観能雑感

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観能雑感
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2006年03月12日(日)

宝生会　月並能　

宝生会　月並能　宝生能楽堂　PM1:00～

　三川泉師のシテがあるので見逃せない。あまりよく眠れず眼の調子も相変らずだが、出かけられるだけで嬉しい。
　入口には宝生和英師宛ての花がいくつかあり、送り主の一人に何故か藤波辰巳氏の名前を発見。どういうつながりなのだろう。
　中正面後列正面席寄りに着席。8割以上埋まっているものの、自分の周りには空席があり、視界良好。

能　『弓八幡』
シテ　宝生　和英
ツレ　大友　順
ワキ　森　常好
ワキツレ　舘田　善博、森　常太郎
アイ　三宅　右矩
笛　松田　弘之（森）　小鼓　鵜澤　洋太郎（大）　大鼓　亀井　広忠（葛）　太鼓　桜井　均（春）
地頭　髙橋　章

　真ノ一声が格調高く響き、登場する人物がただの人間ではないという、ある種の緊張感が充満する中、シテ、ツレ、登場。とりあえず懸命なのは確かだが、生気に欠けると言おうか、妙に老人めいたシテの姿が気になる。脇能の前シテは老人である場合がほとんどだが、年経てはいても、老いさらばえていてはいけない。身体の在り様そのものが弱いのだろう。後シテの高良神になっても、この印象は変らず。颯爽と力強く奏される神舞と、どうにも不釣合い。地謡もばらつき気味で、今ひとつ。消化不良の一番となってしまった。

狂言　『磁石』
シテ　三宅　右近
アド　三宅　近成、前田　晃一

　田舎者ゆえすっぱにだまされたものの、知恵を絞って事態を乗り切る者の姿を近成師が好演。若者ならではの必死さが出ており、時分の花ならではの良さがあった。

能　『西行桜』
シテ　三川　泉
ワキ　宝生　閑
ワキツレ　殿田　謙吉、梅村　昌功、則久　英志、御厨　誠吾
アイ　三宅　右近
笛　藤田　大五郎（噌）　小鼓　幸　清次郎（清）　大鼓　亀井　忠雄（葛）　太鼓　大江　照夫（春）
地頭　今井　泰男

　懸念したとおり、宝生閑師の謡が少々重い。花見の人々が去った後、西行の夢の中に現れた桜の精は、居丈高にその存在を主張することなく、ふと気付いたらそこに居た、という自然さでひっそりと登場。黄唐茶の狩衣に秘色の大口。面は小尉だろうか。決して詰問調ではなく、むしろ旧知の間柄のように、ゆったりと語りかけ、西行も同じように応える。クセで桜の名所が謡い込まれていく最中、道一杯に散り注いだ花びらが風に吹かれて舞い上がる情景が、心のなかに浮かんだ。序ノ舞は、老いた桜の精が、かつて爛漫と咲き誇っていた頃の事を思い返しているような、距離感のある華やかさが広がり、老人の面が一瞬微笑んだような気がした。囃子は誰一人として無駄な主張をすることなく調和し、老体の序ノ舞とはこう奏するべきなのではないかと思える、傑出した出来。
　夜明けとともに、桜の精は静かに姿を消す。夢から覚めた西行は、いくばくかの胸の痛みと、限りないいとおしさを持って、桜の老木を見上げたのではなかろうか。
　終曲してから、囃子方が橋掛りにかかるまで、拍手が出なかった。宝生流の会としては極めて異例。儚くも、生命の力強さが根底に流れる、束の間の夢の時間だった。

能　『海人』
シテ　佐野　萌
子方　前田　尚孝
ワキ　工藤　和哉
ワキツレ　梅村　昌功、則久　英志
アイ　　高澤　祐介
笛　藤田　次郎（噌）　小鼓　森澤　勇司（清）　大鼓　佃　良勝（高）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　近藤　乾之助

　始めの部分で眠気が出てしまった。謡い方の問題なのか、子方が作中人物ではないような、どこか他人事のような感じで、シテの心の動きと呼応せず、観ていて辛かった。玉ノ段は、この方らしい滑らかな動きで、大仰なところがなく、滑るように潜っていったのが印象的。海中での死闘は、冷静なだけに返って痛々しい。正体を明かした姿はなんだか辛そうだった。
　後シテは舞衣、大口ともに紅。物語としては前場で完結してはいるが、龍女となって成仏するこの後場は、この母のためにはぜひともあってほしいもの。子供としても、母が成仏していく姿はひとつの救済であると思う。
　地謡は重厚な中に軽やかで、宝生流の良さが出ていた。

　気になることが全くなかったわけではないが、概ね落ち着いて観ることが出来た。いつもこうだといいのだけれど。

2006年03月05日(日)

第79回　粟谷能の会

第79回　粟谷能の会　十四世喜多六平太記念能楽堂　PM1：00～

　前日から胃痛のため食べ物をほとんど口にできず。持病の痛みも加わって体を起していることさえ難しく、外出は論外だった。
　以下、番組のみ記載。

能　『柏崎』舞入
シテ　粟谷　能夫
子方　友枝　雄太郎
ワキ　森　常好
ワキツレ　舘田　善博
アイ　野村　萬斎
笛　松田　弘之（森）　小鼓　曽和　正博（幸）　大鼓　国川　純（高）
地頭　粟谷　菊生

狂言　『財宝』
シテ　野村　万作
アド　野村　萬斎、深田　博治、高野　和憲

鵜之段　　粟谷　菊生

能　『青野守』
シテ　粟谷　明生
ワキ　宝生　閑
アイ　石田　幸雄
笛　一噌　幸弘（噌）　小鼓　観世　新九郎（観）　大鼓　佃　良勝（高）　太鼓　観世　元伯（観）
地頭　出雲　康雅

こぎつね丸