想起させるが,はたしてどういう舵取りをおこなうのか,試練のアメリカ経済と国際経済はこの先どうなるのか,はたして「アメリカ再生のシナリオ」の決定打はあるのだろうか。たしかなことは景気悪化で世界中で多くの人々が生活上の窮乏に苦しむことになるだろうし,「紛争や戦争」が再燃する激動の時代に再び入っていく予感がする。


以下,国際ニュースから

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 11月4日の米大統領選挙は、民主党オバマ候補の勝ちとなった。米国史上初の黒人大統領、またケネディ以来約50年ぶりに北部の都会のリベラル派が大統領になったことで、来年1月20日から始まるオバマ政権は、現ブッシュ政権が掲げた「敵対してくる国は先制攻撃する」といった単独覇権主義を捨て、リベラルな国際協調主義に戻ると、世界から期待されている。

 しかし、すでにその期待を裏切る兆候が見えている。オバマ新大統領は、現政権のロバート・ゲイツ国防長官を留任させる公算が高いと指摘されているが、そのゲイツは10月28日、カーネギー国際平和基金での講演で、中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの脅威に対抗するため、米軍の核兵器を近代化せねばならず、1992年以来停止していた核実験の再開が必要だと述べた。

 またゲイツは、米軍が対処せねばならない敵対勢力として、大量破壊兵器の使用や開発を目論むテロ組織を支援する国々や非政府組織、個人が含まれるとも述べた。これはブッシュ政権が911事件後に掲げた単独覇権主義と同じものだ。ブッシュ以前の米国は、冷戦期に、米国とその同盟国を武力攻撃しようとする国に対して反撃を加える戦略を採っていた。だが、ブッシュ政権は、単に米国を攻撃しようとする国家だけでなく、大量破壊兵器の開発を構想(夢想)するだけの組織とその支援者に対しても、その組織が「テロリスト」であると米国が認定すれば、先制攻撃を加えるという、好戦性の大幅な拡大を行った。

 そしてゲイツは、現政権が終わり、次政権で留任するかもしれないというタイミングで、ブッシュ政権の拡大された好戦戦略が今後も維持されることを表明した。ゲイツが表明したのと似た軍事戦略を、大統領安全保障顧問のスティーブン・ハドレイも以前に語っていたと報じられている。

 まだゲイツが留任すると決まったわけではなく、本人は辞めたがっているとの説もあるが、戦争の継続性を考えて、次政権の最初の1年程度、ゲイツが留任する可能性も指摘されている。ゲイツが留任するのなら、オバマ政権は、ブッシュ政権の単独覇権主義に近い戦略を受け継ぐ可能性が高い。ブッシュ政権では「核兵器による先制攻撃」がよく言及されたが、ゲイツの「核兵器の開発再開」の主張と合わせると、米国は今後も「核の先制攻撃」を選択肢として持ち続けることが予測される。米国の物騒な態度は、政権が代わっても続きそうな感じである。

 ドイツのフィッシャー元外相はすでに今年2月「欧州は、米国が次の政権になったら、ブッシュの失敗した戦略から脱却すると期待しているが、誰が次期大統領になろうと、米国が以前のような国際協調路線に戻る可能性は低い。米国は、欧州の対米従属的な態度を嫌い、欧州は米に頼らず国際社会に対する責務をもっと果たせと言い続けるだろう」と述べている。国際協調主義は欧州(や日本など)を甘やかすだけなので、米は単独覇権主義をとり続ける、という分析である。


▼日独を核の傘から出す?

 先日のゲイツ国防長官の演説では、日本をめぐっても物騒な感じがあった。ゲイツは、米国の「核の傘」にいる20カ国以上の国々に、米国の核兵器は古いので独自の核兵器を開発したいと思わせないようにするためにも、米国が核兵器の近代化を進めねばならないと述べたが、ゲイツが列挙した「核兵器を開発させたくない同盟国」の中には、韓国、台湾、ブラジルなどは入っていたものの、日本とドイツは入っていなかった。(関連記事)

 ゲイツは日独の名前を挙げなかった理由について何も語っていないが、意図的に日独を外したのだとすれば、その理由はおそらく、日独はもはや大国だし、第二次大戦で敵国だった状態が終わって60年以上も経っているのだから、もう米国の核の傘の下から出て、独自の核兵器を持っても良い、その代わり日独に駐留している米軍は、軍事費節約のために引き揚げる、という将来展望と関係している。

 ゲイツ演説と前後して、米共和党系のシンクタンクであるランド研究所が「米経済を不況から立て直すには、どこかの大国と戦争に入るしかない」と主張する提案書を、国防総省に提出したと、中国のマスコミで報じられた。中国側では、中国かロシア、もしくは下手をすると日本が、米国の敵として仕立てられるかもしれないと分析している。日本を米の核の傘から追い出し、日本が核開発を始めたら、脅威だと騒いで戦争を仕掛けるという話かもしれない。

 この日本をめぐる話は現実性に欠けるとしても、少なくとも米国とロシアは、今後も敵対的な関係が続きそうだ。最近は米国だけでなく、ロシアも核実験の再開を希望している。米露の対立が再燃し、米政府が新兵器の開発に力を入れざるを得なくなり、軍事費が増加傾向を維持するのは、米政界で影響力を持っている軍産複合体が望む戦略だ。オバマも、選挙で勝つためには、米マスコミをも動かしている軍産複合体の要望を聞かざるを得なかったのだろう。



▼ブッシュが仕掛けた大黒柱の時限爆弾

 オバマは11月4日の選挙でさわやかに快勝した。多くの米国民が、これでブッシュ政権による無茶苦茶から脱却し、新たな時代が来ると期待している。しかし私が見るところ、ブッシュ政権はすでに、金融財政・軍事・外交といった米国の覇権を支える何本もの大黒柱に「時限爆弾」的な破壊のシステムをセットし終わっている。これらの爆弾は、オバマ政権になってから爆発する。

 9月のリーマンブラザーズの破綻など、すでに大黒柱の崩壊は始まっている。ブッシュ政権は残る2カ月の任期で、さらに不可逆的な自滅策を画策するかもしれない。たとえば現政権は、任期末が迫る中、環境保護や消費者保護の法律や規制をどんどん緩和している。規制緩和のやりすぎが経済崩壊につながるのは、昨年来の金融危機で経験したとおりだ。オバマが大統領に就任した後、経済・軍事・外交という各方面で、大黒柱の崩壊が加速し、米国の覇権崩壊が進み「黒人が大統領になったからダメなんだ」と、共和党系が強い米マスコミが声高に批判する展開になるのではないかと私は懸念している。

 経済面では、10月以来、米国及び世界の景気は急速に悪化している。金融危機によって世界的な金回りが悪化した影響で、自動車や鉄鋼が世界的に急に売れなくなり、国際船舶運輸の積み荷も激減した。世界経済は、突然死的な不況に突入している。金融危機・不況・相場下落という悪循環が、来年にかけて再燃しそうだ。景気対策に必要な公金は急増しており、財政赤字の急増も止められない。

 軍事的には、イラクでの反米感情の高まりによって、来年以降の米軍駐留が困難になっている。オバマは、イラクを抜け出してアフガニスタンに注力する構えだが、これは成功しない。アフガン国民の多くは強い反欧米で、NATOは来年のアフガン選挙を延期したいと思っている。選挙をすると、親欧米の候補が惨敗し、タリバン系が勝ってしまうからだ。



▼多極化とオバマ

 オバマは11月4日の勝利演説で「米国は蘇生する」と宣言したが、現実は逆で、次政権下で米国がさらに弱体化していくことは止めがたい。米国が弱体化していく中で、世界の安定を維持しようとするなら、オバマは中国やロシアなどの新興諸国(BRICやイスラム諸国)と協調関係を強め、国際社会における新興諸国の発言力増大の要望をかなえてやり、覇権多極化を容認する代わりに、世界の安定維持のために新興諸国の協力を得るしかない。

 11月15日のG20会議(ブレトンウッズ2)は、覇権多極化による世界安定化の流れの始まりとなりうる。CFR(米外交戦略決定の奥の院的な組織)の幹部は、ウォーリストリート・ジャーナルに「ブレトンウッズ2を成功させるには、中国に対し、IMFなど国際社会での発言権を増大させてやる代わりに、人民元を切り上げさせる必要がある。(米国が1944年のブレトンウッズ会議で英国から覇権を移譲されたように)今回の第2会議では、米国が世界で果たしていた役割(覇権)を中国に委譲できるかどうか、中国にその気(覇権国になる気)があるかどうかが重要だ」と書いている。

 またEUは、ブレトンウッズ2会議に向けて「G8を改革して、新興諸国を入れた新組織に改変すべきだ」とする主張をまとめた。世界銀行のゼーリック総裁は、G8を拡大してG20にすると国の数が多すぎるので、G14(G7+BRIC+サウジアラビア、南アフリカ、メキシコ)にするのが良いと言っている。国際社会では、英米が覇権を持つG7の欧米中心体制を壊し、新興諸国の発言力増大を容認する多極化の方向性が、明らかに模索されている。

 米国が弱体化し、覇権を新興諸国に分散していく中で、オバマが米国の蘇生を求めるなら、新興諸国との関係を良くしておき、いずれ覇権が米国に再び戻ってくるように仕向ける必要がある。だが、米政界で影響力が強い軍産複合体は、中国やロシア、イランなどを敵視して核兵器を開発する方向性を、次政権にとらせようとしている。この動きは、米国の蘇生を難しくする。

 ロシアやイランなどは、米国から敵視され、怒りを扇動されて、米国抜きの世界体制を作ろうとしている。これが成功すると、世界は安定するものの、米国の影響力は大きく失われる。米国の民主党政権は、クリントンもカーターもケネディも、軍産複合体に邪魔されたり殺されたりしたが、オバマも例外ではないだろう。

 覇権の弱体化傾向が強まっている今の米国が、世界の他の大国に対して望んでいることは、世界を安定させるという、覇権国の任務の一部を肩代わりしてほしいということである。ロシアは、肩代わりする意志を何度も表明している。中国はまだ迷っているが、今後の展開の中で、覇権の引き受ける方向に動く可能性が高くなっている。前出のフィッシャー独元外相は「欧州はまだ米の覇権に依存している」と書いたが、それは今年2月のことだ。最近の1カ月ほどの、仏サルコジ大統領ら独仏伊の高官の言動を見ると、EUは多極化された覇権の一部を担うつもりになっている。


2008年11月02日(日) 〈ギリシアの芸術について〉「芸術の理論と歴史」(青山昌文)

〈ギリシアの芸術について〉「芸術の理論と歴史」(青山昌文)  



美学は古今東西にわたって,大変興味の尽ない分野であるが,西洋美術の源泉となった古代ギリシア美術の精神を哲学的視点から考察しておもしろいものを発見した。以下に掲載しておきたい。この美学史の教授は放送大学の講座を担当していらっしゃるとのこと。是非時間がゆるすならばテレビの放映を拝見してみたい。プラトンやアリストテレスが芸術をどう考えていたのか,興味がわく。



〔青山昌文(放送大学教授)〕の講義要綱からの抜粋



●青山 昌文(あおやま まさふみ、1952年 - )


日本の美学研究者。放送大学教養学部教授。専門は、美学、芸術学、自然哲学。
青森県生まれ。東京大学教養学部、同大学文学部卒業。同大学大学院人文科学研究科美学芸術学博士課程修了、博士 (学術)。博士論文は「ディドロ美学・美術論研究」(平成17年)。放送大学講師、同大学助教授を経て現職。主な研究領域は、ディドロ美学、現代芸術理論。日本大学大学院芸術学研究科講師。

〈 主な著作・共著〉
西洋美学のエッセンス(ぺりかん社 1987年)
美と芸術の理論(放送大学教育振興会 1992年)
比較思想・東西の自然観(放送大学教育振興会 1995年)
芸術の古典と現代(放送大学教育振興会 1997年)
芸術の理論と歴史(放送大学教育振興会 2002年)
芸術・文化・社会(放送大学教育振興会 2003年)
芸術の理論と歴史(改訂版)(放送大学教育振興会 2006年)
芸術・文化・社会(放送大学教育振興会 2006年)






全体のねらい 芸術は、人類の文明の深い意味での美的な結晶の一つですが、それは、一見すると天才的な芸術家が一人で生み出したように見えるものであっても、実は長大な文化的伝統と重層的な社会的諸関係のただなかで受胎し産み落とされたものにほかなりません。この講義では、芸術のこのような文化的・社会的な生成の構造に焦点を当てて、各時代の芸術理論を振り返り、各時代の芸術作品がいかにその時代の文化と社会に深く根ざしていたかを歴史的に考察するものです。
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1 ペリクレスとギリシア美術 1. 全体への序論 2. ギリシア古典美術を代表するものとしてのアテネのパルテノン神殿 3. 芸術総監督フェイディアスの美的理念と民主派の政治家ペリクレスの政治思想 4. 建築芸術の政治的表象性青山昌文(放送大学助教授)青山昌文(放送大学助教授)
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2 プラトンとギリシア文芸 1. ヨーロッパ美学の源流としてのプラトン美学 2. ギリシア文芸とりわけホメロスの叙事詩の政治的・社会的役割 3. 文学芸術の政治的表象性とプラトン美学
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3 アリストテレスとギリシア演劇 1. ヨーロッパ芸術理論の源流としてのアリストテレス芸術学 2. ギリシア演劇とりわけ悲劇の構造と上演の政治的・社会的機能 3. 演劇芸術の政治的表象性とアリストテレス芸術学
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4 修道院の神学者とロマネスク美術−その1− 1. クレルヴォーのベルナールの美学 2. ロマネスク建築芸術のプラトン的超越性 3. 建築芸術の宗教性と社会性
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5 修道院の神学者とロマネスク美術−その2− 1. 民衆的世界観と異形なるもの 2. ロマネスク絵画と彫刻の光と影 3. .建築芸術の宗教性と社会性
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6 サン・ドニのシュジェールとゴシック美術 1. サン・ドニのシュジェールの美学と哲学 2. ゴシック建築芸術のアリストテレス的内在性 3. 建築芸術の宗教性と社会性
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7 ルネサンスの哲学とイタリア・ルネサンス美術 1. ルネサンスの新プラトン主義哲学 2. ボッティチェリとミケランジェロ 3. 絵画・彫刻芸術の哲学性と社会性
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8 ルネサンスの政治とイタリア・ルネサンス美術 1. フィレンツェの共和制とメディチ家 2. ドナテッロとミケランジェロ 3. 絵画・彫刻芸術の政治性と社会性
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9 宗教改革と北方ルネサンス美術 1. ルターの宗教思想と芸術思想 2. デューラーとクラーナハ 3. 絵画芸術の宗教性と社会性
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10 対抗宗教改革とバロック美術 1. トレント宗教会議の宗教思想と芸術思想 2. ベルニーニ 3. 絵画・彫刻芸術の宗教性と社会性
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11 ディドロとロココ美術 1. ディドロの美学と芸術理論 2. グルーズとシャルダン 3. 絵画芸術の世俗性と社会性
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12 革命の時代と19 世紀美術 1. 産業革命と芸術の変貌 2. クールベとマネ 3. 絵画芸術の政治性と社会性
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13 戦争の世紀と20 世紀美術 1. 芸術の理論化と時代批判 2. ピカソとシャガール 3. 現代芸術の理論性と批判性
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14 死の影と現代芸術 1. 現代社会批判としての現代芸術 2. ウォーホル 3. 現代芸術の現代性
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15 環境芸術と現代社会 1. 環境破壊問題と芸術 2. スミッソン・タレル・ロング 3. クリスト



●01 ペリクレスとギリシア美術
 原始美術からエジプト美術などを経てミュケナイ美術までをごく簡単に見た後、ギリシア美術のパルテノン神殿を採り上げて、このヨーロッパ古典古代を代表する大芸術作品が、民主主義の政治家ペリクレスの政治的理想を芸術において表現するものでもあったということを明らかにします。

02 プラトンとギリシア文芸
 プラトンの中期を代表する大著『国家』のいわゆる詩人追放論を採り上げて、なぜプラトンがあれほどまでに芸術を攻撃したのかを明らかにし、その後プラトンの詩的霊感論に着目して、プラトンの芸術ミーメーシス理論の真の意義を明らかにします。

03 アリストテレスとギリシア演劇
 アリストテレスの『詩学』を採り上げて、芸術一般理論としてのミーメーシス理論や、世界の内在的な本質を典型的に物化する哲学的ミーメーシス理論を見てみた後、アリストテレスの有名な悲劇の定義を採り上げて、カタルシスなどの概念を考察し、さらにソポクレスの『オイディプス王』についても考えてみます。

04 修道院の神学者とロマネスク美術----その1
 ラウル・グラベールの美しい文章を見た後、クレヴォーのベルナールの『ギヨーム修道院長への弁明』を読んで彼のロマネスク美術に関する言説を考察し、さらにモワサックのサン・ピエール教会南側玄関口のモニュメンタルな大彫刻の復活の意味と理由について考察します。

05 修道院の神学者とロマネスク美術----その2
 クレヴォーのベルナールの有名な文章を再び読んだ後、エミール・マールの見解について考察、そののち、ロマネスク美術に登場する怪物たちや周縁的な人物たちについて、その異教的・土着的・民衆的世界観を明らかにして、さらにロマネスク美術の色彩の意味についても考えてみます

●01 ペリクレスとギリシア美術

 芸術の長く豊かな歴史は、決して単なる過ぎ去った過去の遺物の集積の歴史ではなく、常に私たち自身にとって同時代的・現代的な意味を持っている作品の豊かな集積の歴史である。古典は、この意味において、永遠の生命を持っているといえる。

 古典が持っていると考えられる「時代を超越するような永遠不変の要素」とは、まさに(その)時代のただ中から生み出されている。芸術作品は、時代に深く内在していることによって、時代を超越している。

 芸術に関わる理論もまた時代に深く内在していることによって、時代を超越している。「芸術に関わる理論」はその芸術を考察の対象とする理論だけではなく、逆にその芸術がめざすものに関わる理論の場合においても、芸術と共に同じ時代に関わっている。

 時代への着目とはその時代の社会と文化への着目であり、芸術作品をその時代と文化のただ中において産み落とされたものとして見ることである。この講義(全体)は芸術のこのような文化的・社会的な生成構造を、歴史的に実証的に且つ理論的に見てゆこうとするものである。

 考察の対象としては、ヨーロッパ、北アメリカの視覚を主な媒介者とする芸術の内で古代からの歴史を持っているもの--絵画・彫刻などの美術や建築--を主に採り上げる。

 一万年前から四万年前、アルタミラやラスコーの洞窟壁画など、人類史上初の、「芸術」と分類できる制作物が地球上に生み出された。「制作」動機については諸説あるが、おおかたの見るところではそれらの壁画の「描かれた」洞窟は、「宗教的あるいは社会的な意義のある場所」であったか、「基地になる野営地として、もしくは人間集団の集会の場所として、人々が集中的に何度も使用したところ」であったと考えられており、「その場所で人間集団はきずなを確立したり改めて確認したりして、関係のネットワークを強化した」ことと考えられている。人類史上初の「芸術」(と分類できるもの)がそのような場所で制作されたということは、「芸術はその起源から社会に組み込まれている」ということであり、壁画を「描いた」人物は(彼個人の内面の思いを表現したのではなく)、自分が属する社会の宗教的あるいは社会的な意味の体系のただ中にいて、その体系のある種の象徴的な結節点を視覚的に表象したと考えることが出来る。

 シュメール初期王朝におけるメソポタミア美術の代表作『ウルのスタンダード』(紀元前2600年頃)で描かれているのは、モザイクによって見事に象徴的に表現された戦争と平和の場面であって、ここでも芸術は社会の重大事を象徴的に表象するものであったことが示されている。新バビロニア帝国におけるイシュタル門は、芸術は政治権力にとってきわめて有力な、力の誇示の装置でもあったことも示している。

 エジプト美術の特徴は、その3000年の歴史の中で、ただ一つの様式のみが、ほとんど例外なしに厳格に守られ続けたということである。エジプト美術においては、存在は、その個々の偶然的で付帯的な特質ではなく、必然的で普遍的な本質の直接的で固定な表現において表象された。エジプト美術は、必然的にして普遍的なる神のために、そのような神に向けて制作された美術であり、また人間の(現世の人生のためにではなく)来世の永生のために制作された美術であったから、(偶然的で付帯的な特質のうちに必然的で普遍的な本質を見るような方向--個のうちに普遍を見るような思想の在り方--に向かわず)無媒介的に直接的に必然的で普遍的な本質の表現に向かった。
 そして、この宗教的来世観がほぼ3000年間変わることがなかったから、その直接的で固定的な表象様式が、3000年間変わることがなかった。
 死語の来世における永生を最高動に重視する宗教観・来世観・世界観を持っていたからこそ、時間的にも空間的にも次元的にもそれらを遙かに超越する永遠の相の下における必然的にして普遍的な本質を芸術作品のうちに表現しようとした。
 この宗教観・来世観・世界観は第一王朝において既に王権の神格化を生み出し、神権政治的な政治体制は王家の富の集中をもたらし、エジプト美術の物量的な豪華さを生み出すと共に、保守的で固定的な精神風土をも醸し出して、エジプト美術の定型化とその枠内での技術的な洗練が生み出される基盤を提供してきた。

 エジプト美術が長期に亘って持続していた時代に、その北方の地中海地域に生起したのが、クレタ美術、ミュケナイ美術、ギリシア美術である。
 クレタ文明を代表するのが迷宮クノッソス宮殿で、これは複雑で非規則的な自由な建築であった。この宮殿の壁画も、またほぼ同時代のテラ島の壁画も、自由で生き生きと躍動する生命が描かれていた。これはクレタ文明が城壁を持たない宮殿を中心とした開放的で自由な文明であったことの芸術における表れである。
 ミュケナイ文明は戦闘的で英雄崇拝的な文明であった。『黄金のマスク』の威厳に満ちた王者の風格や、ミュケナイ城塞の正門である『獅子門』の軍事的攻撃的性格にそのことが良く表れている。
 技術的には連続性の見られるクレタ美術とミュケナイ美術だが、両者が全く異なる性格を持つに至ったのは、それぞれが平和で開放的な文明と戦闘的で閉鎖的な文明という正反対の文明であったからである。

 本講義(および本著)の目的は、芸術の生成の現場を数例採り上げて、その各々のスポットにおける芸術の生き生きとした姿を素描し、いかにそれらが各々の社会・文化・文明のもっとも根底にある本質を見事に表しているか、を理論的実証的に素描することだけである。

 古代ギリシア文明のパルテノン神殿のフリーズ浮き彫り彫刻は、神に捧げられた神殿であるのにもかかわらず、神話や伝説の彫刻ではなく、神にペプロスを捧げる人々の、当時の現実の生活の一こまの彫刻であった。これは旧体制の部族制から新体制の民主制への移行とそれによる民主主義の確立を象徴する芸術作品であり、その「新旧アテネの歴史の統合」を宗教的図像表現においても明らかに示す芸術作品であった。

 芸術がその本質を社会性・政治性に持っているということは、例外的なことではなく、むしろ一般的に芸術は少なくとも2000年以上の長きに亘って、自己表現ではなく、世界表現であったといえる。パルテノンは、フェイデアスという芸術家の個人的な主観内面の表現の発露ではなく、ペリクレスという政治家が押し進めた民主制への移行とその確立、というアテナイの歴史の現実に潜んでいる本質--世界の本質--の表現であった。




02 プラトンとギリシア文芸

 プラトン哲学・美学において芸術はいかなる存在であったかは、まず『国家』(もしくは『国政』)から知ることが出来る。ここでプラトンはミーメーシスする人々(すなわち、芸術家)を真実の世界から遠く隔たった低劣なものを作品として想像する人々であると非難し、理想国家への受け入れを拒否している。プラトンの主張の最大の力点は、詩人や画家(広くいって芸術家)はイデアという真の世界を直接にミーメーシスすることは出来ない、ということにある。
 プラトンが激しく芸術を批判した理由は、当時のギリシア人一般のホメロスに対する高い評価に由来している。古代ギリシア人にとって、ホメロスの作品こそが、思想的にも実践的にも基本的な指針となるの重要なものであり、この点において古代ギリシャでは芸術の地位は極めて高かったと言える。
 詩の古代ギリシア的な公共的な在り方が、正しい判断力を持っていない人々に対して、有害な作用を与えかねないということを危惧し、従来一般に大いに尊重されている芸術よりも、芯を見据えた確固とした理性に基づく哲学こそが、現実の社会をよりよいものにするための指針とすべきだと、プラトンの詩人追放論は主張している。

 しかし、プラトンは決して芸術を理解しないわけでは無い。『イオン』におけるプラトンの詩的霊感論は、ウェルデニウスによると、次のように解釈できる。
 まず、プラトンにおいて「模倣」すなわちミーメーシスは、事物の単なるそのままの「模写」(コピー)ではない。
 現実の世界の存在は、イデア界とは異なる世界の存在であって、イデアがそのような存在に「直接に現れること」はありえないが、しかし、輝きを薄めて影のようになりつつも、現実の世界の存在の中に、(影として)分有されている。
 芸術は、現実の世界の存在の中にも影として「かすかに」分有されているイデア的なるものを、作品の内に「喚起」使用とする。
 優れた芸術家とは、この現実の世界に分有されている「より高い」イデア的なものに着目し、それを顕在化させることに成功した芸術家である。
 ウェルデニウスの解釈は、芸術はイデアの間接のミーメーシスという『国家』において展開された存在論的芸術規定を踏まえた上で、プラトンが単純な芸術否定論者ではなく、芸術の本質を掴んだ芸術理解者であると、論証している。プラトンは、芸術模倣論者であるにもかかわらずというのではなく、まさに芸術模倣論者であったがゆえに、芸術の良き理解者であった。
 また、このプラトンのミーメーシス芸術理論は、その論理性ゆえに、「芸術の女神」なしでも、成立する可能性を十分に持っている。

※ミーメーシスに関して:ミーメーシス自体の一般的な訳語は、事物の(正確な)「模写」ではなく、「模倣」である(が、むしろ「再現」という語が、日本語における否定的な意味を含まず適当に感じる)。プラトン以来の美学芸術理論における「ミーメーシス」に、よりふさわしい概念規定は「本質的なるものの強化的な最提示・再現・再生」である(または「存在再強化」などの言葉も考えることが出来る)。
 反近代的・反主観主義的な美学の考えによるなら、芸術作品の創造とは、自然ないし世界の本質的なるものをミーメーシス--作品として再現、最提示--することに他ならない。

 ミーメーシスする対象に関していえば、優れた芸術は、平板な存在ではなく、何らかの点で特徴のある存在をミーメーシスし、その点において典型的なものを作品化する。プラトンにおいてと同様に、アリストテレスにおいても、芸術は単なる日常的なものにとどまらず、日常を凌駕する。




03 アリストテレスとギリシア演劇

 師プラトンが、イデア論を基に美学的に芸術を考察したのとは対照的に、アリストテレスは、存在に深く内在しているものに目を向けることのよって、芸術哲学的に芸術を考察した。

 「芸術」という概念が、絵画・彫刻・音楽・文学・演劇などを総括するという概念であるなら、この概念は、まさにアリストテレスによって完全に打ち立てられたと言える。
 近代的な「表現としての芸術」という枠組みに、当然、古代ギリシア時代はとらわれてはおらず、ここでは、総括概念としての「芸術」に相当する概念は厳然として存在していたのであり、それが「ミーメーシスとしての芸術」である。


カルメンチャキ |MAIL

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