2002年06月27日(木) It comes with the territory. この仕事には付き物よ。
お知らせ
☞ 7月14日に東京の市谷アルカディアで講演会があります。詳しくはDHC法人課へ。
☞ 7月27日に愛知大学三好校舎で講演をします。大学を目指す高校生を対象としたものです。(29日とあるのは27日の間違いです。悪しからず。)

『スパイダー・マン』を見た。
漫画ではSpideyという愛称もある。スーパーヒーローには珍しい。

BatmanをBattyとは言わないし、Supieはスーパーマンに悪い。

スパイダーマンはあの格好で冷蔵庫を開けたりするが、映画がそうした原作の日常性と非日常性の奇妙なつむぎ具合をよく生かしてあるのは成功。
スーパーマンのように色々な力はないし、バットマンのように様々な機器も持たない。
ただ、手から強力なspider silk(蜘蛛の糸)が出てどこにでもぶら下がることができる。それと力はものすごい。
一緒に行った娘と同級生2人は、帰りの電車のつり革にぶら下がって遊んでおりました。

Spider-Manと綴る。ハイフンは蜘蛛の糸かというとそうでもない。
原作者が創案したとき、すでにSupermanが人気で、Spidermanと表記すると大変まぎらわしい。そこでSpiderハイフンManとしたとのこと。(以下のサイトの以下の部分より)
この件はSpider-Man hyphenなどと書き込んで検索すると結構出てきます。
さすがWebsiteなどというだけのことはある(強い洒落の意図あり)。

Spider-Man has to have one of the most misspelt names in all of comics. It's "Spider-Man." Spider-hyphen-Man. Not "Spiderman." When Stan Lee created this Webslinger, there was already a pretty famous "S" man in comics, also making his way above a city skyline in red and blue. To help differentiate between Spidey and the Man of Steel, Stan added a hyphen to his name to break up the shape of the word. So, "Spider-Man."
(http://www.epinions.com/content_54467137156参照)

なんといっても、悪役のウィレム・ダフォーのAh-ha-ha-ha-ha!の笑い声が一番印象深かった(映画史に残るべき文字通り「痛快」な悪の笑いである)。彼は『イングリッシュ・ペイシェント』に勝るとも劣らぬ激しさを感じさせて素晴らしいし、彼が部屋で「独り言」をいっているようなところなど、実にこっけいで怖かったのである。ダフォーはダフォース(the force)がある。(この言葉遊びについては無視してよいが、the Forceについてはこのページの最下部のINDEXをクリックし、リストの1月最初の項目を参照)

2番目に印象に残ったのは、物語中繰り返され、主人公がこだわる正義のセリフ(最後の場面にもかぶさる)。

With great power comes great responsibility.(大きな力には大きな責任がついてまわる)

最後にスパイダーマンが国旗のポールに直角に立って終わるとき、またこの言葉が響く。
powerには列強という意味もあり、対テロ戦争を宣言しているアメリカのハリウッド経由のメッセージともとれる。

それにあのように、フィナーレとばかりに、ひょいひょいビルの谷間をCGのグレート・パワーで蜘蛛っとびされたら、高所に弱いぼくなど目が回りそうになるわけで、早くどっかに着地したくなるではありませんか。そんなとき、ちらりきっちり星条旗を持ってくるところが、ま、ハリウッド的奥ゆかしさ。

一句: 確実に なにげに見せる プロの腕

サム・ライミ監督もメジャーになったなあ。

さて上のメッセージを普通の組み立てにすると、

Great responsibility comes with great power.

となります。

 X comes with Y.

ですが、意味は、XはYといっしょに来る、つまり、XはYに付いている、YはX付きである、ということ。

 これ、次のように日常会話によく使われます。たとえば景品、おまけ、

 A: What's this little toy door?
 B: It's Dokodemo Door. It comes with a Doraemon doll.
 A:このドアのおもちゃは?
 B:どこでもドアよ。ドラえもん人形に付いてくるの。

 ほんとのドアならなお良い。

Dokodemo Doorは頭韻を踏んでいる。ホンヤクコンニャクは脚韻である。Hmmmm.
人気の秘密はこのあたりにもある。さて、

It comes with the territory.

という決まり文句もあります。

「その領地にそれは付き物だ」・・・。

territoryは「領地、領土、国土、米国の準州」などの意味があるが、さらに「土地、地域」、そして「分野、領域」と意味は広がる。

国連のアナン事務総長は、「抑留または行方不明職員との連帯に関する国際デー(International Day of Solidarity with Detained and Missing Staff Members)」の3月25日、亡くなった国連スタッフと米国のダニエル・パール氏を追悼し、

Risk comes with the territory, but greater protection is possible.

これは、「この仕事にはリスクが付き物だが、もっとしっかりした対策はできる」ということ。

the territoryは、アフガニスタンとその周辺の意味にもとれる。

仕事の分野・領域をthe territoryと呼ぶのは、それが手ごわいものであるという印象を伝えたいからだろうし、ではあるがそれがその人のものになっているのだということを言いたいという気持ちもあるだろう。

 It's outside my territory.(それは分野違いです)

などと言うこともある。

 Well, Sakura, it comes with the territory.

「桜よう、そういうこたあ、俺の仕事には付き物よ」となると寅さん。



2002年06月25日(火) Dear Anne Landers アン・ランダース様へ

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☞7月14日に東京の市谷アルカディアで講演会があります。詳しくはDHC法人課へ
☞7月29日に愛知大学三好校舎で講演をします。大学を目指す高校生を対象としたものです。

アン・ランダースが亡くなった。
アメリカの女性で、ちっとも威張らない人生相談の大家(オオヤじゃなくタイカだが、何でも知ってるおおやさんのようなところもある女性)だった。
配給企業(シンジケート)を使い世界の新聞に連載されていた。

60年代の半ば、大学生になったぼくは、金があると英字新聞を買ったが、その当時も載っていた。Dear Anne Landersで始まる相談また相談。
世界の殺戮と政治の駆け引きとマネーゲームと天災のニュースのページに入らず、つけたし(と当時のぼくは思っていた)のように写真と、日々のプロブレムと、アンサーが載っていた。
シェークスピアが、英米現代演劇がどうのこうのといっていた僕には、人生相談なんかどうでもいいという顔でありました。
彼女が賢いと思い出したのは最近であるのがくやしい。

A: 結婚式に呼ばれたが、その人の3度目の式なので行きたくない、プレゼントもしたくない、何とかならないか。イリノイの迷える女
B: イリノイの迷える女様。一応行ってみなさい。華美なものはあげなくていい。It's the thought that counts.(気持ちが大切)というでしょう。お祝いの言葉くらいかけてあげなさい。

ああ、孤独になっていく人に、こうして誰でもできそうなアドバイスを、しっかりとしてくれる。シェイクスピアを読むより貴いものではなかったか。

それのみか、自分の観念で作り上げてしまったアメリカ像を、ほれ、こっちの角度からごらんよ、とあっさり提示してくれるアンさんであった。

今日昼飯時、USA TODAYを読んでいたら見つけた死亡記事でした。
同記事によると、決まり文句の、

Wake up and smell the coffee.

は彼女の作った表現だそうだ。

「目を覚ましてコーヒーの匂いを嗅いで」とは、「目を見開いて現実をしっかり見ないと」という意味で、ときに映画の悪役が、何が起こったかよくわからない善人に向かって、「夢見てるんじゃねえぞ」的凄みを持ってこのコーヒー入りの慣用表現を使うことまである。安岡力也的定番表現と密かに思うこともあったのだが。

しかしアン・ランダースが言った言葉であるのなら、「はい目を開ける。コーヒーしっかり飲んで、しっかり一日スタートせい」という、思いやりの気持ちがどこかに入っているに違いない。

ま、イリノイの女も、安岡力也も、ぼくも、アンさんにしても、人生、おっそろしい夢を見る夜もあるだろうし、あったのだろうけど。でも、朝目を覚まし、淹れたてのコーヒーの匂いに元気が出ることもあるし、朝茶は3里戻っても飲めとも言うああ日本茶のほのかな香りを一杯に感じ、元気を出すこともある。

これからしばらく、朝はアンさんを思い出すことになるだろうなあ。

アンさん、天国は相談がないだろうからつまらないでしょうね。文化面、人間面で、いろいろご教示ありがとうございました。

Dear Anne Landers,
It must be boring up there since no one is supposed to have a problem. Well, take a break, rest in peace and come back some time with a new column.    ---- Your secret admirer




2002年06月14日(金) Spam mail & Spam musubi スパムメールとスパム結び

<今回はKENNISMS初の画像付きです!>

PCや携帯を騒がす迷惑メールはスパムメールというらしい。
食品のSpamのちいさなファンとしては命名が残念。
meiwaku mailのほうがよいのに。
頭韻も見事に踏んでいるし。

Spamは、Spiced Ham(スパイスで味付けしたハム)の、頭SPと最後AMをとって命名されたアメリカHormel社の缶詰食品。第2次世界大戦で世界に派兵された米兵に支給された。

太っ腹のアメリカはこれを連合軍の兵士にも配給。赤黄青の目もさめるような発色の缶が常食となる。戦後も、勝利の食品とでもいおうか、その安さ、そしてサバイバルの信頼感から、スポック博士の新育児法やありとあらゆる消費文化の開花と能率化の波の中で大忙しの主婦が、この面倒のないSPAMをいろいろな料理に使ったという。そのせいか、

I grew up with Spam.(スパムで育った)

と顔をしかめ、声を低めにして言う人も多い。

少年時代の日水やマルハのソーセージみたいなものか。赤胴鈴之助か、それと同じくらいのヒーローステイタスの誰かが勧めていた。我が家のスパゲッティーにも入っていた、たまねぎとケチャップとともに。いまでもあの匂いがスナックの換気扇から流れてくるとランボーのように飛び込みたくなるなあ。

話は変わって第2次大戦、ドイツ軍の空襲下の英国。そこに駐屯した米軍経由で、英国内にも多量のSPAMが流れたに違いない。60年代に、アクセントをBBCやシェイクスピア風に作らない(作れない?)、ワーキングクラスの美男不良として型破りのデビューを果たした英国俳優マイケル・ケインは、「国際諜報局」で、Hello.ではなく、なんとHi.と挨拶する英国スパイを演じたけれど、少年時代、アメリカ軍の物資をもらい、感謝していると、自伝でコメントあり。

「スパムメール」に戻ると、これは英国の奇才喜劇集団モンティー・パイソンの70年代にはやったスキットから来ているらしい。

簡単にいうと、客が店に入り朝食のメニューを尋ねると、ウエイトレスが、Ham and eggs, ham and Spam and eggs, ham and Spam and Spam and tomato and Spam and eggs,などなど全品にSpamを付けて勧め、バックでバイキングのコーラスがSpam, Spam, Spam...!と合唱して、客にSpamを押し付けるというもの。

米国に救われた英国国民の戦後のわだかまりを、米国産のSPAMを使ってハチャメチャなコントにして笑ったかどうかは解釈次第だけれど(英国の祖のメンバーでもあるバイキングに米国製品を“プロモート”させるのは実に自虐的でおかしい)。

とにかく誰かがこのシーンを思い出して、頼みもしないのに勝手に入り込んで商品などを押し付けるメールを、SPAM mailと読んだらしく、迷惑メーラーをspammerと呼ぶこともあるという。Hormel社はまさにいい迷惑であるらしい。

さてその食べるほうのスパムですが。はじめて意識して食べたのはハワイです。

こともあろうに、別名Aloha Stateのハワイは、スパム全生産量の4割!!を消費するSPAM Stateでもあるので、それは自然なことだったのです。

ハワイでのSpamの食べ方はいろいろあれど、なんといってもSpam musubi(スパム結び)が横綱。

Spam musubi – It is a slice of Spam on top of sushi rice wrapped with a strip of toasted nori.

上がスパム結びの説明になるでしょう。「スパムのスライスを寿司飯に乗せ焼き海苔で巻いたもの」。

これが日本のオフィス街で売られているという情報を、昔の英語劇の学友小野寺さんから頂いたのはついこのあいだ。
東京麹町の店で購入したものの画像を送ってくれたので、ここにアップします。
(この手の結びを食べたことのある方はデータをお送りください。善処いたします)

まず横から高さと幅。横にマウスを置いての心尽くしの画像。




次に上から奥行きと価格。その横にいただきマウス。(座布団?)




そしてクロースアップ・ショット。




SPAMというアメリカの缶詰のハムと、極東サンドイッチともいうべきおにぎりとが、英語式に言えば

It's a marriage between East and West.

ということです。とはいえさすが日本。さっそくハワイとの差異化をはかり、スパムの下に卵焼きと漬物を入れたのがこれ、「スペシャルスパム」。そのほか、レギュラーの「スパムむすび」、「極辛スパム」の3種類があるそうです。(O氏レポートより) ちなみにレギュラーはスパムだけで200円。

この太平洋の真ん中に存在するめでたい文化的融合の具現化を、日米両側ともすこしも注目しないので、ハワイ好きのぼくが祝福することにしました。

ハワイ好き?! その心は? 
それは、日系アメリカ人が独自の世界を(どこでもそうでしょうが)築いているところだから。すこしずつ様子もわかってきているので、これからときどきハワイレポートをしようと思っています。請うご期待。

さて、スパム結びを作るには、musubi makerとかmusubi pressとか呼ばれるプラスチックの長四角の箱が必要。それがないと、長四角の形に当然のことながらなりません。現地では市販されていますが、そこまでせず適当に四角にしてもいいわけです。

とにかくなんともハワイらしいローカルさと低価格さが特長。ハワイ庶民のフォアグラ。軽い昼食、スナック。GSにも売っている。

下のサイトでは、英語で作り方の説明、次にハワイのピジン・イングリッシュでの説明、そしてSPAMへ捧げる英文俳句がずらりと載っています。

http://www.brown.edu/Students/Brown_Hawaii_Club/About_Hawaii/spam.html/

その中の一句紹介。

In the cool morning
I fry up a slab of Spam
A dog barks next door

涼しい朝 スパムを焼けば (隣りの)犬がなく
と、まあ、柿喰えば 鐘が鳴るなり 法隆寺
的な境地。
世界にはhaikuとイタリックで表し格好のみをつけ、あとは3行詩にして俳句らしく見せながら、5−7−5の音節(syllables)は完全に無視して作られるものが意外に多いのですが、これは音節コンシャスであるところ立派。

季語?
雨季乾季はあるが、冬と夏はそう変わらないので、季節はひとつ、そして季節中おいしいSPAMが季語でしょうか!

Too far east is west.(東へ行き過ぎると西)

だったか、その反対だったか、「過ぎたるは及ばざるがごとし」と似たことわざがあります。

Oh, East is East and West is West, and never the twain shall meet.(ああ東は東、西は西。両端の会うことあるまじき)

という格言もなかなか説得力があるけれど、Spam musubiは日米がハワイで静かに会ったもので日本でも食されているということです。

もちろんSpamを知る人の中には、Yuk!(オエー!)と声を大にして言う人も多くいるけれど、ぼくとしては、この東西の結びつきを、なんとも可愛いと思っております。


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