女の世紀を旅する
DiaryINDEXpastwill


2004年10月14日(木) 欺瞞を続けた「西武王国」に天罰が下る


欺瞞を続けた「西武王国」に天罰が下る

2004/10/14





●有価証券報告書修正で上場廃止基準抵触、虚偽報告が意図的か否か。

 西武鉄道 <9002> が“防衛ライン”の4ケタ大台を割り込む波乱展開。この日は前日比200円安の881円でストップ安比例配分となり、取引を終えた。出来高は10万2000株で、なお441万3000株の売り物を残した。

 同社は13日、コクドおよびプリンスホテル(いずれも非上場)が両社名義でそれぞれ保有している西武鉄道株式のほかに個別管理の個人名義株式を実質的に所有していることが判明し、保有株比率に関し有価証券報告書などを訂正。前3月期末のコクドによる西武株の保有比率を43.16%から64.83%に、コクド子会社のプリンスホテルによる保有比率を修正し、株主上位10社の保有比率を63.68%から88.57%に変更した。

 東京証券取引所は同日付で有価証券報告書の大幅修正が上場廃止基準に抵触する可能性があるとして、監理ポストに割り当てたが、最悪、上場廃止のケースもあり、一気に嫌気売りを誘った格好だ。東証上場部によれば、「少数特定者持ち株比率80%割れで上場ルールの一つは解除されるが、過去にさかのぼって重大な影響が認められれば、上場廃止もあり得る」としている。

 市場では、「株式分布状況だけが問題なら、(株式持ち合い要請など)打つ手はあるが、虚偽報告の中身が意図的か、事務ミスかで上場維持・廃止の分かれ道になるという。


以下は1995年12月の記事サイトで,西武グループ経営者の堤義明の悪辣経営を糾弾している。10年前の記事であることに注目されたい。



1.税金を払わない西武

(1)創業以来まったく法人税を払っていないコクド

 西武ライオンズ(プロ野球球団)のオーナー、全日本スキー連盟やアイスホッケー連盟の会長、「帝王学」などで有名な堤義明氏は、マイクロソフト社のビルゲイツ氏と“世界一の大富豪”を争うほどの大金持ちである。昨年(1994年)は世界一の座をビルゲイツ氏に譲ったものの、それまでは毎年のように“世界一の大富豪”の座を守ってきた。

 その堤義明氏がひきいる“西武帝国”は、非上場会社のコクド(旧・国土計画)を中核企業とし、西武鉄道、西武不動産、プリンスホテル、伊豆箱根鉄道などで構成される一大企業グループである。西武帝国が日本全国に保有している土地は4000万坪とも5000万坪ともいわれており、その資産価値は、『週刊ダイヤモンド』誌がバブル期に推定したものによれば40兆円におよぶという。それぞれの企業についてみても、例えば全国各地にホテルをかまえるプリンスホテル、苗場スキー場、雫石スキー場などの有名スキー場をいくつも保有するコクド、さらに伊豆箱根鉄道、西武不動産などの顔ぶれをみれば、大儲けを続けている企業ばかりである。

 しかし、中核企業のコクドは、1920(大正9)年の創業以来、法人税を1銭も払っていない。プリンスホテルも同じで、「グループ内で法人税を払っているのは上場会社の西武鉄道ぐらい」と言われている。したがって、これらの企業は、自治体に払うべき法人住民税についても、事業所を構えれば自動的に取られる均等割部分しか払っていない。その均等割の額はわずかである。堤義明氏は、このように税金をわずかしか払っていないことを自慢さえしている。

 コクドなどがなぜ法人税を払わなくても済んでいるのか。そのカラクリについては、かつて、「国土計画が税金を払わない理由」(『AERA』1991年10月8日号)と「世界一の大富豪・堤義明『コクド』の研究−−なぜ『コクド』は税金を払わないのか」(『文藝春秋』1994年9月号。執筆者は立石泰則氏)がくわしくとりあげている。一言でいえば、大企業優遇税制をきわめて巧妙に活用し、徹底した節税対策をおこなっていることである。

 カラクリを要約すれば、こうである。中核企業のコクドなどは、銀行からの借金で事業を進めたり土地を増やすという手法を続けることによって、毎年の経常利益を一定して赤字スレスレの微妙な黒字にしている。そして、グループ企業間で株式の持ち合いを網の目のようにはりめぐらし、グループ内で受取配当金の控除を巧みに調整している。つまり、「赤字スレスレの経常黒字から受取配当金が控除されて赤字の申告所得」(前出『AERA』)となり、結果として税務署へ提出する申告所得が赤字の状態になっているため、法人税を1銭も払わなくてもよいというようになっているのである。

 コクドなどが法人税をいっさい払っていないことについては、当然ながら、「国税当局はなにをしているのか」「税金は取りやすいところから取っているのではないか」などという批判がでている。そこで国税当局も、過去、何回か調査に入った。しかし、西武の“節税”は、国税庁のOB、“優秀な”税理士や公認会計士、弁護士などのブレーンを多数抱えて税制のしくみを徹底的に研究し、緻密な計算・操作によって合法的に課税回避をしているものであり、“脱税”ではないということになっている。つまり、背景には、日本の大企業優遇の税制があり、堤義明氏はこれを徹底的に利用しているのである。



(2)相続税も巧みに節税

 堤義明氏は、法人税だけでなく、堤家の相続税も巧みに節税している。相続税節約のカギは、中核企業であるコクドを非上場会社にしていることである。前出『AERA』はこう記している。

 「非上場で利益の小さい国土計画(現在のコクド)が、上場企業の西武鉄道などを支配する。そして、その国土計画の株式の40%を堤氏が持つという構図。実は、この構図の裏には、法人税のほかに、もうひとつ重要な税金の秘密がかくされている。堤家の相続税問題である。例えば堤氏が個人で西武鉄道の株式を持っていたとする。時価は1株3000円を超えているからたいへんな資産価値である。

 もし、この株の相続が発生すれば、相続税は莫大な額になる。ところが実際の西武鉄道(株)の所有者は国土計画で、株式の評価額は帳簿価格の額面5000円で計算される。土地の場合も同様だ。極めて安い簿価が評価の対象になる。そして、堤氏が所有しているのは、非上場の国土計画株式。非上場企業は利益や試算を基準に時価が算定される。利益が少なく簿価の安い資産を持つ国土計画の場合、それほど高い評価額にはならない。相続があれば極めて安い相続税で済む、ということだ」

 このようにして、堤義明氏は、自らが支配する数多くの企業の法人税を払わないようにするばかりか、巧みに相続税対策を駆使し、「自分の資産を遺産として残し、それが目減りする事なく、代々受け継がれるようにする事」(前出『文藝春秋』)を実現させている。つまり「万全な税対策」といわれる堤式節税の遂行である。

 世界の長者番付を発表している米国の経済誌『フォーブス』は、堤義明氏を、「鉄道のほかリゾート地、24のゴルフ場、世界最大のホテルチェーンのひとつ、プリンスホテルを持っている。おそらく、世界一の金持ちは彼だろう」と紹介している(前出『文藝春秋』)。このように“世界一の大富豪”にあげられているほどの大金持ちが、法人税を満足に払わないし、相続税もわずかしか納めない。−−ここには、日本の大企業経営者の姿勢や日本の税制の不公平さが如実に示されている。



2.国民の税金で大儲けを続ける西武

(1)長野オリンピックと西武

 税金を払わない西武は、一方で、国民の税金を使って進められる公共工事などで大儲けを続けている。
 その一つの例は、1998年に長野で開催される冬季オリンピックである。このオリンピックは「西武のためのオリンビック」ともいわれているように、西武の儲けと密接にかかわっている。

 まず、長野オリンピックにあわせて優先的に建設が進められている北陸新幹線である。国と県が約4000億円を出して工事を進めているが、問題は新幹線の軽井沢駅で、この駅は西武が経営する軽井沢プリンスホテルの真ん前につくられる。駅とホテルの玄関を結ぶ都市計画道路(公道)も2本整備される予定である。おまけに駅のすぐ近くに別の都市計画道路も建設されるが、この道路はプリンスホテルスキー場のゲレンデ前にアクセスされる。軽井沢町はこうした駅周辺の整備費と側道地の建設費として1993年から3年間に80億円を支出する予定といわれているが、こうした公共工事の恩恵を最も受けているのは西武である。

 また、新幹線の長野駅の近くには高層の長野プリンスホテルを建設する計画もある。長野市内につくられる選手村と志賀高原の回転コース会場とを結ぶオリンピック道路(高規格自動車専用道路)も県の予算でつくられるが、この道路の終着点は志賀高原プリンスホテルの真ん前である。おまけに、その工事を請け負うのは西武建設(株)と言われている。

 ところで、北陸新幹線の路線は、当初の計画では軽井沢は通らないことになっていた。理由は、碓氷峠が標高1000メートルを超え、工事が技術的に難しいからである。ところが、計画図を見た堤義明氏が激怒し、当時の運輸大臣に電話をして計画のやり直しを求めたため、軽井沢を通るコースに変更されたといわれている(『週刊新潮』92年11月12日号)。

 同じようにオリンピック開催に関連して上信越高速道路が整備されているが、これも当初計画は軽井沢を通らないことになっていたのに、計画が強引にねじ曲げられて西武グループが経営する世界最大規模のゴルフ場(「軽井沢72ゴルフ場」)にアクセスされた。このように北陸新幹線と上信越高速道路が路線変更されたことについては、「どちらも地元出身の羽田(新進党副党首、元首相)が堤義明氏にプレゼントした」(『日刊ゲンダイ』94年4月29日号)とも言われている。
 そもそも、冬季オリンピックの長野誘致に最も熱心だったのは堤義明氏(当時・JOC会長)であるが、そのねらいは次のとおりである。


 「ひと言でいって、堤氏の目的はオリンピックを利用して自らの一大リゾート地を完成させようということ。それも自分は1銭も出さず“公費”を利用して、ということです。わかりやすく言うと、長野県下の焼額山や岩菅山がある奥高原周辺にはすでにプリンスホテルがあり、さらに西武が進出を予定している。そして志賀から下ったところには万座温泉があり、東へ行くと苗場があり、ともにプリンスホテルがある。つまり、新潟(苗場)、群馬(万座)、長野(志賀)を結ぶ一大リゾート地が完成されるわけです。が、どうにも長野側の西武施設への道路、鉄道などのアクセスの具合がよくないという事情があるんです。そこで、オリンピックをエサに、新幹線を通し、高速道を通し、ゴンドラをかけ、“税金”でそれらインフラを整備させようということなんです。アクセスさえ完成すれば、西武のリゾート地は忽(たちま)ち一流に生まれかわることになるんですから……」(『週刊新潮』92年11月12日号)



(2)全国各地で自然環境を破壊

 また、西武のあくどい商法や国土破壊などを批判しつづけている本多勝一氏(ジャーナリスト)はこう述べている。

 「この数年、私は国立公園や県立公園内での環境破壊とか、地球上に残された稀有な地域の自然保護問題について取材してきた。いちいち例はあげきれないが、要するに自然破壊や自然公園法冒涜の問題が起きているところを調べると、実に多くの場所で西武系(とくに国土計画株式会社=堤義明社長)がからんでいるのだ。国立や県立の自然公園に指定されているところを、日本ほど好き勝手に伐採したりスキー場開発したりできる野蛮な後進国は地球上にほとんどないほどだが、それに手を貸している国土破壊計画会社の典型が西武系なのである。いったいこの“国土破壊株式会社”は、わが祖国日本をどうしてくれようというのか。一説によると、西武系が買い占めた日本の国土はすでに四国の面積に匹敵するとか。四国といったら広大なものになるが、株式も公開せぬこの秘密会社が何をしているのか、確認は容易なことではない。しかし都会のバカ高い土地と違って、西武が観光開発として狙うような山や過疎地帯は、もうタダみたいな値段だから、この説も資金的には決して不可能ではないだろう。しかも地元民の多くは、単に馬の前にぶらさげられたニンジンの近視眼的無知と目先の利益に導かれ、郷土の真の価値を破壊してゆく開発会社を『誘致』するのである。新植民地主義下の『発展途上国』と、『北』の先進国との関係そっくりに、“現住民”の政府(多くは『先進国』のかいらい政権)がのぞんだからという錦の御旗のもと、堂々と『開発』(侵略・破壊)してゆくのだ」(『貧困なる精神』第19集、すずさわ書店)

 こうした西武の自然環境破壊に対して、全国各地で反対運動が起きている。たとえば1989年、堤義明氏は長野冬季オリンピック招致委員会の名誉会長に就任すると、直ちにオリンピックの滑降コース候補地に西武経営のスキー場である志賀高原の裏岩菅山を予定すると発表した。ねらいは次のとおりである。西武(コクド)は、志賀高原に焼額山と五輪山という2つのスキー場をもち、さらに岩菅連峰を越えると、上越の苗場、三国、中里にもスキー場を保有している。これらのスキー場をロープウェイで結んでネットワーク化し、群馬、新潟、長野の3県にまたがる総延長50キロメートルの「夢のスーパー・スキー・ネットワーク構想」をもっていたが、裏岩菅山に滑降コースを建設するという計画は、この構想の一環だったのである。

 志賀高原に唯一残されている原生林を背にする岩菅山に滑降コースを作るというこの計画にたいして、自然保護団体などが反対運動に立ち上がった。「わずか2週間のオリンピックのために、貴重な自然をぶっ潰していいのか」「会場となるところを利権化し、それを当て込んでリゾート開発をすることは許せない」などという声が高まり、結局、堤義明氏は岩菅山での滑降コース案は断念せざるを得なくなった。

 このほか、たとえば北海道夕張市では「ユウバリコザクラの会」が、八幡町の鳥海山では「鳥海山の自然を守る会」が、群馬県の三国高原では「新治村の自然を守る会」などが、西武が強圧的に進める環境破壊に対して反対運動を起こしている。1990年には、全国規模の「反・国土計画(株)住民運動ネットワーク」も結成されている。



 スポーツジャーナストの谷口源太郎氏は、堤義明氏や渡辺恒雄氏(読売グループのトップ)がプロ野球、スキー、大相撲、Jリーグなどのスポーツに支配力を及ぼしていることをとりあげ、こう記している。


 「堤氏にしろ、渡辺氏にしろ現実的な利害だけからものをみて、スポーツ文化をつくりだしていくといった理念や理想をもっていない。そういうひとがスポーツ界を揺り動かしているところに、日本スポーツ界の貧困さがあるといえるのかもしれない」(前出『創』)

 また、本多勝一氏(前出)も、堤義明氏のこうした姿勢を痛烈に批判し、つぎのように述べている。

 「自らは税金を払わずに、国民の税金を最大限に我田引水してふとりつづけるこの企業は、自民党政府やその役人など言いなり放題だとみているのだろう。(中略)スポーツ大会を自社の施設でやるためには、国際大会誘致に好都合な全日本スキー連盟会長に就任して公私混同・我田引水し、また国際級のスポーツ選手をどんどん社員にしてコネやコマに使う。近くは長野オリンピック誘致合戦での伊藤みどり氏(フィギュアスケート=コクド系のプリンスホテル所属)を見よ。スキーをはじめとするスポーツで国際級選手になるためには、青春の時間のすべてをその一点に賭けてしまった人が多く、他に就職もしにくいので、こうした企業の言いなり放題である。それにつながる文部省も言いなり放題だ」(『貧困なる精神』第J集、朝日新聞社)






2004年10月10日(日) アメリカ大統領選挙:ケリーは勝利できるか


《 アメリカ大統領選挙:ケリーは勝てるだろうか 》

                    2004/10/10




アメリカの大統領が変われば世界の歴史も変わるといっても過言ではない


アフガン戦争・イラク戦争を遂行したブッシュ大統領のアメリカは国際社会の中で孤立をよぎなくされ,その一国主義的な強硬路線に対して,アメリカ国民の中にも「国際協調主義」の方がよいという声も高まっているようだ。

ここにきて,民主党のケリー上院議員に対する重要州での支持率が高まっており,ケリー氏が逆転して大統領になる可能性も出てきたようだ。テレビ討論会でイラク問題の失態を突かれたブッシュ大統領は「テロとの戦いこそがアメリカの使命」と,居直ってみせているものの,全米の視聴者の多くは,泥沼化したイラク占領の行方に不安を抱いており,この討論会を見て,ケリー氏支持に転じた人々も多く,ブッシュ優勢もくつがえされるかもしれない。

ところが,アメリカの大統領選挙には不正がはびこっており,謀略によって共和党が勝つことになると予想している人がいる。Sakai Tanaka氏がその人で,彼は巧妙な選挙操作で共和党のブッシュが勝つのではないかと,実証的な証拠をもとに推測している。注目すべきリポートなので,以下に紹介しておきたい。





●ケリー氏が討論会で優勢.ブッシュ大統領はイラク問題で守勢

 米大統領選は11月2日の投票日まで、13日の最後のテレビ討論会を残すだけになった。民主党候補のケリー上院議員は全米支持率だけでなく、勝敗を左右する重要州ごとの支持率でもブッシュ大統領を追い上げている。最大の焦点であるイラク問題の行方も絡み、最後まで予断を許さない情勢になってきた。

 「今はまだ伯仲しているが、形勢は着実にこちらに傾いている」。大統領とケリー氏がほぼ互角の結果に終わった8日夜の第2回テレビ討論会(セントルイス.ミズーリ州)。ケリー氏の有力側近の一人が自信ありげに語った。
 
 ケリー氏はブッシュ政権のイラク政策批判をテコに全米支持率を回復させたのに続き、勝敗のカギを握る激戦州でも猛追し始めている。先週の世論調査によると、ケリー氏は敗色が濃かったオハイオで形勢を逆転し、一ポイント差でリード。大統領が「当確」と見られていたコロラドでも互角に戻した。大票田のフロリダでも「差が縮まりつつある」と選挙アナリストはみる。

 こうした重要州の動きは全米支持率よりもずっと大きな意味を持つ。米大統領選は各州で一票でも多くを得た候補者が、その州に割り当てられた「選挙人」を総取りし、全選挙人の過半数(270人)を制した候補が当選する仕組みになっているからだ。

 ケリー氏は先月末の時点では、選挙人の獲得予想数で大統領に70〜90の差を付けられていた。だが、オハイオなどの激戦州で優位に立ったことで、8日の世論調査ではその差は40前後に縮まっている。「再びきん差の戦いに戻りつつある」。ブッシュ陣営幹部も8日夜、接戦を認めた。

 大統領がケリー氏の猛追を許しているのは先週、イラクに大量破壊兵器がなかったと結論づける米調査団の報告書が発表されるなど、イラク戦争の正当性が揺らいでいることが大きい。
 ケリー陣営は外交・安保をテーマとした第1回討論会(先月30日)に「圧勝」した際には、重点を内政に移す意向を示していたが、マカリー上級顧問は「これからイラクと経済の両方で同時に攻勢をかけていく」と予告している。=AP



●不正が横行するアメリカ大統領選挙


 11月2日のアメリカ大統領選挙(総選挙)まで、選挙戦の残り時間が1カ月を切った。アメリカでは9月末から不在者投票がスタートするとともに、
10月4日には有権者登録が締め切られた(登録をした有権者だけが投票できる)。

 今年の選挙は人々の関心が異様に高く、前回2000年の選挙時に比べ、有権者登録の数はかなり多くなっている。選挙当日までに登録作業を終えるため、全米の多くの選挙管理事務所で、土曜日出勤や残業が必要な状態になっている。不在者投票も、投票申請書の申請数が前回選挙よりかなり多いと報じられている。


 今年の大統領選挙に対して米国民の関心が高いのは、アメリカが戦争状態という現職の指導者を優位にする事態に置かれている一方で、この戦争状態が続くことが望ましいことなのかどうか疑問が拡大しているからだろう。「今は戦争中なのだからブッシュ大統領についていくべきだ」と考える人と「いや、ブッシュがやっていることはおかしい。辞めさせるべきだ」という主張の人がぶつかり合い、選挙の場で決着をつけようとする事態になっている。

 すでアメリカでは、共和党支持者と民主党支持者の間の論争が喧嘩腰になっ
てしまうことが多くて議論にならない、という指摘がある。両党の選挙運動家が支持層に対して必ず投票するよう呼びかけ続けた結果、有権者登録や不在者投票が増えている。


 とはいうものの、不在者投票が多いことには、もう一つの理由がある。フロリダ州などでは、共和党も民主党も、支持者に対して選挙当日の投票ではなく不在者投票をするように勧めている。当日の投票では、不正が行われる可能性があるからである。


 前回2000年の大統領選挙では、フロリダ州などで、紙に穴を開ける「バタフライ方式」などの旧式の投票システムが、誰に投票したのか判読しがたい票をたくさん作ってしまった反省から、タッチスクリーン方式のコンピューターによる投票機を使ったシステムに転換する選挙区が増えている。

 だが、この投票機はバタフライ方式よりもっとひどい間違いを起こす可能性があり、選挙不正もやりやすいという指摘があちこちから出ている。電子投票機による投票では多くの場合、紙(投票用紙)に結果を出力することをしないため、コンピューター上で不正が行われた疑いを持たれた場合でも、再開票を行うことができず、不正の「やり得」になってしまう。そのへんの事情を分かっている人々は、旧来の用紙を使った方法で行われている不在者投票の方が安全だと考えている。





●厚紙の申請書しか認めないのは妨害工作?

 ディーボルドの本社はオハイオ州にあるが、同社の経営トップ(CEO)であるワルデン・オーデル(Walden O'Dell)は「11月の大統領選挙ではオハイオ州で必ずブッシュを勝たせる」という趣旨のメモ書きを共和党陣営に送っており、そのメモは最近暴露された。これは、ディーボルドが投票機のシステムを不正に操作してブッシュを勝たせるということなのではないかと懸念され、オハイオ州ではディーボルドの投票機を使うのを止めるべきだという議論が起きている。


 ディーボルドの投票機に懸念があっても、オハイオ州ではそれを使うことを止めそうもない。オハイオ州政府では共和党の力が強いためだ。オハイオ州では州知事と州選出の連邦上院2議席の両方、それから州議会の上下院の両方の多数派が、いずれも共和党である。


 オハイオ州は、共和党支持が特に多いわけではない。近年はオハイオ州の中部が共和党の牙城から民主党の票田へと衣替えしている。それだけ共和党の優勢が危うくなっているわけで、民主党は貧困層が多く住む地域などで投票を呼びかける活動を盛んに行った結果、民主党支持者の多い地域では、前回2000年の大統領選挙時に比べ、有権者登録の数が3・5倍に増えた。これに対して再選を狙う共和党ブッシュ陣営は今年3月以降、オハイオ州を69回も遊説に訪れている。選挙戦のラストスパートが開始された10月の第1週には、ブッシュ大統領自身が1週間に2回、オハイオを訪れた。


 共和党陣営は、このような正攻法だけでは足りないと考えたらしく、選挙を取り仕切る州知事が共和党であることを利用して、職権乱用まがいの汚い戦術に出た。ケネス・ブラックウェル知事は有権者登録が進行中の9月上旬「有権者登録は、一定以上の厚紙に印字した申請書によるものしか認めない」という指令を州内各地区の選挙管理委員会に対して発した。

 その理由は「申請書を保存しておくのに厚紙の方が良い」というものだったが、実際のところ保存はコンピューター化され、スキャナーで読み取ってCDに焼きつけていたので、申請用紙が厚紙かどうかは重要でなかった。民主党側が貧困層などに配布していた申請書は薄い一般の紙に印字してあり、それらを無効にしようとする作戦だと民主党側は反発した。知事の指令は有権者登録の締め切り数日前の9月末日に撤回されたが、すでに多くの申請が却下され、民主党が支持者に再申請を呼びかけても締め切りに間に合わない状況になっていた。


 これまでの米大統領選挙では、オハイオ州を制した人が大統領に当選するケースがほとんどだったが、その一方で同州は接戦になることが多く、前回はブッシュがゴアに3・5%の票差で勝っている。今回はもっとぎりぎりの接戦になるのではないかという予測があり、ブラックウェル知事自身「票差が2%以下になった場合、選挙後に(前回のフロリダのような)大騒動がオハイオで起きるだろう」と予測している。

●ゴアの得票「マイナス1万6千票」

 電子式投票機は、すでに全米各地の選挙で何回も使われているが、人口数百人の選挙区で数万票が入ってしまったり、集計時に各選挙区の得票数を加算していくべきところをマイナスしてしまう計算間違いが起きたりという問題が起きている。フロリダ州で2002年に行われた予備選挙では、ある選挙区の投票総数の8%が機械の不具合のために消えてしまったという指摘もある。

 2000年の大統領選挙の当日夜、フロリダ州のボルシア郡(Volusia)という投票総数600の選挙区では、ディーボルド製の集計マシンがゴアにマイナス1万6千票、ブッシュにプラス4千票が入ったと表示する計算間違いをおかした。ES&S製の集計マシンを使っていたブレバード郡(Brevard)でも、ゴアがマイナス4千票になる計算間違いがあった。いずれのシステムも投票結果がマイナスになる計算間違いに対するエラー防止機能がついておらず、選挙管理委員会もマイナス状態にしばらく気づかなかった。


 前回の大統領選挙でフロリダ州は約300票という異例の僅差でブッシュが勝ち、これがブッシュを大統領に就任させたが、フロリダではこれだけ大々的な計算間違いが複数あったのだから、数百票単位の小規模な計算間違いが他の選挙区であり、それは最後まで修正されなかったのではないか、投票機メーカーがエラーを誘発したのではないか、という疑念が出ている。

 電子式投票機を使う場合でも、投票時に投票機の横から投票結果を印字した紙を出力し、それを別途投票箱に入れておけば、不正の疑惑があったとき、投票箱の中の票数を数えて計算することで、正しい選挙結果を把握し直すことができる。だがフロリダ州を含む全米の多くの場所では、紙による出力を行っておらず、投票機で不正が行われたとしても、それを追及する方法がない。投票機メーカーは「紙による出力は煩雑なだけで意味がない」と主張し、共和党系の各州政府も、紙の出力に消極的である。一方、民主党が比較的強いカリフォルニア州では、投票機を使う場合は必ず紙の出力を伴わなければならないと定めた新法を成立させている(ただし実施は2006年から)。

 アメリカでは2000年の大統領選挙後、欠陥システムとして批判された旧式の「バタフライ方式」から脱し、電子式の投票機を全米で導入するための立法措置(Help America Vote Act)が行われて政府予算が組まれ、電子化が促進された。ところが実は、電子式には不正疑惑の問題があることが分かり、今では多くの選挙区が「旧式を使い続ける方がましだ」と考え、電子化を見合わせている。前回選挙時にフロリダの集計問題をすべてバタフライ方式のせいにしたのは、電子式を普及させ、自党に有利な選挙結果を出そうとする共和党の謀略ではないかと疑う人も増えている。



●黒人の投票を妨害する

 電子投票機と並び、今回の選挙で問題になっているもう一つの不正として、
共和党系の人々が黒人有権者の投票を妨害しようとする動きがある。黒人の、
特に貧困層は民主党支持が大半である。

 テキサス州にある、黒人学生が大半であるプレーリービューA&M大学では、共和党系の地元検事が学生に対し、大学のある町ではなく実家の近くで投票するように要求し、それを守らなければ逮捕すると脅していたことが分かった。地元の選挙区でまとまった黒人票が民主党を有利にすることを避けようとしたのだろう。市民の8割以上が黒人であるミシガン州デトロイト市では、共和党の州議会議員が「デトロイトでの選挙を妨害しないと大変なことになる」と発言したことが暴露され、問題になった。

 これらのことはニューヨークタイムスで黒人コラムニストのボブ・ハーバートが怒りの筆致で紹介している。黒人の人権保護団体などは、投票日に黒人有権者に対する妨害行為がないかどうか監視する動きを強めている。投票日に妨害が行われ、選挙後に問題になる可能性がある。


 フロリダ州では、2000年の選挙時に、ジェブ・ブッシュ知事(ブッシュ
大統領の弟)の側近が、選挙権を剥奪される元犯罪者(刑務所帰り)のリストに、犯罪者ではない主に黒人の人々の名前を6万人分加え、当日投票所に行っても刑務所帰りとして扱われて投票を拒否される仕掛けを作ったことが知られている。この件は、前回選挙後に問題になったが、ジェブ・ブッシュ知事はまだ懲りず、今回の選挙でも熱心に黒人の投票権剥奪を行っている。


 その方法の一つは前回同様、刑務所帰りのリストを使うことで、地元の新聞が情報公開の請求をして最近ようやく元犯罪者のリストを公開させ、そこにはいまだに無実の黒人の名前が多く混じっている疑いが濃いことが判明した。興味深いのは、4万7千人のリストの中で2万2千人以上の黒人がリストに載っていたのに対し、ヒスパニック系でリストに載っていたのはわずか61人だけだったことである(リストには人種欄がついている)。


 フロリダではヒスパニック系が共和党支持(反カストロ)なので、共和党系のフロリダの州務長官は、リストの中からヒスパニック系を外し、代わりに無実の黒人を入れた可能性が大きい。このリストは公開された後、問題を指摘され、選挙時には使われないことになったが、代わりにどんなリストを使うか、フロリダ州政府は明らかにしていない。


 もう一つの方法は、黒人住民が多いフロリダ中部のオーランド市で昨年3月に行われた市長選挙で不正があったという容疑を使い、地元の黒人の自宅を一軒ずつ州警察が事情聴取し、もう投票に行かない方がいいと威圧するやり方である。州当局は、不正疑惑が無実だったと5月に発表したが、なぜか州警察はその後も地元の黒人の人々の自宅を事情聴取の名目で訪問し続けた。


 オーランド周辺の選挙区では、前回の大統領選挙で、民主党支持者が黒人有権者たちに呼びかけた結果投票率が上がり、ゴア候補が勝った経緯がある。さらに昨年3月のオーランド市長選挙では民主党の候補が勝った。この新事態が共和党を恐れさせ、今回の選挙では黒人を投票に行かせたらまずいということで、共和党の州政府が威圧作戦を展開しているのだろう。アメリカ南部の黒人たちは1960年代まで、投票に行こうとするたびに妨害を受けたものだが、そんな昔の抑圧がまた戻ってきている。




●コロラド州の制度改正で勝者が変わるかも

 11月2日の大統領選挙は、4年前の前回に劣らない大騒動になりそうだ。
不正の話だけでなく、コロラド州が選挙制度を変えようとしていることも、大混乱を巻き起こす可能性がある。

 アメリカ大統領選挙の制度は間接選挙で、各州で勝った方の党が、その州の人口に応じた人数の「選挙人」を出し、各州の選挙人が12月初旬にワシントンに集合して投票し、次期大統領を決める制度になっている。コロラド州は選挙人の定数が9人で、従来の制度だと、ブッシュ52%、ケリー48%の得票率で共和党が勝った場合でも、勝った方が全部とる仕組みになっているため、9人の選挙人は全員が共和党から出る。

 コロラド州では、州憲法を改定して「勝者総獲得制」を「比例制」に変え、
52:48だった場合、共和党が5人、民主党が4人の選挙人を出す制度に変えようとしている。制度改定を問う住民投票は、大統領選挙と同時に行われ、可決されればすぐに改定が発効することになっている。


 今回の選挙は4年前に劣らず大接戦になりそうなので、コロラド州が制度を変えた場合、僅差でブッシュが勝つ状態から、僅差でケリーが勝つ状態に変わってしまいかねない。しかも問題をややこしくしているのは、コロラド州が制度を変えるかどうかは、大統領選挙の投票結果が出るのと同じ日だということである。


 コロラド州の世論調査では、改定賛成が51%なので改定が実現しそうな気配だが、その場合共和党側が猛反発し、改定は違法であると主張して争いを裁判所に持ち込み、最高裁で決着がつくまで騒動が続く可能性がある。


 前回の大統領選挙でも、フロリダ州の選挙結果について最後は最高裁が判断し、最高裁の判事に共和党系が多いことがブッシュ勝利につながった。今回も、裁判のテーマは違うが展開は似たようなものになるかもしれない。いずれにしても、すっきりした選挙にはならないだろう。












カルメンチャキ |MAIL

My追加