観能雑感
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2003年07月21日(月) 弥生会

弥生会 宝生能楽堂 PM12:00〜

初の素人会潜入。豪華出演者による能3番が無料とあらば行くしかあるまい。心身ともに疲労していたのだが決行。
このような豪華な番組ということは、記念の会なのだろう。主催者である北村治師は重要無形文化財各個指定が決まり、めでたさ倍増である。
開始10分前に到着。とりあえず席を確保。中正面後方脇正面側の端。既にかなり埋まっている。受付に戻って番組を貰えるのかどうか尋ねる。答えは否。入り口すぐの柱に貼ってあるもののみとのこと。他にも訊いている人がいて、「先生がお送りしたものだけです」という返答が耳に入る。無料で観せて頂くのだから贅沢を言うべきではないのは重々承知しているが、関係者以外立ち入り禁止でないならば、コピーで十分なので番組を配布してくれればいいのにと思った。
以下の番組は記憶によるものなので、不備がある可能性あり。

居囃子
羽衣
船弁慶
弱法師
地謡は観世流武田家の方々。素人弟子による演奏は初めて聴くが、なるほど玄人はやはり玄人なのだと改めて関心。北村師が後見しながら肩を叩いたり声をかけたりしている。

舞囃子
藤戸
シテ 武田 志房
これまで観た藤戸の仕舞と比べると印象が薄い。全体的に鬼気迫るものがなく、あっさりしていた。

能 「清経」 音取
シテ 友枝 昭世
ツレ 狩野 了一
ワキ 宝生 閑
地頭 粟谷 菊生
笛 一噌 仙幸 大鼓 柿原 崇志
笛、大鼓は上記居囃子、舞囃子と同じ。
超豪華出演陣を無料で観られるとあって、見所は満員。立ち見の人も多い。
素人会なので軽めに行くだろうとなんとなく思っていたが、閑師は実にしっかり謡っていた。少々重く感じる程。ツレは清楚な色香が漂っていて、この方の若い女性役は実に初々しい。
仙幸師の音取は、表面上は穏やかだが、底では激しく対流している海面のごとき趣き。橋掛りが長いので、笛の音に耳を傾けつつ、音が止むと足を止め、少しづつ進んでくる演出が生きる。
 シテは武者が織りこまれた白半切、 鳥ノ子色の花文様厚板、紺の法被に黒垂、中将の面。耽美な貴公子の風情が良く出ている。妻との会話はすれ違うばかり。自害した理由を語ろうとシテはツレの方に向くが、ツレは大小方向を向いている。拗ねているかのよう。
清経の在り方を考えると、対照的であった知盛が想起される。個人的には知盛のような生き方の方が魅力的に映る。そう思いながら観ていたのにも関わらず、入水寸前の清経の挙措に何故か目頭が熱くなった。能とはやはり不思議である。友枝師の後姿には清経なりの清冽な覚悟が漂っていた。
小鼓を打たれた方は、後見なしで一番を立派に勤め上げた。お稽古事もここまでくれば素晴らしい。
見所の誰もが考えたかもしれないが、この豪華出演陣に小書付き。相当な出費であろう。


居囃子 

百万
地謡 武田家
伯母捨
地謡 シテ 粟谷 菊生
笛 藤田 大五郎 大鼓 亀井 忠雄 太鼓 小寺 佐七
邯鄲
地謡 シテ 山本 順之

「伯母捨」の時も再び見所は超満員。喜多流の伯母捨は殊更貴重なためか。小鼓は研究者の三宅晶子氏。後見無しでクセの前から終曲までという長い曲を勤めた。さすがである。

能 「班女」
シテ 浅見 真州
ワキ 宝生 欣哉
ワキツレ 大日方 寛 御厨 誠吾
アイ 野村 万之丞
笛 藤田 大五郎 大鼓 安福 健雄
地頭 山本 順之
アイが万之丞師で意外だった。万蔵襲名も決まり、本業に力を入れようということだろうか。相変らずの上ずった声。
真州師、最初、長者に呼び出されてのろのろと橋掛りを歩んで来る様と、狂女となって転びそうな態で歩を進める様が好対照。舞も毎度の事ながら美麗。
欣哉師、いつも思うのだが控えている時の表情がなんとなく締りがなく、瞬きが多い。言葉を発しない時も美しく在ることが脇方には重要なのではないだろうか。あれだけの芸を持つ人だからこその注文である。
順之師、不調が伝えられているので大事にしてもらいたい。このまま磨耗してしまうのはあまりにも惜しい。
小鼓の方はかなり難儀していた模様。

居囃子
実盛
野宮
地謡 銕仙会
笛 一噌 庸二 大鼓 亀井 忠雄 

能 「土蜘蛛」
シテ 野村 昌司
シテツレ 鵜沢 光
トモ 谷本 健吾
ワキ 森 常好
ワキツレ 舘田 善博、他1名
笛 一噌 庸二 大鼓 亀井 忠雄 太鼓 小寺 佐七
地頭 観世 銕之丞

鵜沢久師のお嬢さんがツレ。若いせいもあってか、声がいかにも少女めいている。性別を超越する表現力はまだ身に付けていないよう。母上の姿を観ているので、その難しさはきっと良く分っているのだろう。今回に限って言えば、可憐な侍女であった。
昌司師のシテは初見。中入前に投げた糸のひとつが笛方に直撃したような…。
後場は予想より地味だった。以前観たのが金剛流で、千筋之糸という小書付きだったためかもしれない。仏倒れはなし。元来観世流はしないものなのだろうか。ワキとの切組みも控えめ。
小鼓の方は、かなり大変そうだった。

ちょっとつまめるものを用意してこなかったのを少々後悔。元来劇場でほとんど物を食べないのだが、今回は長丁場だった。結局開始の12:00から終了の19:00まで観てしまった。途中帰ろうかとも思ったのだが、最後が能だったので粘ってしまった。我ながら酔狂である。疲れていたので半覚醒状態になったところもあったが、仕方ない。長かった。


こぎつね丸