今日の日経を題材に法律問題をコメント

2014年12月29日(月) 死刑と無期懲役刑が近づいている

 日経(H26.12.29)社会面で、執行されていない死刑囚が12月末時点で、昨年より減少して129人となるという記事が載っていた。


 法相の交代などで死刑の執行は減っているのに死刑囚が減ったのは、病死が多かったためである。


 死刑があまり執行されず、病死が多いということになれば、死刑が実質的に終身刑になっているということを意味する。


 他方、無期懲役刑はほとんど仮釈放されなくなってきており、こちらも終身刑に近くなってきている。


 このように死刑と無期懲役刑が運用によって近づいているのは問題であり、両者を区別した運用を図るべきではないだろうか。
(死刑執行を増やして区別するのか、無期懲役刑の仮釈放をもっと認めて区別するのが大きい問題ではあるが)。


1月5日から再開します。



2014年12月26日(金) 犯歴の情報漏えい

 日経(H26.12.26)夕刊で、千葉県警は、女性巡査長が36人分の犯歴情報などを上司だった県警OBの男性に漏らしていたとして、巡査長を減給処分にしたという記事が載っていた。


 かつては、犯歴情報などを警察OBに普通に漏らしていたが、いまだにそのようなことを行っているのかと驚いた。


 警察にある情報は、行政側にとっても、当該情報の個人にとっても非常に重要なものであり、間違っても漏えいがあってはならない。


 千葉地検は、この巡査部長を起訴猶予としたが、処分として軽いのではないだろうか。



2014年12月25日(木) 判事補の採用者数は変わっていない

 日経(H26.12.25)社会面で、最高裁は、司法修習を終えた1973人中、101人を判事補として採用することを決めたという記事が載っていた。


 司法修習の修了者は20年前よりも4倍になっているが、判事補になる人数は変わっていない。


 裁判の長期化については批判が強いが、迅速な裁判を目指すのであれば、採用者を倍にして、裁判官を増やした方がよいのではないだろか。



2014年12月24日(水) 控訴期間ぎりぎりの控訴はすべきでない

 日経(H26.12.24)夕刊で、車上荒らし被害に対する保険金の支払いを巡る民事訴訟で、大阪地裁が控訴期限の起算日を誤って記録したため、保険会社側の控訴が、控訴期限が過ぎたとして大阪高裁で却下されていたという記事が載っていた。


 それを不服として保険会社側が上告したところ、最高裁が大阪地裁の誤りの可能性を指摘して、審理を差し戻された。


 その後、大阪高裁は、車上荒らし被害の自作自演を認定して、保険会社側が逆転勝訴したとのことであるから、保険会社としては事なきを得たということになった。


 私自身も似たような経験をしている。


 一審で敗訴した相手方が控訴したのだが、控訴期間を1日徒過していた。それなのに裁判所が控訴を受理したので、その理由を裁判所に聞いたところ、どうも裁判所書記官が、控訴期間の徒過日を誤って伝えたためのようであった。


 要するに裁判所でも誤りはあり得るのである。ただ、代理人としては、それを前提に行動すべきであろう。


 その意味で、保険会社が控訴期間の最後の日に控訴したことは反省すべきであると思う。



2014年12月22日(月) 第三者委員会設置で重視する要素

 日経(H26.12.22)法務面で、不祥事を起こした企業が第三者委員会を設ける例が増えているが、企業が第三者委を設けるときに重視する要素のアンケート調査結果(複数回答)について書いていた。


 それによれば、「メディアの報道」が72社(40%)、「監督官庁の指導」が48社(27%)、「警察や検察などの強制捜査の可能性」が42社(23%)であった。


 どうも、第三者委員会の設置に際しあまり自主性は感じられず、仕方なく設置する様子がうかがえる。


 とくに、警察や検察などの強制捜査の可能性があるときに、第三者委員会を設置しても、捜査の抑制になるはずがなく、何の意味もない。


 第三者委員会の設置の動機がそのように自主性がないのであれば、自ずと設置された第三者委員会への信頼もないものになってしまうであろう。



2014年12月19日(金) 巨人元球団社長清武氏に160万円の賠償命令

 日経(H26.12.19)社会面で、プロ野球巨人のコーチ人事を巡って「不当介入があった」と記者会見し球団代表を解任された清武英利氏と、会見で名誉を傷付けられたとする読売新聞グループ本社側が、互いに損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁は清武氏に計160万円の賠償を命じたと報じていた。


 清武氏は球団代表だった2011年11月に会見を開き、グループ本社の渡辺恒雄会長からコーチ人事に不当介入されたと述べたことが問題になった。


 ただ、判決では、「清武氏は、取締役会を招集せずに会見を開き、非公開情報にあたるコーチ人事案を球団に無断で公表したのは取締役としての注意義務違反に当たる」とされており、コーチ人事の内容や不当介入だったか否かは問題にしていない。


 このような会社内の紛争では、法律などに基づき手続きを適正に行ったかどうかということがもっぱら問題になるからである。


 もっとも、巨人側は清武氏に1億円の賠償を求めているから、160万円という賠償金額であれば、実質的には相討ちといえるかもしれない。



2014年12月18日(木) 入れ墨調査は違法か

 日経(H26.12.18)社会面で、大阪市の入れ墨調査に対する回答票の提出を拒み、戒告の懲戒処分を受けた市交通局職員が、処分の取り消しなどを求めた訴訟で、大阪地裁は、調査は違法として処分を取り消したと報じていた。


 判決では、調査について「社会的差別の原因となる恐れがある個人情報の収集を原則禁じた市個人情報保護条例に違反して無効」と判断したそうである。


 しかし、日本では、公務員が入れ墨をしていることは受け入られていないと思われるから、その調査をすること自体が違法というのはなかなか難しいのではないだろうか。


 大阪高裁の判断が注目されるところである。



2014年12月17日(水) 控訴審での被告人質問

 日経(H26.12.17)社会面で、1995年の公証役場事務長拉致事件について、一審で有罪判決を受けたオウム真理教元幹部平田信被告の控訴審初公判が、東京高裁であったという記事が載っていた。


 弁護側は、新たに広瀬健一死刑囚らの証人尋問を請求したが、東京高裁は認めず、即日結審し、判決は来年3月4日とのことである。


 控訴審で即日結審することは以前から多かったが、裁判員裁判を経由した事件ではとくにその傾向が強くなった。


 もっとも、この事件では被告人質問は実施したようである。


 しかし、先日私が担当した控訴審では、被告人質問さえも認めなかった。


 被告人質問も認められないとなると、控訴したのに自分の言い分を話す場がないことになり、被告人に相当不満が残る。


 それは、被告人の今後の更生にとって望ましいことではないと思う。


 それゆえ、いかに一審の審理を尊重するといっても、控訴審で被告人質問さえも認めないというのは、行き過ぎであるように思う。



2014年12月15日(月) 最高裁裁判官の国民審査制度

 日経(H26.12.15)社会面で、衆院選と同時に実施した最高裁裁判官の国民審査で、5人の裁判官全員が信任されたと報じていた。


 国民審査制度は、最高裁裁判官に対する民主的コントロールのためのものであり、理念としては素晴らしいと思うが、国民の関心は低く、実態は形骸化している。


 それゆえ、国民審査制度は廃止して、むしろ、最高裁裁判官の選任過程をもう少し透明にした方がよいと思う。


 ただ、そのためには憲法改正が必要であるが。



2014年12月12日(金) 労働審判制について

 日経(H26.12.12)社説で、労働審判制について書いていた。


 労働審判制とは、解雇や残業代の不払いをめぐる争いなどについて、審判を原則3回程度で終了するなど、迅速に処理する仕組みである。


 社説では、労働審判制を評価しつつ、課題の一つとして、早期決着を図るあまり、最初から金銭による解決に誘導しているケースがあるとしていた。


 確かに、解雇が無効であるのに金銭的解決に強引に誘導するならば、それは解雇の金銭解決制度と同じことになってしまう。


 ただ、小さな企業では、解雇無効になって職場復帰したときに、お互いがギクシャクすることは避けられない。


 それゆえ、金銭的解決を試みることが不当であるとは思えない。


 しかも、金銭的解決に不満であれば、和解を拒否して裁判所の判断を求めることが可能である。そのような姿勢を示しているのに、裁判所が強引に金銭的解決に誘導するような運用はしていない。


 したがって、この点は「課題」というほどのことはないのではないだろうか。


 労働審判制は、企業側にとっては大変であるが、労働者側からすれば使い勝手のいい制度であり、今後も申立件数は増えると思われる。



2014年12月11日(木) 無罪になる可能性もあるのでは

 日経(H26.12.11)社会面で、京都府向日市で、死亡した夫の遺体から青酸化合物が検出された事件で、京都地検は、夫に青酸を服用させて殺害したとして、妻の筧千佐子容疑者を殺人罪で起訴したと報じていた。


 しかし、千佐子容疑者は容疑を否認しており、また、青酸化合物の入手ルートも不明のようである。


 つまり、夫の遺体から青酸化合物が検出され、その青酸化合物が容疑者の自宅から出てきたというだけであり、どのように服用させたのかも分っていない。


 他にどのような証拠があるのか分からないが、無罪になる可能性はあるように思う。



2014年12月10日(水) 想定外の法定相続人が発覚した場合

 日経(H26.12.10)23面の「もしものホーム法務」のコラムで、想定外の法定相続人が発覚した場合の事例について書いていた。


 すなわち、父が亡くなり、一人息子のAさんが父の戸籍を調べたところ、認知していた子供Bさんがいたことが分かった。ただ、父の公正証書遺言には財産すべてをAさんに相続させると書かれていた。
 法定相続人にあたるBさんには連絡すべきだろうか。


 これについて上記コラムでは、「相続に詳しい弁護士」は、「あえてBさんには連絡しないほうがいい」というアドバイスしていた。


 しかし、そのアドバイスは正しいのだろうか。


 多くの金融機関は、払い戻しの際に相続人全員の署名を要求するので、他の法定相続人に連絡しないとなると、任意の払戻はできない。


 そのため、金融機関に対し訴訟することになるが、それは手間である。


 しかも、他の法定相続人には遺留分があるから、10年間は遺留分減殺請求されるおそれがある。


 それらの事情を考えると、多くの弁護士は、連絡しなかった場合のリスクを伝えて、依頼者に判断してもらうのではないだろうか。


 少なくとも「他の相続人に連絡しない方がいい」というアドバイスまではしないと思う。



2014年12月09日(火) 校長にも労務管理の意識と知識が必要

 日経(H26.12.9)社会面で、東京都立中に新任教諭として赴任したが、1年間の研修後に正式採用されず、分限免職となった男性が処分取り消しを求めた訴訟で、東京地裁は「学校の指導体制に問題があった」として処分の取り消し請求を認めた。


 判決によると、男性には、指導教員が付いていたが、校長が「課題の期限を守らないなど問題がある」として指導教員を外し、後任も付けなかった。その後、校長が正式採用に反対する評価書を都教委に提出し、男性は研修期間後、免職された。


 これに対し裁判所は「学校側に指導体制の基本が欠けていた」とした。


 判決では「男性にも問題はあった」としているから、校長が正式採用に反対したのはそれなりに理由があったのだろう。


 しかし、当該男性は、企業でいえば試用期間であり、労働契約が成立している状態である。


 そうすると、能力がないといっていきなり正式採用を拒否はできないのであり、それは管理者として当然知っておくべき知識である。


 校長は管理職なのであるから、労務管理の意識と知識が必要ではないだろうか。



2014年12月08日(月) 「処分保留で釈放」はおかしい

 日経(H26.12.8)社会面で、東京地検は、わいせつ物公然陳列容疑で警視庁が逮捕したアダルトショップ経営で作家の女性を処分保留で釈放したという記事が載っていた。


 この女性は、女性器の石こう模型を店のショーケースに展示したとして逮捕されていたものである。


 ところで、記事の「処分保留で釈放した」という表現は気にかかる。


 これでは処分を保留したことにより釈放になったと読める。


 しかし、釈放されたのは、検察側が勾留請求したが、東京地裁が請求を却下したため、被疑者を勾留する法的根拠がなくなったためである。


 そうであれば、「処分保留で釈放した」ではなく、「処分保留のまま釈放した」とすべきであろう。



2014年12月04日(木) 勾留請求を却下する件数が増えている

 日経(H26.12.4)社会面で、逮捕した被疑者に対する勾留請求を裁判所が却下する割合が年々増えていると報じていた。


 10年前まで1000件に1件程度だったが、2010年には100件に1件を超え、さらに上昇傾向が続いているそうである。


 1000件に1件となると0.1%に過ぎないから、裁判官の立場からすれば、勾留請求を却下するには相当勇気がいるであろう。


 ところが、100件に1件になると、裁判官が勾留請求を却下するのにそれほど抵抗はないと思われる。


 それゆえ、今後も勾留請求を却下する割合は増えていくと思う。


 とくに、最高裁は、今年11月の痴漢事件において、被疑者による罪証隠滅の現実的可能性が低いとして、勾留請求を却下した一審の判断を支持しているから、痴漢事件では被疑者を勾留しないことが原則になるかも知れない。



2014年12月03日(水) タカタが第三者委員会を設置

 日経(H26.12.3)14面で、自動車部品大手のタカタは、エアバッグの欠陥問題で、第三者委員会を設置して、大規模リコールにつながった原因などを独立した立場から調査してもらうという記事が載っていた。


 タカタの発表によれば、この第三者委員会は、エアバッグの安全な製造を行うため、製造工程を監査し、独立して報告書を作成し、そのために必要となるあらゆる資料及び経営資源を利用する権限を付与されるとのことである。


 しかし、エアバックの欠陥の原因はまだ特定されていない。


 そのような段階で第三者委員会がかかる調査するとなると、会社による原因調査と第三者委員会による調査と二重に行うことになり、原因調査がかえって遅れてしまうのではないだろうか。


 最近は、企業が問題を起こせば第三者委員会を設置することが流行っているが、このケースで果たして妥当なのだろうか疑問である。



2014年12月02日(火) コントロールド・デリバリー(泳がせ捜査)

 日経(H26.12.2)社会面で、神奈川県警は、米国から運び込まれた覚醒剤約17キロを、コントロールド・デリバリー(泳がせ捜査)で岩塩とすり替えられたのを知らずに所持したとして、会社役員の男性を麻薬特例法違反(所持)容疑で逮捕したという記事が載っていた。


 コントロールド・デリバリー(泳がせ捜査)といってもそれほど大げさなものではなく、空輸便でくる荷物の中に違法薬物が発見された場合、それを岩塩などにすり替えて、そのまま荷物の宛先に届ける手法である。


 荷物を受け取った側の者が所持しているのは違法薬物ではなく、単なる岩塩に過ぎない。


 岩塩を所持しただけで罪になるのかという疑問もあるが、このような場合を想定して法律は次のように定めている。


 「薬物犯罪を犯す意思をもって、薬物その他の物品を規制薬物として所持した場合には、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」


 この規定により、岩塩を所持していただけで罪になるのであるが、ただ、違法薬物を所持していたわけではないから、法定刑は軽くなっている(例えば覚せい剤の所持は懲役10年以下である)。



2014年12月01日(月) 企業トップの責任は重い

 日経(H26.12.1)法務面で、価格カルテルや入札談合などの独禁法違反について、「トップが断つ」として、日本郵船では全部門長に社長が直接指導したり、日立ではグループの各社長に対して社長研修を実施しているとの記事が載っていた。


 このような研修をするのは、独禁法に違反した場合、刑事訴追・行政処分で企業に罰金や役員・社員に刑事罰が科されたり、会社や役員が取引先等から損害賠償を求められたり、株主代表訴訟で役員が賠償金の支払いを請求されたりするリスクがあるからである。


 価格カルテルや入札談合などは、企業の一部門が行うことが多く、社長は知らないこともあり得るが、たとえその場合でも過失責任を問われることはあり得るし、そもそも、企業のトップとして、多額の罰金や損害賠償義務を負うリスクを回避することは当然の義務であろう。


 価格カルテルや入札談合などは、企業のトップが範を示さないと根絶できないと思われるだけに、トップの責任は重いと思う。


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