■観月せんせいとロマンティックな仲間たち■ まんが家ネタ

 不二裕太は講英社の女性向けまんが雑誌「bouquet」の新人編集者。担当まんが家の苑生未月(そのう・みづき/本名 観月はじめ)もまたデビューしたての新人だが、雑誌たちあげ時に編集長の赤澤が自ら発掘してきたホープで現在、初連載を抱えて奮闘中である。

「あれー不二裕太くん今から外?」
「あ、週刊マガジャンの千石さん‥‥お疲れ様です」
「オツカレはそっちでしょう。119番?(※ヘルプ入電のこと」
「おっす。観月先生がちょっと、煮詰まってるらしくて」
「ミヅキ‥‥あー苑生さんか。頑張ってるねーあの大ページで」
「ほんとに頑張り屋なんですよ。よく粘るし。本人は短気ですけど」
「あのヒトさ、基本超ロマンス路線だけどたまーに厭な描写するよね」
「あっ‥‥そう、そうなんですよ!」
「なんか女も男もだけど、サワヤカくんもいい奴もけなげな子も、生々しい図太さ? なんか見えちゃった!みたいな感じでさー‥‥」
「千石さんはどうです? ああいう感じ」
「好きだね。あのイヤさが快感と言いますか。でも救いは必ずあるし」
「その救いを観月には必ず作ってやれっていうのが、編集長の口癖」
「オー意味深。ダブルミーニング」
「はい?」
「つーかさ、どうなのミヅキさんて。まだわりと若いんでしょ?」
「えっと、俺のいっこ上かな」
「観察眼鋭いって言っても二十三、四でこの説得力はなかなかないよ。経験の裏打ちを感じさせるんだよね。相当数いってるなっていう‥‥」
「‥‥‥‥」
「直球いくけど美人?凄そう?」
「‥‥美人、ですけど‥‥すいません。詳しいことは部外秘っす」
「えーつれないなあ不二くん! だってミヅキさん都内なのにパーティーとかも来ないんでしょ? 赤澤くんはいつまで隠しとく気なの」
「じゃあちょっといってきます!」
「今度、担当同席でいいからセッティングしてよ!」
「機会があれば! あと千石さんコレ兄貴に聞いてもダメですよ!」
「! 大人になったなぁ裕太くん‥‥」

「千石? まだ居たのか」
「みなみ! と赤澤くんか。珍しくもない組み合わせ」
「おう、編集長会議だ」
「赤澤それ、伴(編集)長に聞かれたら俺がシメられるから」
「おうよ。俺と南副と、東方副があとで来るって。千石は来るか?」
「行きますとも。ねえ赤澤さん、不二くんはいい作家についたね」
「ん、観月か? そうだなあお前にはやれねえだろうな!」
「ひどい! 俺の好担当ぶりをシュウスケ先生に聞いてよ! ねえ南!」
「そういえば不二シュウ、バリに取材行きたいって電話掛かってきてたよ」
「ハァ?! もーやめてよ‥‥なんの脅しだよ‥‥」
「俺らいつもの店いるから、先回ってこいよ」
「そうします‥‥」

「千石こそいい先生についたぜ。不二はマガジャン1ぜんまい固いから」
「巻いて巻いて巻いてやっと走り出すってか。巻かされるのも担当冥利。
いちいち呼ばれるってことはそれだけ信頼があるってことよ」
「こっちは専属じゃないってんだけどな。それを向こうに感じさせないのがまあ、いい担当だよ。千石はよくやってると思うよ」
「『俺のまんが家さんですから』」
「なんだ?」
「裕太の口癖」
「いいなあ」
「いいだろ」
「うちにも欲しいな裕太」
「やらないけど。よっし行くぞ。今週中に飲み溜めだ」
「月刊誌はいいなあ」

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スーツ姿があまりに自然な赤澤&南(と東方)。
マガジャン組:副編集長南・副編集長東方・看板作家の担当編集千石。コミック誌一の大編成部署。
まんが雑誌はえぬきで同期で仲良しの四人組。大分遠い同期に営業忍足と内部のデザイナー宍戸。



【ゆたみづ打ち合わせ編】

「観月先生、言っちゃっていいすか」
「‥‥‥‥いいですよ?」
「えっちしちゃう気でしょ」
「‥‥‥‥いえそんなことは‥‥」
「うそだぁ。絶対したいっすよ」
「ちがいます。」
「したいです。俺はわかります」
「ちがうって言ってる!」
「正直に言ってよ!ここはしなきゃ嘘っすよ!」
「そう?」
「そう」
「‥‥わかりました。したいです。俄然やる気です」
「よっしゃ」
「どうせまだ早いとか唐突すぎるとか言うんでしょう」
「いいですよ。いきましょうえっち」
「えっ‥‥」
「いいと思います。俺もすごく好きです、この流れ」
「そう‥‥?」
「うん。キますよ」
「だよね」
「はい」
「当然ですよ」
「勿論」
「じゃあその回、裕太もそのつもりで」
「っした」
「で、その前に‥‥‥‥いや、裕太、よくわかったね」
「観月さんは俺が一番見てますから!」
「そうか‥‥はい。わかりました。で、えっちの前にね‥‥」


打ち合わせです。
まんが家と担当が何を話してるかなんて私にわかるわけがない。
これはネームを見た裕太が「観月先生はこの二人(登場人物)を近々えっちさせる気だ」と欄外に読み取って問いつめているシーンです。
先生は裕太がかなり先を見越してきたのでちょっと驚いてる。
大の大人が真顔で膝突き合わせて「えっち」言い合うのも少女まんがの醍醐味というか。
ちなみにこの雑誌は『そういう関係』は扱いますが『そういう描写』は載せません。観月先生も描けません。
観月先生はネームは平気ですがペン入れ原稿のキスシーン等は「裕太じろじろ見ない。早く仕舞いなさい」と言って怒ります。
だって描く時そういう顔して描いてるから。しないと描けないから。

だから、ミヅキ先生が男性だということは部外秘、っていう一番大事なことを書き忘れました。多分南あたりは知ってる。
はじめちゃんは恥ずかしいというか自分の中にあるミヅキ先生像を大事にしているので
こんな170超えた(超えたの)男が出て行くことないでしょう!って思ってる。
最終身長ゆーた180/みづき172。赤澤181。


参考:
富士シュウスケ■週刊少年マガジャンで連載中のカンフー純愛まんが「百裂★蹴砕☆ハリケーン」がアニメ化、
杉並区に建てた自宅は「蹴砕御殿」と呼ばれている。主人公の名前が蹴砕(キッカ)。
メジャーなカップリングは股木×キッカ(股蹴)空廻×キッカ(廻蹴)

*解説‥‥コータローまかり通る!にミスター味っ子をブレンドして鈴木央っぽい絵柄でろくでなしブルースを漂わせながら
しりあがり寿の切なさを忘れずにところどころ魁!男塾と北斗の拳をリスペクトしてください。そんなパンチラマンガです。

2005年02月27日(日)

■事情通の務め■ ルドルフ寮・夕食後の団欒(赤←観)


「送りますよ」

 食堂の端のテレビの前にいた柳沢がすごい勢いで振り返った。観月は気が付かなかったふりで広げたノートを片付けはじめる。赤澤は何も言わない。柳沢がゆっくりテレビの方に顔を戻すと、入れ代わりに淳がこちらを向いた。

「観月コンビニ?」
「いいですよ何ですか」
「今日は聞いただけ」

 あーコンビニね‥‥柳沢は二度ほど大袈裟に頷いて、ちゃんと名札ひっくり返してくんだーね、と半ば口癖である注意を述べた。あーコンビニね、と呟いている男がもう一人いる。観月は舌打ちする。

「赤澤。聞いてなかったようだからもう一度聞かせてあげるけど僕は『送ります』と言ったんだ、お前がそこで馬鹿面ぶら下げていて僕に一体何を送らせる気ですか?」
「‥‥スマン」
「素直で感心ですね。最近は『何でも謝れば済む』ってことを学習したんだ。じゃあもう一段階進めて『それが通用しない相手もある』ことを是非知っておいてください。それがこの僕です」
「だから済まんと言ってるだろ!」

 怒りでなく呆れで声を大きくして赤澤が立ち上がる。ちょうどそこへパーカーを着込んだ不二が顔を出した。

「オレ、コンビニ行きますけど」
「あーいいぞ裕太、観月が行くから」

 そう言った赤澤を観月が見て、不二は観月を見た。バリバリの体育会且つ軽くチンピラ体質のこの二年生は先輩を、殴ることはあってもパシリには使わない。

「いいッスよ観月さん、何ですか」
「あ、いや」

 オレが買ってくるからいいですよ、のニュアンスで出されたその言葉に観月が詰まる。柳沢が今度はそっと振り向く。淳が何か思い付いたのか「裕太」と声を掛け、赤澤が更にそれを遮った。

「いいんだよ、ついでだから」
「あかざわ!」

 観月が怒鳴った。不二にはさっぱり状況が呑み込めない。怒鳴られた赤澤にも理由などわからない。テレビの前で淳が背中を丸めて笑い、柳沢は小さく咳払いをした。



(了)





 ←柳沢の言っていた「名札」とはこれのことです。
 電話の横の壁にあり、外出中は青い方を表にしておきます。
 また右下の名札(観月さん)のように、帰省など長期不在時は
 ひっくり返さず名札の隅に赤いシールを貼ります。

2005年02月26日(土)

■それから。■ あかきさみづきさやな二年の十二月


 観月はじめは足音を立てずに移動する。羽を踏むように歩く。そのことに気付く奴はあまり多くない。

 容姿と仕草だけ見ていたらおとなしい男なので、音もなく歩くのは似合っていて自然な気もする。そばに来る時は黙って来るということがないので(大概十五歩も先からきゃんきゃん言いながら寄ってくる)、あるいは黙っていようが威圧感というか何か気のようなものを放ってもう居るだけで十分騒々しいので、足音には気が回らないのだとも言える。でもそうかな。

 木更津に言わせればそれが観月の欺瞞だった。皆がやかましく感じている観月はじめはコートにしかいない。ラケットを振り回しているかラップトップのキーを叩きつけている時、テニス部のマネージャーかエースプレイヤーの役をやっている時の観月しか皆の記憶の中にはない。自分たちはこの一学年二百人に満たない学校の中で一日の四半分を暮らしているというのに。それこそ、観月が普段どれほどひっそりと気配を消しているかがわかるというものだ。観月は意図的に透き通っている。あのむせかえる存在感はフェイクだ。

「淳は」

 柳沢は思慮深げに言葉を呑んで、またかちりと繋げた。

「推理小説の読みすぎだーね」
「そんなもの読んでないよ」
「じゃああれだーね、知略戦術に拘りすぎだーね。策士策に溺れる」

 わかってて言ったな。木更津は口先をむっと尖らせたが、その形が柳沢の口元に似ていると気付いてすぐ戻した。

 寮内にいくつかある共有のリビングで柳沢は暇を潰していた。暇潰しは柳沢の愉しみだ。寸暇を惜しんで暇を見つけては喜んで潰している。木更津はそれに便乗してコーヒーを飲みながら、ページをめくる音を奏でたり開く頁数を当てることに時間を費やしている。

「それにしても観月が足音立てないなんて淳よく気付いたんだーね」
「気付いたのは赤澤だよ」

 柳沢が微かに眉を上げた。こいつの性質の悪いところは、自身が聡明なばかりでなく他人もまた聡明であるものと考えているところだ。彼が買いかぶってくれた程度に聡明だった木更津はその「ははあ」と言わんばかりの視線に遭って内省的な気分になった。

 彼が言外に指摘する通り、あれが赤澤だったから木更津はかくもしつこく考えている。考え抜いている。観月の歩き方って猫みたいだよな、なんて観月に聞かせたら少し喜ぶか酷く傷付くかだ。気付かれることは観月には意味がある。多分それが赤澤だということで益々意味を増す。

「寮で一緒だからって必ずしも俺たちの方が観月に詳しいとは言えないんだーね」

 柳沢はわざとなのか少し的外れなことを言った。

「バカ澤がバカでないことも淳はもう知ってるだーね」
「俺はただ何かあるんだろうってことが言いたかっただけだよ」

 ああ、柳沢の聡明さが、観月の不用心な用心深さが、赤澤の繊細な無神経さが俺を迂闊にする。木更津は言ってはいけないことを、わかっていて言ってしまうという過ちを一つ覚悟した。幸いは目の前にいるのが聞かせてはいけない相手でなかったことだ。木更津は柳沢の思慮深げな沈黙に甘えた。

「俺たちが誰も気付かないで赤澤が気付くなら、何かがあるんだろうって言いたかったの」

 言葉の残滓は舌の上でこわばった。木更津は俯いた。誰もこんなことを望んでなどいなかったのにな、と思った。事実は言葉になどなりたくなかったし、誰も言葉を待ったりしなかった。それでも木更津には、後悔することが何故かできないのだった。

 柳沢は誠実な教師のように頷いて、大したことないという顔で答えた。

「もし淳が気付いたみたいに赤澤が気付いても、それが何だか知ろうとはしないんだーね」

 大丈夫だーね。そう言ったので、木更津は膝の上の本をぱらぱらとまためくりはじめた。わだかまりが解けていく。柳沢のようにありたいと思った。そして赤澤のようでありたいとも願った。

 ありがとうと言いたくて顔をあげると柳沢が誰かを見て笑った。本当は自分だけが知らなかったんじゃないかなとその優しい目を見て考えた。

「観月、スリッパ変えただーね。新しくてきれいだーね」

 言われて足元を見れば、冬のうさぎのように白くふわふわした毛のスリッパが観月の足をまるっと隠していた。

 観月は居心地悪そうに膝をもじもじさせて小さく応えた。

「足の先が冷えるんですよね」

 かわいいんだーねと柳沢が言い観月が顔を真っ赤にして怒る。別に観月はかわいくないんだーね、スリッパだーね、と言うとますます真っ赤になって怒った。木更津は観月の、テニスシューズにぴったりと包まれた足のことを考えた。それから、いいなあ俺もそれ欲しい、と言った。



(了)

2005年02月25日(金)

■テニスコート脇にて■ りっかいバカトリオ+エース

「梅が咲いてるよ」

 銀色の曇り空に目を細めながら幸村が公園を指差した。

「少し歩こうか」

 柳が信号のない横断歩道に歩み寄る。だらだらと連なる小渋滞の途中、タクシーが止まり、運転手が溌剌とした笑顔で手を振った。柳は軽く頭を下げ、幸村の手をつかんで小走りに道を渡った。

「いいなー先輩手ェつないでずるいなー」
「赤也、どっちが?」
「んっと両方」
「赤也には弦一郎がいるぞ」

 切原はくるりと振り向いて、満面の笑みで手を差し出した。くだらん、と言ってしまい彼がちぇーっと背を向けたところで、やっぱり自分も少し羨ましかったと気がついたが遅かった。

 生け垣の緑は濃く明るい。そこにもまるでぽとり血を垂らしたように、バラほどもツバキほども赤い花が僅かに咲いている。覗き込んでみた。花びらは五枚あった。中心から黄色いおしべが突き出していて、その根元に水が溜まっていた。昨日の雨だろうか。

 これはなんという花だろう、と思ったら、切原が顔を突っ込んできてこれなんて花ですかね、と言った。答えられないので黙っていると柳がすぐ、弦一郎が花の名前など知っていたら可笑しい、と口を挟んだ。切原と幸村だけが笑った。

 広場の鳩はみんな同じ方を向いて一斉に歩く。

 花の見頃はどうやら過ぎていた。でも悪くないよ、と幸村は言う。花も満開よりこのくらいの方が凜々しくて美しいし、空だって真青もいいけど今日みたいに薄曇りの方が落ち着くし、ほら、潔いだろう。確かにその色彩は簡潔で、ゆえに力強かった。幸村は好きだろうなと思った。枝振りの陰影と空は銀色のコントラストで、梅の紅は潤んだように鮮やかだった。

「あっ猫が交尾してる!」
「赤也、やめないか」
「え、赤也、どこ?」

 幸村も! 柳の制止は二人の背中に追いつかなかった。なんだかんだであの二人が一番気が合う。そんなところは似なくて良いのに、と思ったが別に似たわけじゃなくもともと似ていたのだ。

 花を、と柳が言ったので真田は立ち止まった。さっきのようにあまりまじまじと見るな、弦一郎。何故かと問おうとしたらそれより早く、柳は悪戯した風に笑った。見るなよ。あれは性器だぞ。

「真田!来て!」

 幸村のはしゃいだ声を聞いた。はっと顔をあげるとすぐ側に建つ学校の校舎の外階段に女生徒がいて、目が合った。さなだ! 幸村が急かす。

 テニスコートだ。幸村が呟く。開け放されたフェンスの内側には整備もあまり密にはされていないのだろう、ネットの弛んだコートが二面あった。テニスコートだ。柳が呟く。奥の方のコートでは学生服が二人、続かないバドミントンに興じていた。

「先輩達、ちょっと」
「駄目だ」
「っええー」
「だめだ」
「真田ふくぶちょうー!」
「赤也」

 幸村の声だったのだろうと思う。切原の革靴の先が芝生の泥濘に沈んだ。そのまま、泥が撥ね上がるのも厭わず、切原はコートに向かって土手を駆け降りた。赤也。柳が声を掛けた。切原は深く腰を折り、地面に右手を落とした。少しの勢いをつけて上体を起こしたその手には黄色いボールが握られていた。

 真田は土手に踏み込んだ。芝生の下で、濡れた軟らかい泥が生き物のように蠢いた。追いついた真田を睨み付け切原はぶらりと手を伸ばした。

「汚れ役はやっぱあんたか」

 真田の肘に縋って片足を上げ靴底を見る。にひ、と笑いながらこちらを見上げた目が微かに赤く滲んでいる。夏がひどく遠く感じた。なにか取り返しのつかない時間が流れてしまったように、真田は唐突に感じた。泥に汚れたテニスボールを切原はそっとコートへ返した。

 二人とも早く上がってこい。柳の声に幸村の笑い声が重なった。赤也は真田に似てきて困るよ。えーひどい! 肘に引っ掛かったままの切原の手を真田は掴んで引いた。似てねーよ。ねえ。ぼやきながら握り返してくる掌の温度はまるで自分の手のように馴染んだ。境目なく血が混じる。

 柳せんぱーい。運梯を渡る子どものように切原はもう片方の手を柳に繋いだ。冷たい手だね。そのまま坂道を駆け降りていく。柳の肩に掛けたスポーツバッグが石畳にどさりと落ちた。

 木々の葉の影が重なり合ってその中に幸村がいる。眉根を寄せて戸惑うように笑っている。こわれて崩れ落ちそうに、それなのに強く、ただ強く笑っている。バッグの上に屈み込んだ手からショルダーを取り上げると幸村から濡れた花の匂いがした。苦かった。

 どん、と拳で胸を叩かれ思わずよろめく。また笑いながら差し出された手の指の隙間から赤が零れた。ハイビスカスだよ。赤い花びらは幸村の熱い掌の中で熟んでいた。真田知ってる? 手背に擦れる花びらのしおれた柔らかさ。花は植物の性器なんだよ。花びらは濡れていた。幸村の掌は熱かった。

「部長見て見て!」

 広場で切原が呼ぶ。幸村が円を踏むようにゆっくりと坂を下るのを真田はただ見ていた。泥の着いた靴の上に赤い花の亡骸が横たわっている。

 切原は真田の姿を見つけると、幸村にチョークスリーパーをかけられたまま広場の銅像を指差した。幸村せんぱい。台座の上では二人の少女が向き合って両手を繋いでいる。柳せんぱい。笑う切原の頬を柳がつねった。柳は似てるけどねと幸村が言い、幸村の尻に柳の黒く光る革靴が乾いた靴痕をつけた。ユキもう離して! 二人の少女は花のようにスカートを広げまわる。くるくるとまわり続ける。すぐ傍にもう一人少女が、手持ち無沙汰にただ立っている。


(了)

那覇市にて。

2005年02月21日(月)

■ルドルフ寮見取り図■

ちょっとおおまかな図を引いてみました。
11巻か20.5巻がお手元にある方はどうぞご覧ください。
まず側面にある中二階・中三階と思しき高さの小窓はあそこに階段があることを意味しています。
まあ屋根裏は物置きでしょう。二階が各個室で単純な三分割と考えていかと思います。
良くわからないのはあの正面のベランダです。どこから出るの?窓?
いいえ。あれはパースが狂っててちょっとわかりにくいですが、書かれていない方の
側面にぐぐっと回り込んでいてそこに扉があるのです。
間取りはこんな感じ。

 

まず1階。赤い●印は例の公衆電話です。寮生はほとんどが携帯を持っていますが、テレフォンカードを割引価格で購入できます(転売すんなヨ!)
食事は基本的に定時に揃って食べます。部活生ばかりなので時間は遅めです。
ルドっ子のためのおいしい給食センターから配送されるメニューは学食やすぐ近くにある同学校寮の食事と共通です。
給食のおばちゃんがキッチンで温めたり仕上げを施してから出してくれます。
おばちゃんは近所のおばちゃんで、自分ちの夕食の支度をしてからやってきます。
ガスコンロ以外の設備は24時間いつでも利用可能ですが、深夜はうるさくならないよう気を付けましょう。

次に2階です。
気になる部屋割りですがまず柳沢は一階のいわゆる舎監室に一人で入っています。
親が一番金持ちでみんなの信頼の厚い生徒が入る名誉のお部屋です。
だーねって書いてあるところがそうです。他よりちょっと狭いかな。
さて、この寮の大きな特徴であるベランダからは、きれいな夕焼けを眺めることが出来ます。
つまり西向きってことです。一体何を考えて建てたんでしょうか。
こっち側の部屋の住人は休みだからといって昼まで寝てると西日でじりじり焼かれます。
この西側奥の角部屋203号室がゆーたと淳の部屋です。
最初の予定ではゆーたとノムタク先輩が同室でしたが、ノムタク先輩が一日に何度もゆーたを怒らせて大変うるさく命にも関わるので、
淳が「裕太オレと部屋替わろう」と親切に提案してくれました。
ところがそれまで淳と同室だった観月さんが大慌てで「僕が野村でいいです、仕方ないから我慢しますよ」と唐突に恩を売り付けてきて、
文句を言うと色々面倒臭いので、淳とノムタク先輩が部屋を入れ替わることになったのでした。
ゆーたは「オレ観月さんに嫌われてるのかな」とちょっとだけ落ち込んだそうです。
そんなわけで204号室には観月さんとノムタク先輩が住んでいます。意外とうまくやっているようです。

204号についてもう少し。
ここは南東向きでしかも唯一出窓がついている言語道断なゴージャス部屋です。
実は古い民家を改築したこのルドルフ寮(一号館/名称:ルプレヒト館)、
ついてるものをわざわざ外すこともないかーと言うことで残されたらしいのですが、
観月さんはあと三年は確実にここに住む気満々のようで、気に入って良かったですね。
部屋はコーナーのヨーロピアンな壁紙(アンティックショップで購入した一点もの/春休み中に自分で貼った)を始めとして
観月さんのエレガントな趣味に彩られ、悪意を感じる巨大なデスクトップパソコンその他の観月さんの私物で膨れ上がり、
不便は嫌だけど生活感溢れるのも嫌という主張から、わざわざ持ち込んだ電子レンジも
「使わせてあげます」の有り難い貼り紙付きで廊下に追いやられる始末です。
ちなみに二つあるはずの勉強机はノムタク先輩が入室した時にはすでに一つ撤去されていました。
(どこにあったかというと舎監室です。淳はお勉強は柳沢とします)
でも観月さん、お部屋パソコンを場所を取らないiMacG5に買い替えたり(愛機は部室持ち込み)、
威圧感あるから120センチ以上の家具は置かないというポリシーを押さえてノムタク先輩のハイシェルフ(しかもステンレス/忌むべき機能美)を
入れてあげたりして、あれで結構気を遣っているみたいですよ。

このページを作りはじめて5時間が経過しました。私はもしかしたら今日お仕事に行けたのではないでしょうか。

最後に書かれていない施設について。大きな浴場と洗面室、休憩室、ランドリールーム(乾燥室付き)が半地下階にあります。
この辺りの換気回りを整えるだけでも、改装より建て替えた方が安くて早かったんじゃねーのという声がありますが、
そこに使えるものを大事に使う慎ましやかな精神が表れているのです。新設校だと思って伝統のない成金学校とナメられないようにね!
シーツやバスタオルなどの大きな洗濯物は出しておけばやってくれます。ジャージやユニフォームは部室棟でも洗ってもらえます。
取れにくいシミがついちゃったら赤澤のお母さんに相談します。いずれも溜め込むと叱られるのでこまめにしましょう。
建前上パンツは自分で洗おうということになっていますが、自主的に制定されたパンツ当番があります。
お風呂の前に脱いだパンツと靴下をそれぞれ洗濯機にポンポン入れて、上がった後干すのが当番の仕事です。
観月さんは自分で洗うどころかマイ洗剤とマイ柔軟剤なので当番には参加しません。
どうやら観月さんにとってパンツと靴下は別々に洗うもののようです。


いかがでしたか。私はもう疲れました。

2005年02月19日(土)

村いじり。


■ガールフレンズ・フォーエバー■

 真田と柳には彼女がいます。

 あとハゲとデブにも彼女がいて仁王には年上の彼女が、柳生には年上の彼氏がいます。

 俺の恋人はテニスです。

 なんていうかまあ、二年の全国制覇の後に他の奴等はやたらモテだして試合のなかった準レギュの奴等まで告られたりして調子に乗って部室中のロッカーに女の写真が貼られはじめたわけなんですが、何故か俺のところにはピンクの封筒は届きませんでした。昼休みの度にわざとゆっくり弁当の準備をして女子が声を掛けやすいように気を配っていたのに、呼びに来るのは大概仁王か柳生で、俺はこいつらが大嫌いになりました。

 そんなつらい日々が続いて、バレンタインデーを迎えた俺はチョコレートを三つ貰いました。内訳は(真田の彼女・丸井の彼女・柳の彼女)でした。俺は思い余って美和子ちゃん(柳の彼女)に尋ねました。

「美和子ちゃん俺モテないんだ」
「えーそうなの?」
「うん‥‥全国の後も俺一人だけ告られなかったし‥‥」
「大丈夫だよう。せーちイイ奴じゃん」
「でも藤井(美和子)だって俺じゃなく柳に告っただろ」
「うんまあ」
「俺だって同じクラスだし全国も負けなしだったのに」
「うーんまあ」
「ねえ藤井なんで?」
「ハチマキがキモいから?」

 俺は心痛の余り発作を起こして倒れそのまま入院の運びとなりました。実を言うと俺は藤井をおっぱい大きくて可愛いなと同じクラスになった時からずっと思っていたのでいっそこのまま死んでしまいたいと思いました。

 俺は部の奴等を呪いました。考えてみれば初めからおかしかったのです。俺一人だけ彼女がいないにも関わらずあいつらは何かにつけて「幸村はモテるからなあ」と言ったり、判で押したように「幸村はかっこいい」「幸村は男前」「幸村ほどハチマキの似合う奴はいない」と俺を誉め讃えました。俺はいつしかそのような声に慣れすぎていたのです。疑うことを忘れてしまっていたのです。そう、全ては俺を陥れるためのあいつらの策略だったのに‥‥

 入院した俺は恥を忍んで柳に、藤井に言われたことを伝え真偽を問いました。だけど柳は遠い目をして「そうか、美和子がそんなことを言ったか」と微笑むだけでした。俺ははっとしました、策略‥‥参謀、そう、この恐ろしい計画はすべて柳の立案に基づくものだったのです。理由は簡単です。俺が藤井の巨乳をじっと見たり、ぶつかったふりしてわざと肘を押しつけバウンドする感触を楽しんだりしていたことにきっと柳は気付いていたのです。そうに違いない!柳、親友だと思っていたのに!

「ん、どうした?精市」
「精市などと気安く呼ばないでくれ!」
「なんだ突然。何かあったのか?」
「俺を裏切ったな‥‥」

 俺の叫び声を聞きつけて、見舞いに来たみんなが病室に飛び込んで来ました。そこには藤井美和子や、真田の超たるんだ彼女の顔もありました。俺は恥ずかしさに耐えきれずお布団に潜り込んでみんなに出て行ってくれと叫びました。十四歳の冬は最悪でした。えっと俺は三月うまれなんだけど実は子供のころ病弱で小学校一年生を二回やっているからみんなよりひとつ年上なんだよ☆


強制終了



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検査入院[作詞:幸村精市]

幸村くんのお見舞いはいつもにぎやかでいいねと
シャブ中みたいな■■■(ピーッ)った目の看護婦に言われたー
労働環境かなり劣悪
緑栄会柳生病院
ジャンプとエロ本買ってこい真田ー!
(てめえブレザー着て見舞い来んな使えねえ)
冷蔵庫勝手に開けんな仁王と丸井ー
あと勝手にバナナとかいろいろ入れて帰るな柳生ー
(お母さん来た時びっくりするからさあ)
退院したら覚えてろ おまえら皆殺し
素面と書いてまじ まじまじぶっ殺す
だってせんせいちょっと検査するだけって言ったじゃないですかあ
部室のロッカーで多分もうすぐカレーパン腐りかけー
オレのティーンエイジドリームも膨張・爆発寸前
看護婦みんな未亡人顔 赤也がはしゃいでなんか厭
平均年齢若干高め
内科が専門柳生病院
気晴らしにできるだけぐちゃぐちゃな感じに飛んでみてくれ‥‥
ホラ‥‥そこの窓から‥‥いい?いくよ?1.2...
あっ嘘です看護士さん!真田ももー冗談はやめてくれ!
本気なわけないじゃん!早く服着て近代麻雀買ってきて!
明日からまた投薬増えるー
点滴刺す奴どんどんへたになるー
売店のエロ雑誌、劇画ばっかで萎える
けど夕食の肉っぽい大豆加工食品は結構オレ、好きだな



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わざわざログ移動してまで保存するネタじゃなかった‥‥

2005年02月16日(水)

きを書いたよ。ぐぐいっとスクロールでどうぞ。


一週間って速い。
この一週間オタクらしいことを何一つできなかったのが悔しいです。
そしてその憂さをぶつけるかのように2月12日は由美エイコさんに遊んでもらいました。
始発まで。朝の五時まで。初対面なのに八時間も観月と桂と幸村の話題だけで。

※これはエイコさんと私が居酒屋で一晩中語り明かした物語のあらすじです。


[観月はじめをめぐる冒険]エイコさんと池袋記念

不二周助(1)は幼なじみの佐伯虎次郎(2)とつきあっていたがふられてしまう。
傷ついた心を癒すのに選んだのは傍にいて楽な、自分と良く似た千石清純(3)だった。
しかし清純は観月はじめ(4)に、まるで雷で搦め取られるかのように強く惹かれていく。

観月と清純はつきあいはじめるが、うまくはいかない。
安定を嫌う清純は幼なじみの亜久津仁(5)に手を出し、不安定に耐えられない観月は跡部景吾(6)に逃げ込む。
跡部は当時、元恋人の日吉若(7)と、跡部を想い続ける忍足侑士(8)との間の微妙な関係にあった。
その全てを手放して観月を受け止めようとするが、結局観月にとっては跡部は一時の慰めでしかなかった。

そんな観月を救ったのが仁王雅治(9)だった。
仁王との暮らしの中に今まで感じたことのなかった安らぎを覚える観月。
ある晴れた日曜、二人は芋煮会を開いてかつての友達を招待する。
二人なりのささやかな結婚披露宴のようなものだった。
すでに結婚し一女の父である赤澤(10)、婚約したばかりの不二裕太(11)は久しぶりに顔を合わせ、
昔では考えられない穏やかな観月の姿に安堵する。
一時仁王と恋人関係にあった柳生比呂士(12)も、その後少しの間つるんで別れた丸井ブン太(13)と共に出席。
ブラジルで家庭を持ったジャッカル(14)と、医者として多忙な日々を送る柳沢(15)へは後日その日の写真が送られた。

同じ頃、不二周助は絶交状態にあった親友の菊丸英二(16)と和解する。
清純を失った直後の不二は荒れた生活を送り、遂に菊丸と関係してしまった。
体を繋ぐことで最も大切なものを傷つけ、このままではだめだと悟った不二。
そして、躓いてつい他人に手を伸ばしてしまう弱さを、一人になることで少しずつ解決してきた。
裕太の結婚や、紆余曲折あった乾と手塚(17,18)が同棲を始めたことなどをきっかけにして、
前に進みはじめた不二を英二は見守った。

一緒に暮らしはじめた仁王と観月は、隣に住む鳳・宍戸のカップル(19,20)とダブル不倫に陥るが、
観月の仁王に対する信頼は揺らがなかった。
やがて鳳のベトナム転勤で二人が引っ越していき、観月はかつて逃げ出した故郷・山形へ帰る決心を固める。
そこには対決しなければならない事実があった。
十三才だった観月が、父の新しい恋人への反抗心から犯した過ち───
ただ一度関係を持った義母との間に生まれた、観月の実の息子。
観月は仁王に支えられながら、過去を許し許されるための努力をしていく。
観月はもう大丈夫だ‥‥そう感じる仁王の元に、幸村精市(21)が姿を現す。

真田弦一郎と柳蓮二(22,23)、幸村の三人は危ういバランスを保ちながら互いを支えあってきた。
しかし曖昧で複雑な関係に疲れた真田は、上司に持ちかけられた仕事上有利な結婚を選んでNYへ逃げ出す。
真田が柳を捨てたことに打ちのめされた幸村を連れて仁王は観月の前から消えた。
観月には家族と、取り戻した自分自身とが残された。

それから数年。
上海へ出張に来たブン太はその街で仁王と出会い驚く。
幸村を上海へ連れ出した仁王だが、あれから真田は職も信用も投げ打って柳の元へ戻り、それを知った幸村もまたあっさり帰国した。
傍に観月が居ないことを知ったブン太はとりあえず一発殴ってからジャッカル(リオデジャネイロ)に電話でチクる。
誰かの幸福を心から願える仁王の、己への執着の薄さが、ブン太にはただ歯痒かった。
そんな仁王が出会ったのが、魔都上海の夜を牛耳る若き女王・神楽だった。


(途中保存)

出会うはずのない二人が出会ったことで物語は更に加速し一気に終焉まで突き抜けます。
ほんともうあとちょっと。あとちょっとだけやらせて。
あのねえエイコさんは私がハイパーメガオタクみたいな言い方してるけど!
まず最初の四行を言い出した時点でエイコさんだって大分ハイパーメガマックス!オタクですからね。
芋煮会たのしみにしてます!



(追記)

で、神楽と仁王の隠し子を桂がさらって放浪の旅に出て最終的にその子を山形の山奥に捨てて一人南米に旅立って
高杉が山形に子供を探しにきたりもするけれど結局その子(女の子)と観月の息子が結ばれて
その孫あたりが仁王にそっくりで九十才になって天寿をまっとうする観月をその子が看取る。っていうね。
ネタみたいだけど真剣だったよ。サジュさんと朝まで徹夜で話した壮大な物語です。
観月を幸せにするために多くの少年達を不幸にし、ようやく見つけた仁王観月を崩すため今度は真田をNYに飛ばし、
トリシシをベトナムに飛ばし、ついにジャンルの壁を越え、私たちは始発を迎えました。


以上、エイコさんの日記から引用でした。

あのねー本当に真剣だったんだよ私たち。
「サエにふられてキヨにまで捨てられて不二はもうガタガタだよね」
「しかもあんな‥‥頭のあれな子(観月)に奪られて‥‥」
「あんなあれな子(観月)にね‥‥」
「うーん、ここでつきあうとしたらやっぱりもう英二しか居ないんじゃない?」
とか時には身悶えながらうだうだと、時にはデキる女の打ち合わせのようにきびきびと、ああだこうだと。
仁王があまりにも甲斐性がありすぎてどうやっても観月と別れないので段々憎たらしくなってくるし、
観月なんか『あいつ本当に本気で女の子だめだから‥‥!』(=ホモだから!)とか言われて
なんかもう私たちは観月を愛したいのか貶めたいのかわからない状態になりながら
とにかくあれだよ、ルドっ子に手を付けてないのがこの子のいいところっていうか
本当に本当にルドっ子たちが大好きなんだね、観月は‥‥!ってそんなオチでいいのか。


ではこのお話のデータです(数は確認済みのもの)

◎登場した人‥‥23人(+神楽と桂と高杉で総勢26人)
◎痴情のもつれた人‥‥17人(ルドっ子3人とジャッカル・乾塚を除く)
◎芋煮会に参加した人‥‥6人(赤澤・不二裕太・ブン太・比呂士・観月と仁王)
◎観月とヤッた人‥‥4人(清純・跡部・仁王・鳳)意外と少ない
◎家庭を持った人‥‥4人(赤澤・不二裕太・ジャッカル・真田)
◎家庭を破綻させた人‥‥1人(真田)
◎通過したカップル‥‥約15組(虎不二/千不二/千観/極悪/跡観/
若跡/忍跡忍/ニオヒロ/ブンヒロ/菊不二/乾塚/トリシシ/鳳観/ニオシシ/立海三馬鹿)
◎マンションを共同購入したカップル‥‥二組(鳳と宍戸・乾と手塚)

あー真田が際立つなあ‥‥輝いて見える‥‥
あとこうして見ると乾塚は完全に私が捩じ込んだだけで話には何ら関係ねえ。
結婚の確認ができなかった人も(ブンちゃんとか)その後してるかもしれないし、
まあ清純だけは最後まで独りだよね、みたいなことでエイコさんはキヨのことを
あんなに好きなくせに何てひどいことを言うんだろうと思いました!


長くなりましたが、一言にまとめると、とっても楽しかったのでエイコさんまた遊んでくださいということです。
いきなりメールフォームからお誘いしたのに快くつきあってくださって本当にありがとうございました!

2005年02月15日(火)

【花魁の央司で神関が食えるかの実験とまとめ】央司と神田

央司は吉原の遊女です。待って待ってとりあえず我慢しよう!
男芸者の子で幼くして売られた吉原生まれの吉原育ち、見目麗しく立ち居振る舞いも洗練され芸事何でも器用にこなし、
妓楼の秘蔵っ子として十六でデビューするや否や引く手数多の大人気であっという間に呼び出しの御身分までシンデレラ・ロード駆け昇ります。
一方神田は妓楼のしがない二階番見習い。惚れようが腫れようが花魁には指一本触れることの許されない身分です。

しかし央司にとっては神田こそただひとりと誓ったイロでした。
央司がはじめて振袖新造の赤振袖に袖を通した日、ほんの垣間にその姿を見た神田が呟いた一言、

「金魚みたい。」

その言葉が何故か忘れられず、大門まで客を見送っては楼に戻って嘔吐する毎日に、いつしかその記憶だけが心の支えとなっていました。
──吐いたあと、見られるのが嫌で自分で水に手を突っ込んで口を濯ぐ。
冷たい水に手を浸すと、耳の中で神田の声がする。
『金魚みたい』どうせ大した考えもなく、赤いから、とかいう理由で言ったんだろう。
だけど自分は金魚だ。吉原の水から上がることはできない。金魚鉢越しに世界の全てが歪んで見える。
あいつは、なんか堅そうっていうか、融通のきかなそうな感じだよなぁ。
金魚鉢に手ェ突っ込むようなこと思いつきもしないタイプだ多分。
‥‥金魚って別に、触れないもんじゃないんだけどな。

苦界十年、年季が明ければ、今の稼ぎなら央司は身綺麗に吉原を出られます。
幇間の子も遊女上がりなら身分は町人。でももし神田と所帯を持ったら卑しい吉原者に逆戻りです。
まして駆け落ちなど企てたところで上手くいって心中、捕まれば神田は殺され自分は死ぬよりひどい目に遭わされます。
それよりも俺はお大尽に身請けされていい暮らしをする。
しなければならない、という既に強迫と言える思い込みから央司はより上客を間夫にするために一層お仕事をがんばります。
そして遂に豪商の若旦那に見初められ、郭にありながら囲われるところまで来ました。
その日央司は、左手の中指の爪を剥いで、神田に投げ与えます。

「神ちゃん!」
 底抜けに明るく力強いその声が、太夫の口から発せられたということを理解するのにしばらく時間が掛かった。
 花魁は違う、もっと気取って話すもんだ。深遠で理知的でなきゃならん。あれじゃアホだ。
 てか神ちゃんって俺か。いつの間にそんな親しげに、つーか名前、なんで。
 我に返って辺りを見回した。こんなところ誰かに見られたら、できてると思われるかも知れない。
「よそみすんなよコラ」
 日に百両と言われる関に手を付けたとあってはクビどころか命の保証もない。蒼褪める神田を他所に、太夫はあくまで楽しげに笑って、指に摘んでいた物を投げて寄越した。
 中に何か包んで小さく畳まれた美しい千代紙だった。
「何でゴザイマスかこれは!」
 声を潜めつつ叫ぶということを器用にやりながら神田は紙を解く。指が震えているのに気付く。紙を開く。
「ファックユーって意味。」
 薄く白い貝殻の片割れようなものが一枚、静かに横たわっていた。

「金魚のうろこだよ」

その言葉を聞き、神田は十四の時に垣間見した振袖新造を思い出しました。
神田は央司があの赤振袖だということ、そして自分をずっと覚えていたのだということを知ります。

自分の爪を贈るのは遊女がまことを誓ったという証です。
神田も吉原の人間ですからそれが決して本気ではなく手練手管の一つだということも知っています。
しかし神田は客でもない、こんなことをしても一匁にもなりません。
こちらがすっかり忘れていたような言葉を覚えていて、どこかで名前を聞き知り、爪を剥いで与えた。
それ以来神田は央司のことを気にかけるようになります。

神ちゃんに告白して吹っ切れますますお仕事に打ち込む央司。
件の旦さんとも順調に運び、妾でなく妻として欲しいと言い出すのも時間の問題です。
神田にしてみればこっちが意識し出した途端掌を返されたようで面白くありません。
それに央司がまことを誓ったところで二人が結ばれることはやはり許されない。
特に好いているわけではないけれども、仮に好きになったとしても一緒になるのは絶望的です。
掟破りへの吉原の恐ろしい報復。地味で救われないながら一応安定した自分の生涯。
それらに縛られている自分に央司の所為で無理矢理向き合わされてフラストレーションを溜め込む神田。
擦れ違い様に央司の項にキスマークを見つけカッとなりますが、騒ぎにする甲斐性もなく「浮かれてんじゃねーよ」と小さな声で詰るのが精一杯でした。

しかしそれを聞いた央司の中で、吉原に身を沈めてからずっと燻っていた火種が弾けました。

「神ちゃん逃げよう。俺と逃げて神田」
「馬鹿じゃねーのお前、殺されるよ?」
「イヤ俺殺されねーし。花魁だから」
「だから俺が殺されるっつってんだよ」
「いいじゃん何かかっこいいよそういうの」
「おま」

「俺神ちゃん大好き。だから俺への愛の為に死んで」




====== 実 験 終 了 ======

〜この話の萌えるところ〜
・神田が忘れていたどうでもよいことを央司がいつまでも大事に覚えている点
・ゲロ吐きながらも神ちゃんを支えにして打算的に明るく頑張る央司
・自分の甲斐性の無さに鬱々としその原因たる央司に憎しみを覚える神田
・そういうわけで神田は央司を好きでもなんでもないのに駆け落ちを強要する央司
・自分の人生強制終了に神田を当然のようにつきあわせる央司(つきあわされる神田)
・「央司が神田大好き」と「神田が央司大好き」の区別がつかない央司


多分神ちゃんは央司に脅迫されて駆け落ちを一度は了承するも、
別の遊女の駆け落ちの日とわざとだぶらせて、しかもそっちを妓楼に垂れ込むんだと思う。
来ない神田を待つ央司の目の前で、駆け落ちを阻まれ男と引き離され手酷く折檻される遊女。呆然と見つめる央司。
あっだめだ‥‥この流れだと唯一心の拠り所にしていた神田に拒絶された央司は川に身を投げてしまう‥‥
そこへ神ちゃんが現れて死ぬなよ後味悪りぃから!とか逆切れして助けてくれて、

「神ちゃんは俺なんか知らないって、はじめから知ってたんだ」
「でも神ちゃんがいたから生きてこれたよ」
「だから神ちゃんにソレ、知って欲しかった」

神田は捨てられずに持ってた央司の生爪を出して見せて央司は花が綻ぶように笑ったあと何事も無かったかのように妓楼へ帰っていくよ。
結局なにもできなかった自分に神田は絶望してますます央司が憎くなるんだけどその憎しみこそ愛なんだって神田は気付いている。
だって央司にとっては神田の愛情も神田の憎しみも同じ意味を持っていて、今でもそれだけが央司を生かしているのだから。


〜補足〜
・自分に絶望するのに比例して央司を憎らしく思うぐずぐずな神田萌え
・結果的に自分の精神安定のために神田の葛藤を踏み台にした央司萌え
・央司が自分の不幸を神田の不幸にすり替えて終わる/テンプレ名『不幸の転嫁』萌え


吉原パラレルはZET・TAIに通常のハッピーエンドへは辿り着けない畜生道です。
私が三種の神器(不幸の転嫁/欠損と補填の予定調和/絶望というゴムの壁)を愛するが故の地獄坂です。

2005年02月03日(木)

■キス オブ マイ プリンス■


 データが好きなのは裏切るからだ。データが好きなのは、それが生きているからだ。データは嘘はつかない。でもたまに裏切る。人を出し抜く。手塚は少しも下がっていない眼鏡を上げながら「わかっている」と答えた。

「つまり半歩左に落ちる弾みのやや軽い球を拾う時に、相手に前に出られるのを嫌う、」

 喋る速さにあわせてシャーペンがざくざくと雑な図を描く。こうして見ると手塚は喋るのが速い。印象と事実は違う、と乾は思う。

「それでショットの精度が下がる。お前がこう」

 こう、という声とともに引かれた矢印は初め強くあとでゆるやかにカーブして、大雑把なくせにやけにきちんと四角いコートの隅を指した。その軌道を『あ、可愛い』と思った。声も可愛かった。消して何回も書き直させたい。

「狙う確率が‥‥」
「67%」
「で、その球がこう」

 また引く。

「流れる確率が」
「80%です。では全体では?」
「‥‥約55%」
「約か。手塚らしくないね」
「話が逸れる。少し黙っていろ」

 二本の矢印の起点をぐりぐりと塗りつぶした。その点が自分を意味していることを思い出して乾は手塚を見た。わざとなのかどうか、手塚はじっとその目を見返すだけだった。

 手塚は本当はやる気のない生徒会長だ。今日も、テスト期間は部活が出来ないにも関わらず生徒会だといえば居残りが許可されることに、密かに腹を立てている。要もなく生徒会室にだらだら残っているのは腹いせの気持ちがあるのか。

「だから言いたいのは俺がそれを読んで一歩前に出たとして、このリターンを期待して若干ラケットを立てた時に、お前がこっちにこうかこぉ‥‥打つだろ、」
「打ちましょう」
「煩い。そうしたらその時お前は」

『ハズレ』

「と言う。だが俺があえて55%を捨ててお前がスライスで来る方に賭けてやっぱりこう打たれた場合も、」

『ハズレ』

「だ」
「つまり?」
「確率じゃない。俺がそれを踏まえてどちらに賭けるかだ」

 最後にその、確率の低いスライスの着地エリアをぐるぐると囲って、手塚はペンを置いた。

 発行日が昨年になっている保護者各位へのお知らせのプリントの裏が手塚の痕跡で埋まる。乾は不意に胸が詰まるのを感じて、その理由を考えたら簡単なことだったので少し笑った。

 おれたちはもうすぐ三年生になる。来年の今頃は、きっと違う話をしている。

「‥‥いぬい?」
「平気だよ。俺は手塚がどっちに賭けるかも判ってるから」

 手塚がかすかに目を眇める。

「今お前が自分で言ったよ。スライス。俺のデータではここでスライスを出す確率は一割に満たないけどそれでも手塚がスライスに賭けて若干左に加重しておく確率は」
「違う」
「いいや違わないね。確率は実に98%」
「そうじゃない。お前がいま考えたこと、」

 戦闘機の過ぎる音が静かすぎる放課後を制圧した。耳障りなエンジン音ではない。静かに忍び寄り圧倒的なまでに大きく膨れ上がる、空を裂く音だ。

 手塚は言葉を切って左手を乾の頬の側へ持っていった。そして触れないで、今度は身を乗り出して唇に唇を近付けた。

 息が当たる。戦闘機の銀色の影が鉄筋コンクリートの校舎の外骨格を透かして乾と手塚の上を塗りつぶし、そして行ってしまう。手塚は恐る恐る椅子に体を戻した。青空には傷一つ残らない。

「俺の考えたことが何?」

 手塚の左手は、手塚自身の首筋に置かれ、襟足の髪を少し引っ張った。

「矛盾している」

 眉間に刻んだ皺を見て、手塚ってこんなに厭そうな顔ができたんだなあと乾は思った。少し悲しい気もするのに笑ってしまった。手塚はますます厭そうな目をして頭を左に傾けた。

 例えば手塚の身長を計る。今月と先月とでは違う。そう言ったら手塚は『俺はもうそんなに背は伸びていない』と言うんだろうけどそうじゃない。データは日々更新されていく。更新の履歴すら蓄積されて更新されていく。それは生きている。

 来年の今頃はおれたちはここにはいない。テニスの話をしていたとしても、それはもう中学の全国制覇ではないし、手塚も青学の男テニ部長の手塚国光ではない。

 止まってしまうことは寂しい。だが置いてきた場所のことを考えても寂しい。手塚だってさっきキスするのもしないのももったいなくて結局なんにもできなかったくせに、どちらも寂しいと思っている乾を見て厭な顔をする。

「平気だよ。矛盾なんか怖くない」

 そして笑った。手塚の視線が泳ぐのが堪らなく可笑しかった。手塚はまた下がっていない眼鏡を上げようとし、乾はその手を掴んだ。それから、乾はどうやってキスをしようか考え、手塚はその仕方を覚えようとじっと目を開いていた。


(了)




だからテニスの話をしている乾と手塚がすきっていう‥‥ごめんなさい‥‥
どんなに泥沼の愛憎図を繰り広げようがどんなにえげつないセックスをしていようが普通の時に普通にテニスの話をする、そういう乾と手塚がすき。

2005年02月02日(水)

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