今日の日経を題材に法律問題をコメント

2015年03月31日(火) 未上場株式の株価算定

 日経(H27.3.31)社会面で、非上場会社のM&Aの際、非公開株式であることを理由に株価を低く見積もることが認められるかが争われた事件で、最高裁は、将来の収益などを基に計算する「収益還元法」を使う場合には、非公開株式だからといって減価は認められないとする決定をしたという記事が載っていた。


 収益還元法の場合には、将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元してた現在の株式価格を算定する方法である。


 それゆえ、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。


 そうすると、その会社が公開されているかどうかは株価算定に関係がないことになる。


 その意味で、最高裁の判断は筋が通っている。


 しかし、実際は収益還元法で算定した価格で株式が売れることはない。


 一審、二審は、収益還元法で算定した株式価格から25%株価を減価したのであるが、それは現実感覚としては不自然ではないように思う。


 ただ、最高裁は、そういう株価の減価は理論な説明がつかないと考えたのであろう。


 しかし現実的な感覚として、最高裁の判断と、一、二審の判断といずれが実際的なのかは一概には言えないように思うのだが。



2015年03月30日(月) 法医不足が深刻

 日経(H27.3.30夕刊で、犯罪の疑いのある遺体を調べる司法解剖を担う法医不足が深刻化しているという記事が載っていた。


 20県で司法解剖の担当医が1人しかいないそうである。


 司法修習生時代に法医による司法解剖に立ち会ったことがあるが、病気を治すわけではなく、その仕事の内容からして、なり手は少ないだろうなと思った記憶がある。


 今後ますます法医不足が深刻になるであろうから、法医を希望する学生が増えるように、地位向上を図ることが不可欠ではないかと思う。



2015年03月27日(金) 球場でファウルボールが当たって失明した女性に損害賠償命令

 日経(H27.3.27)社会面で、札幌ドームの内野席でプロ野球観戦中にファウルボールが当たって右目を失明した30代女性が日本ハムなどに損害賠償を求めた訴訟で、札幌地裁は、球団などに約4190万円の支払いを命じたと報じていた。


 球場では大型ビジョンなどで注意喚起していたが、裁判所は、それでは不十分と判断したものである。


 アメリカでは、リスク承知で観戦しているとされて、このような場合の損害賠償請求はほとんど認められないという記事を見たことがある。


 しかし、注意していてもライナー性のファールボールを避けるのは困難な場合にもあるから、防護ネットなどの安全対策は不可欠であり、日本では、アメリカのような判断にはならないだろう。



2015年03月26日(木) 事後型の金銭解決制度の導入

 日経(H27.3.26)3面で、政府の規制改革会議は、裁判で解雇無効と判断された場合に、その後、金銭補償で解決する制度の導入をめざす意見書をまとめたと報じていた。


 意見書の案は、金銭を支払えば解雇できるというものではなく、裁判で解雇無効となった場合に、金銭補償で解決しようとするものである。


 しかも、その制度は労働者から申し立てがある場合だけに適用される。


 そのような制度であれば、労働者側にとってもとくに不都合はないように思われる。



2015年03月25日(水) 三重県の中三女生徒死亡事件の判決

日経(H27.3.25)社会面で、三重県で2013年8月、中学3年の女子生徒を窒息死させたなどとして、強制わいせつ致死と窃盗罪で起訴された少年の裁判員裁判で、津地裁は懲役5年以上9年以下の不定期刑(求刑懲役5年以上10年以下)を言い渡したと報じていた。


 犯行は悪質であり、また、少年の反省は十分ではないようである。


 それゆえ、「懲役5年以上9年以下」という判決は軽すぎるようにも思える。


 ただ、この事件は、強制わいせつ致死であって、殺人罪では起訴されていない。


 しかも、犯行当時の少年法では、懲役5年以上10年以下が有期刑の上限であった。


 そうすると、懲役5年以上9年以下という判決はやむを得ないかも知れない。



2015年03月23日(月) 違憲判決の効力

 日経(H27.3.23)40面で、弁護士グループが、一票の格差をなくす意見広告を出していた。


 その意見広告の中で、「最高裁が『憲法は、人口比例選挙を要求している』旨の判決を出せば、国会は憲法99条により、人口比例選挙の立法を行うよう義務付けられている」としていた。


 もちろんそのような見解もあり得る。


 たた、それは違憲判決が当該事案に関する効力だけでなく、一般的な効力を認めることになるため、かなり少数説ではないだろうか。


 これまで最高裁が違憲である旨の判決をした場合、国会は、その判断を尊重しつつも、自らの判断で法律を改正したという形を取っていたと思うのだが。



2015年03月20日(金) 一票の格差訴訟で東京高裁が合憲

 日経(H27.3.20)2面で、「1票の格差」が最大2.13倍だった昨年12月の衆院選は違憲だとして選挙の無効を求めた訴訟で、東京高裁は、「合憲」の判決を言い渡したと報じていた。


 高裁の裁判官は3人であるが、裁判長は、地方裁判所の所長を経験するなど相当経歴を積んだ偉い人である。


 それゆえ、判決に際して裁判官同士の白熱した討議というのはなく、その裁判長の考え方で結論は決まってしまう。


 とくに、一票の格差訴訟のような価値判断が大きく影響する事件ではそれが言える。


 東京高裁は「合憲」と判断したが、それはその裁判長が、立法裁量を広く認める考え方の裁判官だったからであろう。


 裁判官の考え方はいろいろであるから、そのような判決が出ることもある。


 ただ、大きな流れから言えば、それは少数派の意見ではないかと思う。



2015年03月18日(水)

 日経(H27.3.18)23面で、相続税は、2回目の相続を見据えて対策すべきという特集記事が載っていた。


 記事では、80歳の父の遺産は、時価6000万円の不動産と預金3000万円、相続人は、母と、兄弟2人という例で解説していた。


 遺産をすべて母が引き継ぐ場合には配偶者特例が使えて税金はゼロであるが、母の死亡の際に相続税が課税されるので、それは望ましくないとしていた。


 ここまでは問題ない。


 さらに記事では、同時に「公平に財産を分けることも大切」として、母と兄が不動産を半分ずつ取得し、弟は預金全額3000万円を受け取るのが望ましいとしていた。


 確かに、不動産の価値が6000万円であれば、兄弟は3000万円ずつ取得することになるので、数字的には平等である。


 しかし、今後、一部の地域を除き、不動産価格の上昇は期待できない。


 それだけに、持ち分2分の1の不動産だけで、現金をまったく取得できない兄にはかなり不満が残るはずである。


 結局、解説記事は、金額の話だけに拘泥し、実際の当事者の気持ちを配慮していないという意味で、遺産分割案としては現実的なものではないと思う。


 では、どのような分け方がいいのかというと、正解はない。


 遺産分割というのは、必ずだれかに不満が残るものだからである。



2015年03月17日(火) 捜索差押令状を請求したことが違法

 日経(H27.3.17)社会面で、刑事裁判の公判中に否認に転じた男性の拘置所の居室を大阪地検が捜索し、弁護人に宛てた手紙などを押収したことについて、大阪地裁は、「捜索と差し押さえは必要がなく違法」として、男性と国選弁護人に計110万円を支払うよう国に命じたという記事が載っていた。


 捜索差押令状で認められた範囲を超えて捜索差押さえをしたとして違法と判断されることはこれまでにもあった。


 記事の事件でも、「捜索差押令状を請求したことは問題ないが、弁護士に宛てた手紙まで押収したことは違法である」という判断もあり得たかもしれない。


 ところが、裁判所は、捜索差押令状を請求したこと自体を違法とした。


 相当踏み込んだ判断であるが、それだけに高裁でひっくり返る気もする。



2015年03月16日(月) 特許訴訟の実質的勝利卒は約4割

 日経(H27.3.16)法務面で、知財高裁所長が、日本の特許訴訟において、和解を含んだ原告の実質的勝訴率が約4割であると述べたという記事が載っていた。


 原告勝訴率は判決のみで計算すると約25%に過ぎず、米国やドイツの4〜6割程度と比べて低いことが指摘されてきたが、それに反論した形である。



 勝訴率に勝訴的な和解を加えることに何ら問題はない。


 その場合の勝訴率が約4割と、意外と勝訴率が高いことに驚いた。



2015年03月13日(金) 日本でも司法取引を導入

 日経(H27.3.11)夕刊で、政府は、他人の罪を明かせば見返りに刑事処分が軽くなる「司法取引」の新設などの刑事関連法制の改正案を閣議決定し、今国会での成立を目指すと報じていた。


 採用される司法取引は、被疑者や被告が他人の犯罪を明かせば、検察が起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりできるものである。


 他人の罪を明かせば起訴が見送られるということは、わが国の風土となじまないと言われていた。


 また、無実の者を巻き込む危険がある。


 それだけに司法取引には慎重な運用が必要であると思う。



2015年03月11日(水) 被害者との交渉のあり方

 日経でなく、朝日(H27.3.11)社会面で、刑事事件の被害者に被害届の取り下げを迫ったとして、弁護士が強要未遂と証人威迫の疑いで逮捕されたと報じていた。


 この弁護士は、「大勢の傍聴人の前で愉快ではないエピソードがさらされることを避けるため、被害届の取り下げを検討されますように」との封書を送っている。


 他にも、匿名のハガキで被害者に「お前は公開の法廷で証言させられる。何もいいことはない」とのはがきを送った疑いがあるとのことである。


 仮に、匿名のハガキはその弁護士は送っておらず、送ったのは先の封書だけであれば、逮捕される事案ではないと思う。


 しかし、たとえ刑事事件にならないとしても、その弁護士が書いた封書の内容は、被害者に対する交渉の仕方としてはまったく間違っている。


 確かに、刑事事件であっても、被害者にも落ち度があることもあるし、容疑者にも何らかも言い分があることもある。(記事の事件がそうであるという意味ではない)


 しかし、示談交渉で、被害者の落ち度を指摘したり、何らかの言い訳めいたことを言った場合、絶対に交渉はまとまらない。


 これは基本的な交渉術であり、弁護士の資質にかかわる問題であろう。


 逮捕された弁護士は経験が浅いのかと思って年齢を見たら、53歳という中堅の弁護士だった。情けないことである。



2015年03月09日(月) 富山地裁が、国賠訴訟で捜査の違法を認める

 日経(H27.3.9)夕刊で、富山県氷見市で2002年に起きた強姦事件で再審無罪となった男性が、違法な捜査で逮捕、起訴され、約2年間服役を強いられたとして、国や県に約1億円の損害賠償を求めた訴訟で、富山地裁は、県に約1966万円を支払うよう命じたと報じていた。


 捜査が違法であるとして国や県に請求する国賠訴訟では、裁判所はなかなか請求を認めない。


 弁護団によると、再審無罪事件で国家賠償を命じた判決は過去に2件あるが、いずれも控訴審で覆っているそうである。


 記事の判決では「取り調べで虚偽の自白を作り出すなど、警察の捜査に違法性があった」と指摘している。


 しかし、控訴審でどのような判断をするのかは不明である。



2015年03月06日(金) 美濃加茂市長に無罪

 日経(H27.3.6)社会面で、岐阜県美濃加茂市の雨水浄水設備を巡り、業者から現金30万円を受け取ったとして受託収賄罪などに問われた藤井浩人市長について、名古屋地裁は無罪を言い渡したと報じていた。


 贈賄側は「現金を渡した」と供述していたが、裁判所は「その供述の信用性に疑問があり、現金の受け渡しがあったと認めるには合理的な疑いが残る」と判断したものである。


 贈収賄など密室で行われる事件で、贈賄側が「現金を渡した」と供述した場合には、「自分も罪に問われることになるのだから、虚偽の供述をするはずがない」と考えられて、その供述は信用され、収賄側は有罪になるのが通常である。


 それだけに、虚偽の自白があった場合には怖いものがある。


 今回の事件で裁判所は、贈賄側の証言を虚偽であるとしたのであるが、検察庁は控訴するはずであり、名古屋高裁が、再び、証言が虚偽であるとして無罪を言い渡すかどうかは分からない。



2015年03月05日(木) 労災給付を賠償金の元本と遅延損害金のいずれから控除するか

 日経(H27.3.5)社会面で、過労死で勤務先から損害賠償を受ける場合、別に支払われた労災給付を賠償金の元本と遅延損害金のいずれかから控除するかが争われた訴訟で、最高裁大法廷は、元本から差し引いて計算するとの判断を示したと報じていた。


 最高裁が、大法廷において判断したのは、これまで見解が分かれており、統一的な判断をする必要があったからであろう。


 交通事故の場合にも同様な問題が起きていることから、この最高裁の判断は実務的に影響が大きいと思われる。



2015年03月04日(水) また弁護士が横領

 日経(H27.3.4)社会面で、未成年後見人などとして管理していた預金計約1200万円を着服したとして、東京地検特捜部は、元弁護士松田豊治容疑者を業務上横領容疑で逮捕したと報じていた。


 またかという思いであり、その弁護士には相応の刑罰を受けてもらうしかない。


 ただ、おそらく横領されたお金は返ってこないだろうから、一番の被害者は横領された人たちである。


 現在の弁護士賠償保険では、横領の場合には保険が出ないが、保険料が高くなってでも、横領の場合でも保険が出るような仕組みがつくれないだろうか。



2015年03月03日(火) 商法の現代語化、ひらがな化

 日経(H27.3.3)1面「春秋」欄で、商法の条文のひらがな化について述べていた。


 戦前に成立した法律は文語体カタカナ書きであったが、近年は刑法や民法などで現代語化ひらがな化が進み、基本六法で残るのは商法の一部のみだった。


 法務省は商法についても現代語、ひらがな書きに改める方針とのことである。


 法律の勉強を始めたときは、民法、刑法、商法、民訴法など多くの法律がカタカナで書かれており、それが嫌で仕方なかったが、慣れというのは恐ろしいもので、いまではカタカナの条文であっても違和感なく読める。


 そうはいっても、法律は誰でも分かりやすく、読みやすいものであるべきで、現代語化、ひらがな化は当然である。


 ところが、最近制定される法律は、現代語、ひらがなで書かれてはいるが、一読しただけでは意味が不明なものが多くなっている。


 表現の厳密化を優先したためであるが、誰が読んでも分かるという趣旨には反しており、もう少し工夫すべきであろうと思う。



2015年03月02日(月) 保護者としての適格性が疑問視される結果に

 日経(H27.3.2)夕刊で、川崎市の中学1年生が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕されたグループリーダー格の少年が「カッターを使い殺害した」と容疑を認める供述をしていると報じていた。


 この18歳の少年が逮捕される直前、父親が弁護士を通じて、18歳の少年は「犯行時、自宅にいた」と、アリバイがあると述べていたが、それは誤りであることが示されたことになる。


 冤罪である場合には、その旨をマスコミに積極的にアピールすべきであるが、それは慎重な判断の下で行うべきであろう。


 逮捕された18歳の少年の父親は、自分の子どもをかばったと見られかねず、今後の裁判において、保護者として適格性が疑問視される結果になったと思われる。


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